1-29
小学校4年生の夏、アタシたちは大切な幼馴染を1人、失ってしまった。
その日からかな、護がアタシや藤岡くんと距離をとるようになったのは。ずっと4人一緒だった関係は、一瞬で砕け散って、アタシたちはバラバラになってしまった。
普通だと思って退屈していた日常がどれだけ尊いものだったかなんて、失わないと気がつくことはできないんだ。
あれからずっと、アタシは近所のお寺に通って、神様にお願いを続けてきた。
『護とまた昔みたいに過ごせますように。ついでに藤岡くんも』
だからあの時、会議室に3人が揃ったのは、本当に神様がくれた奇跡なんだと思った。これからまた、3人で過ごすことができるんだって。
でも、それは一瞬の奇跡で、すぐに護はいなくなった。
学院で再会した時には、なんだかちょっとだけ雰囲気も変わってて、少し不安な気持ちになったけど、護のスキルはアタシが与えたものかもしれないって聞いて、そんな不安はどこかへ行ってしまった。
今は久賀くんや甘楽さんと一緒にパーティを組んでいるけど、アタシが護にスキルを与えたのなら、きっとパーティは再編される。藤岡くんとアタシと護。それから、護のバディだって言ってた女の子の4人でパーティが組めれば、3年間はずっと一緒。
もしかしたら、その後もずっと一緒に居られるかもしれないって、そう思ってたのに。
「ボスは、護くんが1人で倒しましたよ。ワンパンで!」
そう聞いて、今のアタシたちと護たちの間には、大きな差があるって知ってしまった。
どうして?
アタシだって学院に来てからは、護と同じように毎朝10キロのランニングをこなしているし、筋トレだって始めた。ステータスだって、倍くらいに成長したのに。
アタシたちは1階の魔獣に苦戦して、雑魚1体を倒すのにも何度も攻撃しなければいけなかった。
このままじゃダメだ。
きっとまた、護と離れ離れになってしまう。
「ダンジョンに入ろう!」
粕川先生には、しばらくの間ダンジョンへの入場を禁止されていた。理由は単純。引率の先生たちがいないから。
異世界の生徒たちを迎える準備のために、先生たちが一斉にいなくなるらしい。
これはチャンスだと思った。この期間なら、護たちもダンジョンに入ってレベルアップをすることはできない。だったら、開いている差を埋めるチャンスだ。
「でもでもでもさ~。粕川センセに禁止されたじゃん?勝手に入って大丈夫なん?」
「そうだな。僕も、粕川先生に叱責されて、自分の力不足に気がついた。とても先生の引率なしに、ダンジョンには入れない」
甘楽さんからは反対されるだろうと思っていたけど、まさか久賀くんまで反対するとは、予想外だった。この男は本当に、アタシの期待を常に裏切る。
「藤岡くんは?このままだと、どんどん護において行かれるよ」
「はっはっは、そうだなぁ。護の奴、しばらく見ない間にだいぶしゃんとしたもんな。昔みたいに」
笑ってはいるけど、その表情はどこか寂しそうに感じた。藤岡くんもきっと、あの頃のことを思い出したのかもしれない。
「それで?どうする?」
「行くよ。あいつの背中を追いかけるってのも昔みたいで懐かしいけどさ。せっかくなら、今度は隣に立ってやろうぜ!」
藤岡くんは、ダンジョンに入るために支給されたロングソードを手にそう答えた。さすがは幼馴染。思ってることは一緒のようだ。
「待って待って待ってよ!ホントに?本気で行く気なの?」
「行くよ。アタシたち2人でだって、1階の魔獣でレベル上げくらいできるもん」
「はぁ~わかったわかった、わかりましたよぉ。ボクたちも一緒に行くよ。パーティでレベルに差が出たら、入れ替えられちゃうかもしれないもんね」
あ~、ごめんね。パーティは入れ替えて欲しいんだ。少なくとも、バディは早急に。
「意外とあっさり入れたね、ダンジョン」
