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早期入学の生徒が来てから1週間が経った。
だからどうしたというように、俺たちと早期入学の生徒たちとの関わりはほとんど無い。
なぜか俺と小雪だけは東さんと大間々先生の指導を受け、他の生徒は粕川先生と他何人かの指導教官が指導してるらしい。
「なんで他の生徒と訓練しないんですか?」
「そんなん、ステータス差があるからに決まってんだろ」
決まってるらしい。
上野さんのバディの少年も、早期入学の生徒はエリートとか、俺たちとは住む世界が違うみたいなニュアンスのことを言ってたから、相当優秀なんだろう。
別に俺は強くなりたいわけじゃないから構わないけど、小雪まで劣等性として扱われるのはかわいそうだ。
「そう言えば、あいつらはそろそろダンジョンに入るらしいぞ」
「マジですか。まだこっちに来て1週間なのに?」
「まあ、強くなるにはレベル上げが手っ取り早いからな。戦ってれば自然とスキルの習得もできるしな」
レベルアップかぁ。
レベルを上げるってことは、とうとう異世界に足を突っ込むみたいで嫌だ。自分が違うものになってしまうみたいで嫌だ。
自分が自分であるための、最後の防波堤みたいな感じで、ひたすらレベル上げから逃げてきたんだけど。今となっては日々の訓練でステータスがグングン伸びてるし、スキルだって覚えてしまっているから、本当に今さらって感じだよなぁ。
「小雪は、レベル上げしたいと思う?」
今までは完全に俺の都合でレベル上げを拒否してきたけど、小雪の意見もしっかり取り入れて行かないと。
他の生徒のレベル上げが始まって、これ以上差をつけられたら、優秀なスキルを持ってる小雪が可哀想だもんな。
「そうだね~、最近は体力もついてきたし、そこそこ連携も上達してきたし。マッドドールの相手も飽きてきちゃったし。そろそろ魔獣と戦ってみたいって気もするけど、生き物の命を奪うのが怖いって気持ちもあるの。だから、決めきれないな」
確かに、魔獣とはいえ命を奪う行為に忌避感があるのも当然だ。小さい頃から生き物の命を奪うことは悪いことだって教わってきたんだから。
それが、異世界と統合されて、レベルやステータスが現れたから、レベルを上げるために魔獣を殺せ?急に切り替えるなんてできないよ。
「決めきれないなら、1回ダンジョンを見学するっていうのはどうですか?もちろん私と東さんも同行しますから、安全ですよ。そろそろ訓練でステータスを上げるのも頭打ちになりそうだから、良い機会です」
「なっはっはっは。そりゃいいな。2人とも今のステータスなら、15階くらいまで潜っても問題ねえ。1階を見学するくらいなら大丈夫だろ」
というわけで、ダンジョンの入り口までやって来た。ここに来るのは2回目だけど、やっぱり威圧感がすごいな。
「おい!落ちこぼれがこんなところで何をしているんだ!」
「「うわぁ~」」
ちょっとドキドキしてたのに、一気にやる気が削がれた。それは小雪も同じみたいで、声をかけてきた人物を見て、露骨に嫌そうな顔をしている。
「この風守学院で最初にダンジョンに入るのは、僕たち第1パーティだ!落ちこぼれが僕たちよりも先に入ろうなんて、失礼だろうが」
未だに名も知らぬ同中の同級生男子は、不機嫌さを隠しもせず俺に指をさしてきた。
どんな育て方すれば、こんなモンスターが誕生するんだろうか。ラノベでよく見る横暴な貴族子息みたいな奴が、現代日本に誕生していたとはねぇ。
こんな感じで、今までの学校生活とか問題無かったんだろうか?
