1-36
「はああああぁ!」
最初に動いたのは鈴木さん(仮)だった。右手のロングソードを振り上げ、こちらに向かって突進してくる。
「っし!」
「バックステップ!」
頭部を狙った切り落としと同時に、左手のロングソードによる胴を狙った横薙ぎが迫る。慌ててスキルを使用して後方に飛び退くと、さらに追撃の突きが放たれる。そこをギリギリのタイミングで盾を差し込んで防御すると、盾に当たった瞬間にロングソードは大きく弾かれる。
「まだだあああぁ!」
「っくぅ!シールドバッシュ!」
大きく体勢を崩しながらももう片方のロングソードで横薙ぎが放たれるが、こちらもギリギリの体勢でスキルを発動し、ロングソードごと鈴木さん(仮)の体を吹き飛ばした。
「そんな。どうして私が素人の中里くんに圧倒される?レベルも私の方が圧倒的に上だというのに」
圧倒なんてとんでもない。かなりギリギリの攻防だった。一瞬の油断がどれも致命傷になっていたと思うよ?
そんな俺の心情を読み取ってはくれなかったようで、鈴木さん(仮)はロングソードを鞘に収め、背中から大剣を抜き放った。
「手足の1本は覚悟してください。あちらの聖属性魔法で、部位欠損も治せるそうですから」
「いや、治るからOKってなるわけないですよね?嫌ですよ、痛いの」
「では、私と一緒に来てくださいますか?」
「それも絶対嫌ですね」
「仕方ありませんね。――身体強化!」
鈴木さん(仮)の全身を魔力の塊が包み込む。その直後、亀裂が入るほどの威力で地面を蹴った鈴木さん(仮)は、先ほど以上の速度でこちらに向かって向かってくる。
おそらく、威力は先ほどのロングソードと比べるまでもなく高いだろう。
だけどさ――
「はあああああぁ!」
大振りである大剣の太刀筋は、先ほどのロングソードよりもハッキリと見える。大剣の軌道上に盾を構えるのはこっちの方が楽だ。
そして、この『ひかりの盾』には、物理攻撃を反射する。いや、してくれるよね?あの攻撃が一定以上の威力があるからって、盾ごと斬られたりしないよね?
「あああああぁ!っんな!」
振り下ろされた大剣は、ひかりの盾によって弾き飛ばされる。良かったぁ、真っ二つにならないですんだぁ。
「身体強化を使った全力の一撃を、こうもあっさりと防がれるとは。どうやら私では、中里くんを捕らえることはできないようですね」
「あきらめてくれますか?」
鈴木さん(仮)は、苦笑しながら首を横に振った。この状況でも、まだあきらめてはもらえないか。こっちも鈴木さん(仮)を倒すすべがあるわけじゃないもんな。うちの攻撃担当は、亀甲で縛り上げられてるし。
「誤解しないでください。私は、中里くんを捕らえたいとは思っていないのです。ただ、これのせいで無理矢理従わされています。逃げたければ、私の意識を奪うか、殺すかしかないでしょう」
鈴木さん(仮)が迷彩服の袖をチラリとめくると、なんか厨二臭い刻印が刻まれていた。まさか犯人はうちの相方じゃないだろうな?
「小雪さん?正直に言ってみな。あれをやったのは小雪さんかな?」
「ちょおおおお!そんなわけないでしょ!なんで私が鈴木さんを操って護くんを捕まえる必要があるの?そもそも、私だったらもっと格好良くてスタイリッシュでデンジャラスな感じの刻印にするもん!あんなセンス無い刻印になんてしないもん!」
スタイリッシュでデンジャラスってどんな感じなんだよと心の中でツッコミを入れつつ、ため息を吐く。小雪が犯人じゃ無いとなると、果たして誰の命令でこんなことをしているのか。
鈴木さん(仮)の意識を奪うか、それとも殺すか。
さすがに人殺しはしたくないから、どうにか気絶させるしかないんだろうけど、俺1人ではかなり難しいと思う。
防御に徹すれば長時間耐えることができる。常に体力と霊力は回復してるからね。あとは集中力次第だ。
ただ、攻撃手段がほとんどない。
「ちなみに小雪、どうにか魔法使えない?」
「む、むむむ、ムリだよ!ちょっと動くだけで擦れて大変なんだよ?そんな状態で魔法使うほど集中できないよ!」
ふむ。亀甲縛りには魔法使いを封じ込める恐ろしい効果があるようだ。えろ・・・・・・いやいや、戦闘中に深く考えたりなんかしないからな!
