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『乙女の祈りを贈られました。上野ひかりの祈りをスキルとして展開します』


 頭の中に響き渡るようにそんな声が聞こえて、俺の意識は無理矢理覚醒させられた。目を開けると、なぜか周囲は白一面の空間。さっきまでいたダンジョンの風貌とはまったく違っていた。


 巨大なオオカミと戦っていた記憶はあるんだけど、あの炎の渦に飲み込まれた後どうなったんだろう?


 小雪の魔法でちゃんと止めがさせたんだろうか?


『上野ひかりの祈りから、スキル『貴男と共に』を取得しました。スキル詳細を表示します』


 今がどんな状況なのか飲み込めないけど、とりあえず。


 スキルの名前変更してくれ!なにその恥ずかしい名前!しかも『貴方』って、俺が他の男と共にいることを望んでるみたいじゃん!


『・・・・・・スキル『あなたと共に』を取得しました。スキル詳細を表示します』


 標記の問題じゃないよ!いや、そこを変更してくれるんなら、もう少し名称を変更して欲しいんだけど。


『・・・・・・スキル詳細を表示します!』


 ああ、すいません。あきらめないでください。食い気味に先に進めようとしないでぇ。




スキル:あなたと共に

ひかりの盾を召喚し、装備する。


ひかりの盾

中里護と共に歩みたいと祈りを込められた聖なる盾。

盾の展開時に周囲の魔素を吸収し、体力・霊力を常時回復する。

物理攻撃・魔法攻撃を反射する。ただし、一定以上の威力を超える攻撃は反射できない。

上野ひかりが共にいる時、全てのステータスが2倍になる。





 なんか微妙にこそばゆいテキストが気になるけど、今はあまり意識しないようにしよう。


 そんなことより、今がどういった状況なのかわからない。


まだオオカミとの戦闘が続いているのか?みんなは無事なのか?そもそも俺は生きているのか?


『スキルの取得が終了したため、意識を覚醒します。現在戦闘中につき、十分ご注意ください』


 おおう。まだ死んではいなかったようだ。でも、まだ戦闘中?小雪の魔法でもあのオオカミは倒せなかったってことかな?


 あそこまでなりきっていた小雪が放った魔法で倒せないとなると、もう俺たちの火力で倒すのはムリそうだな。どうにか逃げられる方法を考えないと。


 ぷつん


 そんなことを考えていると、まるでテレビの電源を落としたかのように、突然世界が暗転した。


「いっでえええええええぇ!」


 その直後、体に猛烈な痛みが降りかかってくる。


 痛い?いや、熱い?なんだか全身が燃えるようなヒリヒリとした感覚が襲う。ぐうう、痛覚耐性のスキルがあっても意識がぶっ飛びそうなほどに辛い。


「あ、あなたと共に!」


 恥ずかしいスキル名を告げると、左手に純白の丸盾が出現する。いつも使っている盾の3分の1程度の大きさだ。盾が白い輝きを放つと、その光は俺の体を包み込む。


 熱を帯びたように温かな光は、焼けるように熱かった体の熱を吸い出して、新しい温もりを与えてくれているようだった。


「ふう、どうにか痛いのがなくなった」

「あの、えぇと、中里、くん?」


 腹の下から、困惑したような男の声が聞こえてきた。っていうかこの状況どうなってるの?足は地面についてないから、誰かに担がれているのか?


 いや、あのメンバーで俺を肩に担げる男なんて、1人しかいないか。


「鈴木さん(仮)ですか?」

「そうです。気がつかれてしまったのですね」

「え?はい。なんかまずかったですか?」

「いえ、大丈夫です。できればこのまま移動したいので、動かないでください」

「移動?あの、オオカミはどうなりました?まだ戦闘中だって」


 いや、周囲はかなり静かだ。戦闘中とは思えないほどに。しかし、俺の視線の先にはダンジョンの壁しか見えないので、何も把握することができない。


「ま、護くん!」

「小雪?」

「逃げて護くん!鈴木さんは、敵だよ!」

「口までしっかりと塞いでおくべきでしたね。ですが、このケガでは中里くんも動けないでしょう。今のうちに撤退させていただきます」


 まったくもって状況が飲み込めないけど、小雪が鈴木さん(仮)のことを敵だと言った。だったら、この人は敵なんだろう。


 それで、鈴木さん(仮)はどうやら俺を誘拐したいらしい。なんで俺?小雪とか上野さんとか、美少女がこんなにいるのに、ごく普通の俺なんかさらってなんの意味があるんだか。