入場禁止と言うくらいだから、きっちり見張りの人がいると思ったんだけど、誰もいなかった。おかげですんなり中に入って、レベル上げができる。
昨日に比べて体も動くようになったし、魔獣を倒すことへの罪悪感も減った気がする。
「ここら辺の魔獣はあらかた倒し終わったな。またわいてくるのを待つか?それとも」
そう言った藤岡くんの視線の先には、2階へ続く階段があった。
「さすがに、まだ2階は早いだろう?レベルは上がったが、まだすんなりと倒せているわけではない」
「お~お~お~!リーダーがリーダーっぽいこと言ってるよ。ダイジョブ?なんか変な物でも食べた?」
「食べてないわ!僕は、リーダーとして当然のだな――」
「おい、なんかやばいのが来るぞ!」
2階への階段を見つめたまま、藤岡くんがロングソードを構えた。なんだろう?物凄く嫌な気配が近づいてくる気がする。
「ゥワオオオオオオォン!」
地鳴りのような足音と共に、遠吠えが木霊する。その声を聞いただけで、全身から冷や汗が噴き出し、体は急に重くなる。
「上野!階段の入り口に障壁出せ!ありったけだ!」
「わ、わかった!シールド!シールド!シールド!」
「ギャウン!」
3つ目のシールドを展開した直後に、何かがシールドに直撃した。その衝撃で、2つのシールドはあっさりと砕け散ってしまう。
「嘘でしょ!1階の魔獣の攻撃は1つでもびくともしなかったのに!」
明らかに規格外。今まで戦っていた魔獣とは全然違う。こんなのが上がってきたら、みんな死んじゃう。
「シールド!シールド!シールド!シールド!」
「ギャウン!ワオン!ウオオオオオォン」
シールドを展開しては壊され、また新しいシールドを作り出す。それでどうにか抑えられてるけど、すぐに霊力が尽きちゃう。
「シールド!シールド!みんな、早く逃げて!アタシが、抑えておくから、早く!」
「ば、バカを言うな!キミだけ残して逃げられるわけないだろ」
「で、でもでもでも、このままじゃ、全滅しちゃうよ。外に出て、誰か助けを呼んで来れば」
「しかし、いつまでも霊力が持つわけが・・・・・・」
「だったら、俺が残る。2人はとっとと助けを呼んで来てくれ」
いや、この脳筋バカ!アンタもとっとと逃げてよ。こんなことで、アンタまで死んじゃったら、絶対に護が悲しむ。
「上野が死んだら、護が悲しむからな。そんなこと、させらんねえだろ?」
「2人が死ぬより、どっちかが生き残った方が良いに決まってるでしょ?それで、この状況じゃあアタシが残るしかないじゃん!」
「はん!だったらあんな犬っころぶちのめして、2人で帰った方が護のためになんだろ?」
そんなこと言ったって、アレは明らかに次元が違う。素人のアタシでもそう感じるほどに力の差を感じる。
藤岡くんが残ったところで、倒せっこない。
「そう言うことだから、とっとと誰か呼んで来てくれ。まあ、俺が1人で倒しちまうかもしんねえけどな」
そう言って、藤岡くんは懸命に笑う。格好つけたつもりだろうけど、それ、死亡フラグなんじゃない?
「す、すぐに助けを呼んでくる!それまでどうか、死なないでくれ!」
「っく、ごめんひかりちん。絶対戻って来るから!」
そう言い残して、2人は走って行った。そうだ、これで良い。あの2人は、アタシたちが無理矢理連れてきちゃったんだから。
「アオオオオオオオォン!」
遠吠えと共に、アタシが展開したシールドは全て砕け散ってしまった。
飛び出してきた魔獣は、見上げるほどに巨大な、白銀の毛をした巨大な狼。
唸り声と共に、一歩一歩こちらへと近づいてくる。
それは死が、すぐそこまで迫っているのだと、そう感じざるを得なかった。
「あ~あ、結局、護と一緒にいられなかったなぁ」
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