1-25
「粕川、後ろがつかえてるからとっとと行って場所空けてくれよ。お前の担当パーティ、とっくに接敵してるぞ?」
大間々先生と粕川先生の間に巨体を滑り込ませて、東さんが言った。どうやら、少しオコのようだ。
怒っているのは大間々先生が責められているからであって、ダンジョンの順番が待ちきれないからではない・・・・・・と思いたい。
「へいへ~い。わ~ってますよ、東さん。ただねぇ、お互い微妙な立場なんすから、探りを入れたり牽制すんのは当たり前じゃないっすか~」
「か~、面倒臭えなぁ。そんなこと言ったら、お前を護には近づかせらんねえだろ?」
教師同士の派閥争い、みたいな感じなんだろうか?そこでなんで俺の名前が出てきたのかだけは、甚だ疑問だけど。
「はぁ、そうでしょうね~。わかりました、今日はここで失礼しますよ~。うちはこれから1階の北東方面に進むんで、そちらは南西方面でも使ってください」
「おうよ。そうと決まれば、とっとと行けよ」
「へいへい。そいじゃあ皆さんもお気をつけて~」
そう言い残して、粕川先生はダンジョンに突入していった。それを見た大間々先生は、安堵の表情を浮かべてた。
「大間々先生、粕川先生と仲悪いの?」
「いや、まあ、そうですね。召喚された国の違いというかなんというか。でも大丈夫ですよ。生徒の皆さんにはご迷惑をかけないようにしますから」
「いや、無理だろ」
そんな異世界情勢を教育の現場に持ち込んでくんな!できれば教員同士でのドロドロとした派閥争いとか見たくない。そこに俺が絡まないことを祈るばかりだ。
「よし、それじゃあ改めて、これからダンジョンに突入する。いくぞ!」
「いや、もう少しなんか説明ないんですか?どんな構造になってるとか、1階はどんなボスがでるとか、転移ポータルがあるとかないとか、階層ボスがいるとかいないとか」
「ん?10階のフロアボスはハイオーク。オークの上位種で、自己回復のスキルを持ってるから、どんどん攻撃入れてかないといつまで経っても倒せねえから気をつけろ!」
「いやいやいや、なんでいきなり10階のボスの話が出てくるんですか!今日はダンジョン見学するんでしょ?」
どうしよう。嫌な予感しかしないというか、もうこの流れは間違いないというか。できれば間違いであって欲しいのだが。
「なっはっはっは!ダンジョンは10階ごとにフロアボスがいてな?そいつを倒して11階に行くと11階へのポータルが利用できるようになる」
「いや、11階じゃなくて1階の話をして欲しいんですけど?」
「大丈夫だ!10階のボス部屋までは、俺が抱えて突っ切ってやるから!」
そう言いながら、東さんはダンジョンへの入り口である巨大な門へと手をかざした。
その瞬間に、門は音も立てずに自動で内側へ開いていく。それを追いかけるように、東さんも中へと進んでいく。
「ほら、とっとと入ってこいよ」
言われるがまま、俺たちも門をくぐって中へと入っていく。
白い石畳が敷き詰められた床。壁や天井も白一面の世界。その中心には、緑色に光り輝く巨大なクリスタルのようなものが鎮座していた。
「まずは登録からだな。俺と奏は終わってるから、護と小雪。
「ようこそ風守ダンジョンへ」
「それで?もちろん東さんが倒してくれるんですよね?」
「・・・・・・」
「無言で笑みを向けてくるな!ハッキリ言えよぉ!」
「おっし。奏はおぶってくから背中に乗れ」
「はいはい。安全には気をつけてくださいね?」
おい、大間々先生もグルか?いや、見学はこの人が言い出したことなんだから、どちらかと言うとこの人が主犯か!