「おい!護は落ちこぼれじゃねえぞ!」
「そうそうそうだよリーダー。いくらなんでも、そんなバカみたいな煽りをするのは、ラノベでざまあされる三下くらいだぞ~」
「な!2人は僕のパーティメンバーだろ?なんであのクズの味方をするんだ!上野さんなら、わかってくれるだろう?」
刀司と甘楽さんに裏切られた少年は、助けを求めるように後ろを振り向いたが、すでにそこに上野さんの姿はなかった。
「護。アタシ、頑張ってレベル上げてくる。それで、ちゃんと祝福を贈るからね!」
「あ、はぁ」
いつの間にか俺の前に来ていた上野さんは、俺の手を取ってそう告げた。
「アタシ、誰とも付き合ったことなんてないんです!」
「なんて?」
「だから、アタシ、今まで彼氏がいたことなんて、一度も無いって言ったの!」
正直、何と言ったらいいのかわからなかった。
なんで今このタイミングでそんなことを告白したの?
なんで林間学校のときに彼氏がいるなんて言ったの?
疑問に思ったことはいくつかあったが、それ以上に、そんなこと言われて俺はどう反応すればいいんでしょう?
「えっと、そうなんですね」
なんとか言葉にできたのがそれだった。だってこれ、励ますのが正解?それとも、なんでそんなウソついたんだって問い詰めるのが正解?俺にはわかんないよぉ!
「す、少しはアタシへの好感度、上がったかなぁ?」
いや、現在進行形で暴落してますけど?なんて面倒なこと聞いてくれてるんだよ!
今は絶対あの棒を握らされるわけにはいかない。だから大間々先生、ワクワクした表情でこっちにその棒を差し出さないでください!
「きっと護のスキルはアタシが贈ったものだから!頑張ってレベルを上げて、護にちゃんと祝福をしてあげるからね!」
「あ、いや、無理はしなくても大丈夫です」
「ふふ、護のためだもん。無理なんかじゃないよ」
なんてことがあったからか、最近の上野さんはちょっと距離感がおかしい。
そりゃあ昔はよく手をつないで歩いたりしましたけど、それは幼稚園とか小学生の頃だから許されたわけで、もうすぐ高校生になるお年頃の男子の手をとるのはいかがなものか!
おそらく、俺に中途半端にスキルを与えてしまったと思って、真面目な上野さんは責任をとろうとしてくれてるんだろうけどさ。
「じゃあ、行ってくるね!」
「あ、待ってくれ上野さん!最初に入場するのはリーダーであるこの僕――」
「よっしゃ!一番乗りは俺だぜ!」
「ふ、藤岡貴様あああ!」
なんかあっという間にダンジョンに入って行ってしまった。
「いや~、うちの生徒がすんませんね~」
「げ、粕川くん!」
「ちっすちっす奏ちん。おひさだね~」
いきなり背後をとるような形で姿を現した粕川先生は、出会い頭に大間々先生にウザ絡みしていた。うん、ウザい。
「失礼、粕川先生。早く生徒を追いかけた方がいいんじゃないですか?」
「ま~そうだね~。普通はそうなんだろうけどさ~。こっちにも色々と都合があるわけよ。それで?なんで奏ちんが中里くんの指導してんの?養護教諭じゃなかったけ?」
「べ、別に、あなたには関係ないでしょ?」
粕川先生の雰囲気がちょっと変わった?まるでこちらを警戒でもしてるかのようだ。
「養護教諭が指導教官も兼務するなんて、おかしいよね?もしうちのパーティに重傷者が出て、奏ちんが保健室にいなかったら大変でしょ?」
それは確かにそのとおり!意外と生徒のことをちゃんと考えてたんだな粕川先生。ウザいとか思ってすいません。
「聖魔法で治療が出来る教員はたくさんいるでしょ?私がいなくても、今はまだ問題にな
らないはずです」
「そ~かもね~。奏ちん、聖魔法より攻撃魔法のほうが得意だしね~。それじゃあ、本当になんで養護教諭なんかやってんのかね?」
粕川先生の言葉に、大間々先生の表情はどんどんこわばっていく。さっきから先生にネチネチと言いやがって、やっぱりこの人はウザいのかもしれない。
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