「まあ、理由は後で教えてもらうことにして、まずはこの状況から抜け出さないとだな」


 だって、まだ小雪の声しか聞こえていないのだ。小雪だって、いつまでも俺の可愛らしいヒップばかりではあきてしまうだろう。


「シールドバッシュ!」

「っぐはぁ!」


 そっと、鈴木さん(仮)の後頭部にひかりの盾を当ててスキルを発動する。盾が鈴木さん(仮)の後頭部を強打した瞬間に、俺を担いでいる腕の力が弱まった。


「バックステップ!」


 鈴木さん(仮)の腕から抜け出して、さらにスキルを利用して鈴木さん(仮)から距離をとる。


 さて、これは思っていたより酷い状況だ。


 視認できる限りで言えば、刀司と上野さんは倒れている。多分気を失っているだけだと思いたい。そして、小雪はかなりひどい状態だ。


「小雪、それどういう原理で・・・・・・いや、そんなことより、それは誰にやられたの?」

「あ、いや、その・・・・・・聞かないでもらえる?」


 いやいやいや、そんなわけにはいかないだろ!だって俺のバディが、謎の縄でエロい感じに縛られてるんだぞ?たしか、亀甲縛りだっけ?胸の部分が普段以上に強調されてて、目が離せな・・・・・・


「鈴木さん(仮)!いくらなんでも中学生の女子にこんなこと」

「あ、はい、たしかに、それはさすがにないな~とは思っています。私はただ、月夜野さんの魔法を反射しただけですので」

「え?つまり、小雪が鈴木さん(仮)を亀甲縛りしようとしたってこと?」

「ち、ちちち、違うよ!違うんだよ!私はただ、鈴木さんを魔法で拘束しようとしただけで、こんな縛り方をしようとは思ってないんだよ!」

「つまり、無意識に拘束魔法が亀甲縛りになったってこと?」

「・・・・・・ぷい」


 いや、視線をそらしたってダメだから!小雪さん、厨二病にプラスしてSとかMとかのご趣味をお持ちってことですか?


「どうしよう、俺のバディが変態過ぎる」

「ちちち、違うんだよ~!あれは、お家の教育で教えられただけで、そういう趣味があるとかじゃないんだよ?ただの護身術」

「ああ、はい。まあ、そういう家庭環境なら、しょうがないよね」

「ちょっと待って護くん!今絶対、うちの家族全員変態だと思ってるでしょ?違うからね?」

「さて鈴木さん(仮)、それじゃあ詳しく、話を聞かせてもらおうか?」

「ええ、その方が良いでしょう」

「まって~!2人して哀れみの視線を向けた後でスルーしないで!」


 とはいえ、これ以上月夜野家の性癖について語るわけにもいかないでしょ?俺としても、これ以上聞きたくないもん。


 それに、上野さんや刀司たちをこれ以上放置できないし、姿が見えない久賀くんや甘楽さんも心配だ。


「じゃあ改めて、どうして俺をさらおうとしたんです?」

「私はただ、この刻印によってあなたをさらうよう命じられただけです。それ以上、お話できることはありません。大人しく着いてきていただけないのであれば、多少強引な手段を執らせていただきます」


 この状況で強引な手段を使ってないとは言えないと思うけどね。


 最初から面と向かって戦ってくれた方が、俺としては良かったよ。


 ロングソードを両手に握った彼を見据えて、俺もひかりの盾と拳を構えた。






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