1-33
「ふあ~はっはっはっはっは!我が騎士よ、露払いはこの我自らが終わらせてやったぞ!」
「あ、ありがとうございます・・・・・・陛下?」
なんかボスよりやべ~のが近づいてきた。雑魚の殲滅が終わったんなら、もとに戻って欲しいんだけど、小雪さんは未だに界王にしてなんとかの守護天使様のままだ。
あとで絶対恥ずかしい思いをして悶え苦しむことだろう。力を手に入れるには、相応の対価が必要ってヤツか!
「陛下、あのオオカミは炎を自在に操り攻撃してきます。どうにか皆を連れて撤退したいと思うのですが」
「なに?炎を自在に操るだと?業火を守護する我を前にして、炎を操るとは不敬な駄犬め!真の炎とはなんなのか、この我が教えてやろう!」
「うっそだろ!逃げようって。相手はこの前のブタ野郎より強いんだぞ?」
「ん?先刻のあれは、我が騎士が一撃の下に屠って見せたであろう?ふむ、そういうことであるか。今度は我に同じことをやって見せろと――」
「言ってません!言ってませんから!逃げましょうって言ってるんですよ!」
「確かに、同じことをしても芸が無いな。よし、我が騎士よ。3分間だけ時間を稼げ。あの駄犬に、本物の地獄の業火というものを見せてやろう!」
そう言って、高笑いをしながら上空へと浮かび上がっていった。いや、なんで空浮いてるんだよ!どうなってんのそれ?
って、それどころではない。小雪が戦う以上、逃げ出すわけにはいかなくなった。いや、3分間だけ俺が殿を務めて、その間に久賀くんたちに撤退してもらおう。その後で、攻撃が通用しなければ小雪を引きずってでも逃げだそう。
「久賀くん、今のうちに上野さんを連れて逃げてくれ!」
「ふ、ふぎゃあぁ」
う、上野さんに潰されて気絶している、だと?
「ま、護!アタシ、絶対護をおいて逃げ出したりしないよ!」
「いや、そのバカ引きずってとっとと安全な場所まで移動してください!」
「で、でも!」
「でもじゃないですよ。マジで勘弁してください。今の俺には小雪1人守るのが精一杯です」
「アタシはもう、護が辛いときに見て見ぬ振りはしない!アタシは、護の隣を歩けるようになりたいんだ!」
「ギャオオオオオオオオォン!」
「ああもう!大事な話の途中で割り込んでくるなこの駄犬がああああああぁ!」
「へ?」
「ギャオン!」
へ?なに?
今、オオカミが俺に向かって突進してきた。それを盾で受けようとした瞬間に、横から何かが顔面にぶつかって吹き飛ばされた?
いや、拳を握りしめた上野さんが目の前にいるんだから、その何かってのは上野さんなんだろうけども。
オオカミだって、何が起こったのかわからず、きょとんとした表情?を浮かべてひっくり返ってる。
「3分だっけ?それまでにアタシがあの駄犬ぶっ殺して、どっちが護のバディにふさわしいかあの子に教えてあげるよ」
「ひいぃ!」
ど、どうしよう。上野さん完全にキレていらっしゃる。こんな姿、小学校以来だ。今日はお菓子持ってきてないから、誰にも止められないかもしれない。
「ぎ、ギャオオオオオオォン!」
自分を奮い立たせて必死に突貫するオオカミ。その姿にうっすらと笑みを浮かべた上野さんは、だん、と大きく地を蹴って同じようにオオカミに肉薄する。
「おりゃああああああああぁ!」
「グオオオオオオオオオォン!」
上野さんとオオカミの額が激突し、お互いにそのダメージを受けて吹き飛んでいく。
・・・・・・攻撃方法が頭突きって。
「あ、いや、上野さん無事?」
一瞬ぽかんとしてしまったが、慌てて上野さんが吹き飛んだほうに駆ける。そこには、すでに体勢を整えた上野さんが立っていたのだが、額からは大量の血が流れ出していた。
「う、上野さん、血!めっちゃ出てるよ!早く止血しないと!」
「大丈夫だよ、こんなかすり傷」
なにがかすり傷なもんか、そう思ったが、突如上野さんのおでこが白い光に包まれて、傷口を塞いでいった。
上野さんは聖属性魔法が使えるって聞いてたけど、その力なんだろうか?
