1-22
あれから知らない生徒たちが何人も食堂に入ってきたけど、上野さんたちは来ていない。おそらく、まあ間違いなくなんだけど、さっきの少年を保健室に運んでいったのだろう。
そこから、保健室の先生を探し歩いているのだとしたら、俺の目の前でハンバーグを頬張っている人に文句を言っても許されるだろう。知ってて声をかけてあげなかった俺も同罪だけどね。
「おい護よお。目的のヤツはまだ来ねえのか?」
「いや~、しばらく来ないんじゃないですか?今頃保健室の先生を捜し歩いてますよ」
「保健室の先生だったら、保健室にいるんじゃねえのか?」
普通はそう思うよね。俺もそう思うよ?でも、東さんはどこに保健室の先生がいるか知ってるよね?今俺たちの目の前で、デザートについてたプリンを食べてるよ?
「すいませ~ん!この中に、保健室の大間々先生はいらっしゃいませんか~!」
おや、思ったよりも早かったようだ。このバカな声・・・・・・バカでかい声には聞き覚えがある。
「先生、呼ばれてますけど?」
「もぐもぐ」
「いや、リアルでもぐもぐって言いながら食事する人いませんからね?だいたい、口の中に何も入ってないでしょ!」
「もぐもぐもぐ!」
食べてる風に口を動かせなんて言ってないから!かわいいなぁこの先生は!
「いかなきゃダメですか?」
「俺個人としては行かなくても良いと思いますよ」
「それじゃあ、護くんの幼馴染みの男の子が呼んでるんだね。上野さんも一緒にいるんじゃないですか?」
「え!い、行きましょう!ほら、中里くんも早く!」
「やっとかぁ。とっとと終わらせて食後の訓練だな!」
「あ~、お気になさらずうぅ~」
最後の抵抗も虚しく、東さんに小脇に抱えられて強制連行されることになった。そりゃあ見世物でも見るような目で他の生徒から見られるよねぇ。
「はいは~い!中里護くんと月夜野小雪さんの指導教官兼、養護教諭の大間々奏で~す!」
それだと養護教諭がおまけみたいだから。むしろこれからは養護教諭が本職で、俺たちの指導教官の肩書きはなくなるんじゃないでしょうか?
「うお!護だ!久しぶりだな。って、なんで抱えられてんだよ?」
「久しぶりだね刀司。これはね、俺の召喚獣なんだよ?」
「マジかよ!召喚獣とかいるのか?異世界すっげーんだなぁ」
「さすが護くんの幼馴染みだね、信じちゃったよ」
小雪さんや。そこで『さすが』っていう意味がわからないんですけど?
「ねえねえねえ、久しぶりの再会のところ悪いけどさぁ。早いとこうちのリーダー診てもらおうよ。お昼食べられなくなっちゃうよ?」
刀司の後ろからひょこんと顔を出したのは、ミナモちゃんと同じくらいの身長の女の子?
髪型がショートボブ、凹凸がないのでいまいち判別できないけど、声を聞いた感じだと女の子だ。こういうときは、だいたい女の子だと言っておけば間違いないはず!
「護くん、ジロジロ見すぎじゃない?」
「あれあれあれ?もしかしてボクに見蕩れちゃったかなぁ。ふっふっふ、さっすがボク!」
あれぇ~?ちょっとどっちかわからなくなったぞ?ボクっ娘なのか?それとも男の子なのか?いや、しかし、こんなにかわいい子が女の子のはずがないって名言もあったくらいだし、実は『男の娘』なのか?
「ボクの名前は甘楽マコトだよ~!よろしくね?」
名前でも判断できないだと?これはもう、性別を聞かない方が逆にシュレディンガー的な意味合いで良いのではないかと思えてきた。リアルでもこんなことがあるとは、夢があるではないか!
