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ご無沙汰してます!急な出張でしばらく更新できず、すいませんでした。

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「ブヒイイイイイイイィ!」


 俺たちの準備は全くできていない。なんだったら装備もない!


 あのクソアホ筋肉ダルマ、よりにもよって装備なしでボス部屋に放り込みやがった。


 どうすんの?これどうしたらいい?


 小雪は魔法使いだから装備なしでも魔法使えるから良いけど、俺のスキルは大盾を装備した想定で構成されている。


 つまり何が言いたいかって言うと、このままじゃ、俺何もできない!


「小雪、速攻で魔法撃ち込んで!」


 もうこうなったら、小雪に超強力な厨二魔法をぶち込んでふっ飛ばしてもらうしかない。それで倒し切れなかったら、俺が注意を引いて逃げ回って、倒せるまで繰り返し魔法をぶっこみ続けてもらう。


「う、うえええぇ。ぎぼぢわるい~・・・・・・オロロロロロロロ」


 お口から何が出てしまったのかは、小雪の名誉のために言わないけど、どうやら放り投げられたのがとどめになってしまったようだ。


「って、そろどこじゃない!小雪、魔法を!」

「ごめ・・・・・・しゃべると・・・・・・ブオロロロロロォ」

「ブヒイイイイイイイィ!」


 小雪のゲロと鳴き声を被せてくるな!


 ああああああ、もう!こうなりゃ、小雪の胃が空っぽになるまで俺が時間稼ぎするしかない!


「行くぞクソ豚野郎!」

「ブッヒイイイイイイィ!」


 俺を敵と見据えて駆けてくる豚の魔獣。ズシン、ズシンと駆ける度に大地が揺れる。あのウエイトから繰り出される攻撃は、とんでもない威力になりそうだが、速度はたいしたことないな。


 装備は腰に巻いたぼろっちい布だけ。武器も防具も無し。これなら、小雪が回復するまでどうにか・・・・・・


「ゆ、床が揺れてオロロロロロロォ・・・・・・吐きそう」


 吐いてるから!オロロロって言っちゃってるから!


 ああ、これは小雪が回復するのは無理かもしれないな。


「ブッヒヒイイイィ!」


 小雪に気をとられているうちに接敵してきた豚は、左腕を大きく振りかぶってこちらを殴りつけてくる。


「って、はや!」


 振り抜かれた拳をギリギリのところで躱す。躱すことはできたけど、その後突き刺さった拳は、地面に小さなクレーターを作った。


 その衝撃でゲロゲロオロオロしている小雪は、見なかったことにしよう。


「ブヒイ!ブヒイ!ブッヒイイィ!」


 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。


 鈍足が嘘のように早く、重い拳が次々に繰り出される。これを避け続けるのは、けっこう神経を使うぞ。


「はぁ・・・はぁ・・・も、もう出ないよぉ」

「こ、小雪。もう行ける?」

「ま、まだぁ・・・む、むりぃ」


 胃の中身がひっくり返っても、小雪は戦線に復帰できないようだ。魔法ってけっこう神経使うからなぁ。さっきまで目を回してゲロってたら、魔法を使う集中力は戻って来ないかぁ。


「くっそ、こうなったらこっちもスキル使うしかないか」


 ただ、大盾が無い状態で使えるスキルなんていくつも無いぞ。


「ブヒイ!ブヒイ!ブヒブヒブヒブヒィ!」


 それに、これだけ連続で殴られたんじゃ、スキルだって発動できない。


 せめて大ぶりな攻撃をしてくれれば。くっそ、拳の速度がどんどん早くなってきやがる。このままじゃ・・・・・・


「がはあ!」


 避けきれなかった拳が、腹に突き刺さる。鳩尾からは外れていたけど、胃液がぐんと上がってきたのがわかる。


 こ、このままでは、小雪とそろってゲロっちまうかもしれない。さすがにバディそろってボス戦でゲロるって、それだけは絶対に嫌だ。


「バックステップ!」


 使用すると体を自動で1m後方に移動させてくれるスキルだ。瞬間移動というわけではないが、タイミング良くスキルを発動させれば相手の攻撃を確定で回避することができる優れものだ。