「じゃあ、仕方ないか」
幸いにも、ひかりの盾は小さい。勝手に左手に装備されてるから、意識して掴む必要もない。ただくっついてるだけで回復してくれる。
盾を構えるのを止めて、拳を構える。相手をしっかりと見据えて、腰を軽く落とす。
はぁ、できればこんなことしたくないんだけどな。
「じゃあ、お望み通り気絶させてあげますよ。あの、できれば大剣でお願いします」
「大剣で?中里くん、あなたは防御を捨ててカウンターを狙っているのでしょうが、止めておきなさい。私はレベル21。筋力、俊敏は100を超えています。一歩間違えれば、ケガではすまないですよ?」
「え?」
「ですから、盾で防御を固めながら反撃をし、私の体力が尽きるのを待った方が良いでしょう」
「いや、100を超えてるって、具体的にいくつですか?」
「筋力が115、俊敏が107です」
え?あれ?聞き間違いかな?
「すいません、なんて?」
「驚かれたでしょう。地球人のトップアスリートでさえ、レベルアップしなければ筋力や俊敏は60を超えることが無い。その倍の数値となれば、まさに桁が違います。もはや私は。人としての常識をはるかに超えているのですよ」
「そ、そんなぁ」
がっくりと、膝から崩れ落ちる。
60を越えればトップアスリート以上。100を越えれば人の常識を超えるだと?
だったら、レベル5でそれ以上のステータスを持ってる俺は、普通じゃないっていうのかよ!
「もういいです、わかりました」
「わかってくださいましたか。では――」
「もうとっとと大剣で上段から斬り下ろししてください!」
「なんですって!」
「ちなみに、鈴木さん(仮)の耐久はいくつですか?」
「97ですが」
「わかりました。できるだけ加減はしますんで、死なないでください」
「なにを・・・・・・っく、申し訳ありません。体が、勝手に動いて・・・・・・お願いです。盾を・・・構えて・・・・・・うおおおおおおおおおおぉ!」
何やら腕に刻まれた刻印が光り出した。黒く輝き出すってああいうのを言うのか、なんて感心していたら、鈴木さん(仮)は大剣を抜き放ち、大上段に構えた。
「スキル:骨砕き!」
スキルで威力を強化された大剣は、今まで以上の速度と威力で俺の頭目掛けて振り下ろされる。
ただ、さっきのオオカミの攻撃に比べれば全然遅い。体をわずかにずらして大剣の軌道上から外れ、拳を軽く握り込む。
大剣が体の真横を通り過ぎるのと同時に、鈴木さん(仮)の顎目掛けて叩きこむ。
「カウンター!」
「ぐは!」
拳を振り抜かずに直撃と同時に手を止めたが、威力を殺し切ることはできずに鈴木さん(仮)の巨体は上空に打ち上げられ、放物線を描きながら吹き飛んでいった。
「ま、護くん、もしかして、殺しちゃった?」
「怖いこと言うなよ。ちゃんと加減はしたから大丈夫だよ。たぶん」
「なっはっはっは。あいつはあれでしっかり筋肉鍛えてたからな。死にはしねえだろ」
「笑いごとじゃないですよこのおバカ!ほら、終わったんですから早くみんなの治療をしますよ」
「そ~ね、うちの藤岡くんとマジでやばそうだから、早くおねしゃっす、奏ちん」
鈴木さん(仮)の心配をしてたら、なぜか東さんたちがいた?
いやいやいや、あんたらいたんならとっとと助けろよ!
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