「どりゃあああああ!」
「ギャアオオオオン!」
そして再び接近するオオカミと上野さん。今度はお互いが拳を握りしめ、近距離での殴り合いが始まる。
上野さんが顔面を殴りつければ、オオカミは巨大な腕を振り下ろす。
大振りなオオカミの攻撃を躱そうとするが、速度が早すぎるためか回避しきることができずにいくつもの攻撃が上野さんに当たっていた。対する上野さんの攻撃は、その悉くがオオカミに直撃しているが、致命的なダメージには至っていないようだ。
やはりステータスに差があるのだろう。このままだと、上野さんのほうが先に力尽きてしまう可能性が高い。さっきからちょいちょい聖属性魔法で回復してるようだけど、霊力だってそんなに長くは持たないはず。
2階の階段から上がってこないようにシールドを張り続けていたっていったから、1度は霊力が尽きているはず。しばらく霊力回復に努めていたといっても、たいした量ではない。
『アタシがあの駄犬をぶっ殺す!』と宣言していたが、その前に彼女がぶっ殺されかねないので、俺もできることをしよう。
「上野さん!俺があいつの攻撃を引き受けるから、隙をついて攻撃してください」
「そ、それってもしかして、はじめての共同さ――」
「ギャオオオオオオォン!」
「っぐぅおおおお!上野さん!今!」
オオカミの振り下ろしを受け止め、上野さんに指示を出す。しかし、なぜか彼女は頬に両手を当てて、もじもじとしていた。いや、何してんのこの人!
「っく、シールドバッシュ!」
オオカミの腕を振り払い、再び大盾を構え直す。しかし、オオカミは盾を構えている俺ではなく、もじもじくねくねしている上野さんに視線を向けたままだ。
俺ではなく、彼女のほうが驚異だと捉えているんだろう。まさにそのとおりだ!だって俺、攻撃を弾く以外してないもんな。
「だったら、俺も攻撃してやるよ。氷拳!」
「ギャン!」
氷拳。氷属性魔法レベル1で使えるようになった魔法。まだ体外への魔力放出が上手くできないので、殴った場所を凍り付かせるという、なんとも魔法っぽくない魔法だ。
炎を纏っているのですぐに氷は溶かされてしまったが、これで俺のことも意識しないわけにはいかなくなっただろ?
「グオオオオオオオオオォン!」
「っげ!まずい!」
2本の炎の塊が、巨大な腕に変化しながら俺と上野さんを同時に攻撃しようと動き出す。さすがにこの攻撃を受けたら、上野さんもタダではすまない、はずだ。
「ふぎゃあ!ま、護?」
上野さんを渾身の力で後方に吹っ飛ばし、2本の炎の腕を迎え撃つべく盾を構える。
「リフレクター!」
盾に当たった瞬間に炎の腕は霧散して消えていく。どうにか霊力も保った。もうすっからかんのガス欠状態だよ。
だから、この3本目だけはどうにもできそうにないなぁ。
最初の2本はただの囮で、この3本目が本命の攻撃だったみたいだ。威力が全然違う。
突き飛ばした先で、必死に何かを叫びながらこちらに手を伸ばしている上野さんはまだまだ元気そうだ。きっとすぐにでも逃げ出せるだろう。
上空では背後に無数の魔方陣を展開している小雪の姿があった。すでに攻撃態勢に入っているようだ。どんな攻撃をするのかだいたい予想がついてしまった俺は、小雪と同類なんだろうか。その攻撃であのオオカミが仕留められると良いな。
俺は盾を頭の上に構えて、オオカミを睨み付ける。
駄犬め、勝った気でいやがるな。この後お前には、界王にして業火の守護天使様からの鉄槌が下るんだぞ?勝ったのは、俺たちなんだよ。
ああ、良かった。今度はちゃんと、みんなを護れたんだ。
そう思った直後、俺の体はオオカミの放った炎の腕に飲み込まれた。
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