 問題は、連続で発動できないことだけど、距離がとれれば逃げ回ることも可能だ。


「ほら、こっちに来いうすのろ豚野郎!」

「ブッヒイイィ!」


 背を向けて走り出した俺をブヒブヒ鳴き声をあげながら追いかけてくる豚野郎。マジで鈍足で助かった。走れば多少の距離が稼げるようだ。


 稼いだ距離を利用して、俺は豚に向き合って、軽く腰を落として拳を構える。


「ブッヒ!」


 俺があきらめたと見たのか、にたりと笑いながら、豚野郎は右腕を大きく振りかぶりながらこちらに走ってくる。


 よし、そのまま大ぶりの攻撃をして来い。大ぶりだぞ?ワンツーとかいらないからな!信じるぞ!


「ブッヒイイイイィ!」

「カウンター!」


 飛んできた高速の拳を紙一重で交わし、こちらも振りかぶった右の拳を豚野郎の顔面に叩きこむ。


 カウンター。


 自分の攻撃力に相手の使用した攻撃の1.5倍の威力をのせて攻撃を返す技。スキルを使用しても自動で攻撃を躱してくれるわけでもなく、自分で攻撃を躱さなければ発動しないという、とんでもなく使い勝手の悪いスキルだ。


 このスキルを習得するために、どれだけ東さんの拳を受け続けてきたことか・・・・・・


 とにかく、制約があるぶんかなり強力なスキルである。


「ぶ、ブッヒィ・・・・・・」


 豚野党の顔面に叩きつけた拳は、強烈な痛みとともに、何かがぐしゃりと潰れるような感覚が襲った。


 その直後、豚野郎の頭は赤い水を吹き出す噴水と化し、全身に力が入らなくなってしまったのか、ぐしゃりと音を立てながら倒れてしまった。


「う、オロロロロロロロォ」

「もらいゲロロロロロロロォ」


 とうとう、小雪と同時にゲロゲロしてしまった。


 だってしょうがないじゃない!頭を潰した瞬間に手に伝わってきた感触があまりにも気持ち悪かったんだから。


 ゲームとは違って、死体は血の海を作りながらその場に留まったままだ。当然モザイク処理なんてものもなく、口には出せない状態で目の前に転がっている。


 そこで改めて、生き物を殺したのだと実感がわいてきて、胃液がこみ上げてきそうになる。


「すごいね、護くん。1人で倒しちゃったよ!」


 口元を拭いながら、小雪は青い顔で微笑んでくれた。声をかけられたおかげで死体からそちらへと視線を移すことができたけど、今度は彼女の顔から目をそらすことができなくなってしまった。


 おそらく彼女の足下には、大量のアレがたまっているはずだ。それを見た拍子にこちらもつられて、なんて可能性が多いにある。


 いや、めっちゃ酸っぱい匂いするから、やっぱ小雪のほうに顔向けてらんないよ!


「あれ?」


 血の海とゲロの海から視線をそらすと、入り口とは別の位置に、下へと続く階段が現れていたことに気づいた。


 ボスを討伐したから、下へと続く階段が現れたってことかな?


「お~い、お疲れ~」


 さて、この後どうすれば良いのだろうかと思っていると、入り口が開いて東さんたちが入ってきた。


「思ったより時間かかったな。別にたいしたことなかったろ?」

「どの口がそんなこと言うんですか!せめて装備くらいちゃんと持たせてくださいよ!」

「ん?必要あったか?」

「必要あるかないかじゃなくて、心構えの問題ですよ!なんの準備もなく裸でボス戦に放り込まれれば、焦るに決まってるじゃないですか!」

「ふ~ん、そんなもんかぁ」


 ふ~んじゃないんだわ!そんなお気楽に死地に放り込まれてたまるかよ!


「はぁ、ステータス的には問題無いと思ってましたけど、ここまで強引にボス部屋に放り込むとは思っていませんでした。2人が戦っている間にしっかり叱っておきましたから、許してください」


 そうは言うけど、大間々先生だって俺たちを騙してボス部屋に放り込んだ張本人だよね?今日はあくまで見学だって言ってたのにさぁ。本当に、大人って汚いんだから!


「それで?レベルはどれだけ上がったんだ?」


 東さんの台詞に、俺は首を傾げた。









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