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「それで?ちゃんと説明してくれるんですよね?」
タイミングを計ったかのようにやって来た3人の指導教官に、これでもかと言うほどに鋭い視線を向ける。
「なっはっはっは。いやいや、俺も良くわかんねえんだけどよ、こうすれば護の修行になるって奏が言うからさぁ」
豪快に笑う東さんの両脇には、なぜか気を失った久賀くんと甘楽さんが抱えられていた。ケガはしっかり治療されているようですけど、どういうことなんですかね大間々先生?
「説明、したいのはやまやまなんですが、今はほら、2人の治療をしないといけませんので」
刀司の横にかがみ込んで治療の魔法を使っていた大間々先生は、俺の視線に気づいてそう言ったが、俺と目を合わせるつもりはないようで、こちらを向くことはなかった。
「いやいや~、奏ちんが説明しないんなら~、俺があることないこと吹き込んじゃおっかな~。いや~、それにしても小雪ちゃん。その格好どうしたの?エロすぎじゃない?」
「ぎゃあああああぁ!近づかないでください変態教師!」
「んじゃ~、こっから観察させてもらうね~!」
「観察するなあああああぁ!いやあああああぁ!変態チャラ軽薄男に視姦されるうううぅ!」
「ぐっへっへっへ!良いではないか良いではないかぁ~っぐえいってぇ、何すんだよ中里くん」
カスの後頭部に蹴りを入れただけですが何か?
「うちのバディをあんま変な目で見ないでもらえますか?」
「うわあああぁ、護くうううぅん!」
「ちぇえ、ちっとくらい良いじゃんか~。俺だってけっこうがんばって仕事してたんだよ~」
「へぇ、それはお疲れ様でした。でも、それと小雪のエロい姿をガン見するのは違いますよね?あの魔法解除してくれたら、多少労りの言葉をかけてあげますけど?」
「ちょいちょい!中学生でそんな殺気放っちゃダメっしょ!わ~った、解除しますよ。だからその殺気引っ込めてよ~!」
別に殺気なんてだしてないよ?それに、粕川先生だって別に本気でビビってるわけではなさそうだし。
「ほいじゃあちょちょいっと、リリース」
「あっとっと、うわぁ、解けた!良かったぁ、ありがとう護くん!」
「いやいや、解除したの俺なんすけど?」
「お疲れっした、粕川先生」
「かるー!中里くん、いくらなんでも軽すぎじゃない?こっちはけっこう危ない橋渡ってきたんだよ~?」
そんなん知らんし、小雪をエロい目で見たのには変わりない。そんなヤツに心を尽くしてやる必要なんてないのだ。
「ふう、2人の治療は終わりましたよ」
大間々先生によって治療が終わった刀司と上野さんは、汚れこそあれど傷1つ残っていなかった。
「それじゃあ今度こそ、ちゃんと説明を聞かせてください」
「はぁ、そうですよね。説明しないわけにはいきませんよねぇ。先に言っておきますが、私はまだ粕川くんを信頼したわけではありませんからね?」
「へ~へ~、わかってますよ~」
「それでは改めて、この度の騒動、本当に申し訳ありませんでした、護様」
片膝をついて、右手を胸に当てながら、大間々先生は深々と俺に頭を下げる。その行為だけでも意味不明なのに、なんで俺のことを様付けで呼ぶんだ?
「私のテリオリスでの名前はカナデ・リーン・オオママ。フォルティア王国で子爵の位を賜る貴族です。王妃様より護様を警護するように仰せつかっておりました」
抜けてるところはあるけど、たまに優雅な雰囲気があると思ったら、実は御貴族様だったのか。異世界に行って功績を立てて貴族になる。あるあるだな。
「ちょっと待って、フォルティア?王国の王妃様がどうして俺なんかの警護を?俺、いたって普通の中学生なんだけど?」
「ふふ、そんなことはありませんよ。確かにここへ来たばかりのステータスは平凡でしたけど、東さんの訓練を耐えきって、規格外のステータスを手に入れたじゃないですか」
確かにレベル20って言ってた鈴木さん(仮)よりもステータスが高いなぁとは思ったけども、規格外ってなんだよ!
