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初対面早々にとんでもないことを言い出した大間々先生。この人、恋バナに関してはブレーキぶっ壊れてるのか?いや、頭フラワーガーデンなだけだ。
なぜか上野さんまで大間々先生の冗談を真に受けてたのを見て、思わず冷静にツッコんでしまった。そもそも、独り言なんて何一つ聞こえてこなかったし。
「久しぶりですね、上野さん。顔真っ赤だけど、風邪でも引いた?」
「ヒ、ヒサシブリダネ、マモル」
いや、なんで片言なんだよ。本当に調子でも悪いんだろうか?
「さてさて~。それじゃあ早速本題に入りましょうか!」
この人の恋愛脳にはアクセルしかついてないんだろうか?ふりでも良いから、ベッドで寝てる彼の心配とか、顔どころか首まで真っ赤になってる上野さんの心配してやれよ!
「上野ひかりさん。あなたは中里くんのことが好き。そうですよね?」
「ぶっは!」
アクセルべた踏みすな!なんで前置きもなく本題の核心に触れちゃってんのこの人。会話の流れおかしすぎるでしょ?
「あの、えっと・・・・・・なんで?」
ほらあぁ!上野さんプルプル震えて涙目になっちゃったじゃん!絶対怒ってる。
しかも「なんで?」ときたよ。つまりは「なんで初対面のアンタがそんなあり得ないこと言ってるの?もしかして中里てめえがこいつにあること無いこと吹き込みやがったな!」ってことだろ?
「ふっふっふ。大人の女性である私にはわかりますよ?あなたが護くんに向けるまなざしは、恋する乙女そのものですよ、確信しました!」
「先生?ちょっとアクセルから足離してください」
どう見てもあの目は俺を射殺さんとする殺意マシマシなまなざしです。どうかお願いですから、一度停車して落ち着いてくださいマジで!
「ですから、あなたが中里くんに『乙女の祈り』を贈ったのは間違いなしです!」
「お、乙女の、なに?贈るって、アタシが護になにかしたの?」
「ええ、ええ、それはもう。あなたは中里くんに、乙女の生涯一度きりのものを捧げたのです!」
「やめろこのおバカ養護教諭!全然違うものになってんじゃねえか!」
「あぎゃ!何するんですか中里くん!」
それはこっちのセリフですよ?落ち着いて自分の言動を振り返ってみてくださいね?
どうにか暴走する大間々先生を黙らせて、話の流れを整理する。
俺のスキルは聖属性の魔法を使える女性が、生涯で一度だけ誰かに与えられる祝福であること。
俺の周囲に聖属性の魔法が使用できる女性が上野さんしかいなかったこと。
そのせいで大間々先生が勘違いをして、これほど大暴走をしてしまったこと。
「えっと、つまりは、アタシが護にスキルを贈ったってことなの?」
「はい、そのとおりで――」
「いや、あくまでその可能性も小指の先ほどはあるかもねって話ですよ?」
「ふ~ん。もしアタシじゃなかったら、他の女が護にその祝福を贈ったってことになるんだ」
うぅわ、めっちゃ怖い顔なんですけど?さっき以上に殺気が漏れているような気がする。
「安心してください。乙女の祈りという祝福は、お互いに一定以上の好感度がなければ贈ることができません。どちらか一方の気持ちだけではなく、互いの想いが通じ合っていなければ結ばれません」
「お互いの想いが通じ合っていれば?それって、護もアタシのことを・・・・・・あの!アタシが贈ったって、確実にわかる方法ってないんですか?」
「聖魔法のレベルが上がれば、正式に祝福を贈ることができます。あとは、この魔道具を使えば」
そう言って、白衣のポケットに手を突っ込んだ先生は、未来のネコ科ロボットのようにごそごそとポケットの中を漁り、30センチほどの蛍光灯のようなものを取り出した。
「タタタタッタタ~、好感度チェックメ~タ~!」
誰がものまねまでしろって言ったんだよ。もう先生のキャラ崩壊が止まらねえよ。大間々先生って、どんな人だっけ?現時点で大間々が大○になっちゃったよ。
「これはですね~、お互いが端っこを掴むと相手への好感度がわかるっていう優れものなんですよ~」
なんかヤバイの出てきた。こんなん、絶対人間関係の不和を産むやべーやつじゃん。誰がこんなの使いたがるんだよ。
「す、すごい!異世界ってこんなものまであるんだね。ほら護くん、こっち持ってよこっち!」
なぜかノリノリで蛍光灯を握ってる小雪さん。やめろ、そんな危険物こっちに向けるな!