「ふ、2人とも、ちょっと考えなおしぶぎゃあああああああぁ!」
ズドンという効果音と共に、体が急速に前方に投げ出された感覚が襲う。もう何度も経験しているが、0から一瞬で高速に変わる瞬間は全然なれない。
「ちょ、え、お、あああああぁ!」
小雪もお嬢様が出してはいけない悲鳴をあげているようだ。俺と違って、こんな移動方法は初めてだろうから、恐怖も俺以上に感じているだろう。
「グアアアアァ!」
「ギャイン!」
どこからともなく何かの鳴き声が聞こえ、その直後に耳元でぶちんという何かが弾けるような音が聞こえる。何の音なのかは、考えたら負けだろう。
あまりの高速移動に、何も見えていないのは幸いだよ。生き物がはじけ飛ぶ映像なんて、ショッキングなものは見たくないからね。
ちなみに、ダンジョンの様子もわからない。全体的に土気色っぽい印象があるから、洞窟みたいな感じなんだろうか?
初めてのダンジョンを全く見学できてないんだけど。
「よっし、到着だ!」
その声が聞こえ、風圧からも解放された。うえぇ、気持ち悪い。かならふらつくけど、どうにか自分の足で立つことが出来た。少しは成長した?
隣には、ぺたんと座り込んだ小雪の姿が。頭がふらふらと回っているけど、大丈夫、ではないよね?
「小雪、大丈夫?」
「きゅううぅ」
残念ながら、小雪には耐えられなかったみたい。目を回して気絶しちゃってるよ。
初めてだし、しょうがないよ。俺もそうだったもん。
「それで、どこに到着したんですか?」
「どこって、ボス部屋だよ」
「嘘でしょ!?」
ダンジョン攻略RTAでもしてるのかよって速度で1階から10階まで移動しないでくれよ。
せめてもう少し、魔獣を見たりとか解説したりとかさぁ、あるじゃん?せっかくのダンジョンで、宝箱探しとかもしてみたいじゃんか。
しかし、目の前にはダンジョンの入り口にあったような大きな門がある。確かに、ゲームとかでよく見るボス部屋っぽい。
「それじゃ、早速護るから行ってみるか?」
「はあ?俺からって、ソロで行けってことですか?10階のボスを?レベル1の俺が?無理無理、死ぬって!」
この人、脳筋なんじゃなくてただのバカだろ!
「ちょっと東さん!バディなんだから、初めてのボス戦は月夜野さんと一緒に行かないとかわいそうじゃないですか」
いやいやいやいや、そこじゃないよね問題は!
こちとらレベル1で、ボスどころか普通の魔獣とすら戦ったことないんだってば。なんでボス戦が記念みたいになってんの?
大間々先生まで脳みそ筋肉に汚染されてきたんじゃないですか?
「ガチでボス戦やらせるつもりですか?」
「おう!」
おう!じゃねえんだわ。なに良い顔でサムズアップ決めてくれてんだよ頭くるなぁ。
「う、うぅ。気持ち悪うぅ」
「よし、小雪も目が覚めたな。マッドドールとの訓練通りにやれば問題ねえから、とっとと行ってこい。どりゃあ!」
「「うぎゃあああぁ!」」
いきなり首根っこを掴まれて、小雪と共に放り出される。空中に投げ出された俺たちの体は、ボス部屋の門を押し開け、部屋の中へ。
そのままお尻で着地を決めると、入ってきた門は勝手に閉まっていった。
「ブヒイイイイイイイィ!」
部屋の中心から、腹に響く低い音が聞こえる。
そして、ズシン、ズシンと床を揺らしながら、何かがこちらへと近づいてくる。
視線を向ければ、身の丈は2メートルを越える巨体の、二足歩行の豚の姿があった。
いや、これを豚と表現するのは正しくない。腕は人間のそれと遜色ないほどに長く、人間以上に太い。下半身は上半身に比べれば短いが、それでも人間と同様の長さをしている。
「ブヒイイイイイイイィ!」
部屋中に響き渡る咆哮。
人型であって人にあらず。その姿はまさにモンスター。
そんな相手を前にして、俺たちはなんの装備も持たずに放り出されていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
その頃指導教官たちは・・・・・・
「そういやあ、護に盾持たせるの忘れちまったな」
「はあ?何やってるんですかおバカァ!」
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