「でもこの間、東さんが他の生徒とステータスが違いすぎるって・・・・・・」
「ありゃあ、護と小雪のステータスが高すぎるって意味だよ」
どうして俺たちのステータスがそんなに規格外な数値を誇っているのか。その理由は、魔素にあるらしい。
異世界と地球が統合されてから、地球にも魔素と呼ばれる成分が溢れるようになった。これはスキルや魔法を使用するときに消費する霊力の元にもなるが、本来は生き物が成長するために必要な成分らしい。
異世界の人たちは、生まれる前からこの魔素に触れながら成長するのが普通のため、地球の人間と比べて身体能力がかなり高いらしい。
それに比べて、俺たちは急に魔素が溢れた環境に置かれたため、筋トレやランニングをするだけで爆発的にステータスを向上することができるらしい。
ただ、これには問題があって、体ができあがっている人間。つまりは鈴木さん(仮)のような筋肉の塊は訓練によって育つ部分が少ないため、魔素の取り込める量が少なくなるんだとか。刀司たちみたいに普段から体を作ってる人たちも、何もやってない人に比べて魔素を取り込める量は少なくなるみたい。初期ステータスは高いけどあんまり上昇しないってこと。
「だからよ、護みたいになよっとしてるが根性のありそうなヤツが、一番成長しやすいんだ」
だからあの時、俺を無理矢理弟子にしたってわけね。納得です。
「そんな規格外に育ったから誘拐されそうになったってことですか?だったら、俺よりレアスキルを持ってる小雪の方がターゲットにされそうだけど」
「いいえ。ステータスは関係ありません。というか、護様は直接王妃様とお会いになっていますよね?」
「もしかして、水姫さんのことですか?」
直接会ったのは1回だけだけど、知ってる人だった。しかもわりかし近しい親戚だ。
「護様のお父様は、つい先日フォルティア王国の公爵として迎え入れられました。そのついでに第一王女殿下と護様のご婚約も発表になりまして、それを気に入らなかったミサカイ皇国の間者が鈴木さんに隷属の刻印を刻んだのかと」
「「「はあああああああああぁ?」」」
なんか俺と同時に叫んだヤツがいたような気がするけど、それどころじゃない!お父さんが貴族になってたのだって些事だよ!婚約発表ってなんだよ!王女ってことは水姫さんの娘だからミナモちゃんのことだろ?
「いやいやいやいや、俺婚約なんて了承してねえじゃん!言質とれてませんけど?」
「貴族や王族の婚姻とは、親同士が決めることが多いですからね」
「あんのくっそ親父!自分の地位のために俺を売りやがったなああああああぁ!」
「ええとぉ、護様?今回の事件の引き金は間違いなく婚約発表ですけど、以前から護様はミサカイ皇国に狙われていたのですよ?」
「なんで?」
「王妃様の血縁である護様の身柄を確保すれば、外交の札として有利になるかもしれませんから」
かもしれない、だけで命狙われてたって?政治の世界って怖すぎだわ。
「まあ、ミサカイ皇国の動向については、私よりも詳しい人に聞いた方が良いでしょう」
「詳しい人?」
「あ~、やっと出番?待ちくたびれちったよ~」
なぜか待ってましたと言わんばかりにこちらにやって来る粕川先生。
「えっと、クズとカスしかいませんけど?」
「ちょいちょい!俺だって一応ミサカイ皇国の貴族なんだぜ~。まあ~、俺の場合は名ばかりで偉くもなんともないけどね」
粕川先生が俺を誘拐しようとしていた国の貴族?それってつまり、俺の敵ってことでは?
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