「あ、ごめんね。私なんかの好感度がわかっても、気持ち悪いだけ、だよね?」
「・・・・・・・・・」
そんな顔されたら、握らないわけにはいかないじゃんか!
『ポン・ポン・ポンポン』
俺が蛍光灯の端を握った瞬間に、何かの採点でもするかのように光の柱が中心部分に向かって伸びていった。
「月夜野さんの中里くんへの好感度は35%で、中里くんの月夜野さんへの好感度は40%ってところですね。友だちが15~30%くらいですから、結構高いですね。さすがバディです」
「わぁ、護くん、私のこと結構好きだったんだね」
「やめて言わないで恥ずかしぃ」
「ふっふぅ、愛い奴め~」
何が恥ずかしいって、俺の方が小雪より好感度が上だってところですよ。これじゃあ本当に俺の方が小雪のこと好きみたいじゃんかぁ。
「でも残念です。お互いに好感度50%を越えないと祝福を贈ることができません」
そもそも小雪は聖魔法使えないんだから、祝福関係ないじゃん!
「はい、じゃあ次は本番ですね~。はい、上野さん。こっちを握って下さ~い」
「わ、わかりました!」
なぜか真剣な面持ちで棒を握りしめる上野さん。これ、本当に握らないとダメなんだろうか。
「ほれ、とっとと握れよ。もうすぐ午後の訓練の時間になっちまうぞ」
「うぎゃ!」
やめろこの筋肉!無理矢理握らせるんじゃない!
『ポン』
「「・・・・・・・・・・・・」」
ほら見たことか。空気が完全に凍り付いてる。
「ねえ、護?これ、どういうことかな?」
う、上野さんの目のハイライトが消えてるだと!うっすらと浮かべる微笑みに恐怖しか感じない。
「こ、故障?じゃないかな?」
故障としか言いようがないよ。俺の方からは光がほとんど伸びてないのは納得だけど、上野さんからの光は棒のゲージマックスってくらいまで伸びてる。
「えっと、中里くん?これは、先生ちょっとどうかと思うなぁ」
「やらせた張本人が何言ってるんですか!実は好感度なんて測れないんでしょ?そうだと言ってください!」
「・・・・・・そうです。なんかごめんなさい。それじゃあ、午後の訓練に向かいましょうか。ご、午後からは、先生が氷魔法を教えてあげますからねぇ」
「わ、わ~い、嬉しいなぁ」
「ちょっと待って!」
「「・・・・・・はい」」
自然な流れで保健室からフェードアウトしようとしたが、しっかりと上野さんに阻まれてしまった。どうしてこんな状況で呼び止めようと思ったの?空気完全に死んでるんだから、もうこんな話止めようよ。
「護は、その女の子と、つ、つつ、付き合ってるの?」
「いや、全然?」
「・・・・・・」
小雪さん、無言で足蹴るの止めてください。冗談なんて言えない空気ですよ?
「あ、あの、先生。もうアタシが護に祝福を贈った可能性って、無くなったんでしょうか?」
「う~ん、上野さんからの好感度は100%でしたので、もしかしたら、一方的に贈りつけられた可能性はあるかもしれないです」
一方的に贈りつけるって、言い方ひどくないですか?そもそも、上野さんからの好感度が100%って言うのがまずありえないんだけど。
「ちなみに、中里くんからの好感度は5%でしたけど、どうしてこんなに低いんでしょう?幼馴染なら、もう少し高くても良さそうですけど?」
「いや、さすがに彼氏の居る相手に好意を向けるわけにはいかないでしょ?」
「あ~、その問題がありましたね~。ちなみに上野ひかりさん、今までお付き合いした人って、いるんですか?」
「い、いません!アタシ、誰とも付き合ったことなんてないです!」
なんて?
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