「ああ、こいつ女子だぞ?」
「開けるなよ!いきなり!放射能で俺の夢が跡形もなくなったわ!」
「え、ああ、悪い。って、そんなことより、保健室の大間々先生だよ。早く連れてかねえと、俺たち昼飯が食えなくなる!」
なんか、『保健室の大間々先生』って、微妙にずれた感じが刀司って感じするな。
「刀司たちのリーダーなら、もう回復魔法をかけてもらってあるから大丈夫だよ。その前の衝撃で気絶してるだけだし」
「はぁん、それじゃあいっか。飯にしようぜ、マコト」
「いやいやいや。回復魔法かけてあればもう良いかってならないでしょ?リーダー保健室のベッドに放り投げてきたままだよ?ひかりちんだって置いて来ちゃったし!」
「気絶してんだから、寝かしとけば良いんじゃね?上野が付き添ってれば問題無し!」
どうりで上野さんがいないと思ったら、彼に付き添っていたのか。目を覚ました彼の相手をさせられるのはちょっとかわいそうだけど、上野さんのコミュ力なら大丈夫か。
「それじゃ、俺たちは昼飯行ってくる!夕飯は一緒に食おうぜ!」
「ちょっとちょっとちょっとぉ~!待ってよ刀司く~ん!」
ふ、清々しいくらいに脳筋バカな奴だったな。俺は同族の脳筋バカに抱えられたままだけども。
「それじゃあ、上野さんがいる保健室に行きましょ~!」
「おぉ~!」
この流れ、何回目だろうか?今度こそ会えるのだろうか?もうどうでも良くなってきてしまった。
それはそうと東さん?そろそろ下ろしてもらえませんか?
「はぁ、何やってんだろ、アタシ」
ここに来てから、もう何度ため息をついただろうか。まだ風守学院に来てから1日とちょっとしか経ってないというのに。
護と早く再会したくて、中学校の卒業式を迎える前に早期入学を決めた。それ自体は間違いだったとは思わない。
藤岡くんもどうせそうするだろうと思ってたから、彼が一緒に入学したのは想定内だった。
想定外だったのは、この人。久賀翔。
なんでこいつまで入学してくるの?同じ中学校でスキルを持っていたのは、アタシたち3人だけだったのに。
風守学院はスキルを持っていなくても、試験に合格すれば入学できるらしい。なんていったって、ダンジョンや異世界だ。入学したい人は後を絶たない。
そのため、受験の倍率は100倍とも1000倍とも言われている。
そんな試験をこいつが合格できるわけない。きっと、県議会議員である父親の権力で入学したんだろう。それも、よりによってアタシのパートナー、バディとかいうのになっていた。
「キミや僕は選ばれた人間だ。一緒に居るのは当然だろう?」
とか言っちゃって。
なにが選ばれた人間だ。誰に選ばれたって言うのだろうか?こいつを選んでいる時点で、きっとろくでもないやつだ。
「せっかく高校では、昔みたいに3人で仲良くで来そうだったのに」
あの日、会議室にアタシたち3人が揃った時、運命みたいなものを感じた。疎遠になってしまった護と、また昔みたいに過ごせるんじゃないかって、すごく嬉しかった。きっと神様が、アタシのお願いを聞き届けてくれたんだって。
それなのに、なんでこんなやつのおもりをしないといけないんだろう。
「あ~あ、まだ護に会えない。いつになったら会えるんだろう?」
「ふっふっふ、それは、今ですよ~!」
がらりと、保健室の入り口が開いた。突然のことだったので、びっくりし過ぎて声も出なかった。
入り口に視線を向けると、白衣を着た女の人と、学院指定のジャージを着た女の子が立っていた。
その後ろには、季節感が完全に死んでいるタンクトップを着た筋肉お化けみたいな男の人と、その人に小脇に抱えられた護が・・・・・・え?今の独り言、聞かれた?
「え?あれ?どこまで声に出てた?」
「護、好き。だ~い好き!ってところですかね~」
「え、え?は?そ、そんなこと言ってた?」
嘘でしょ?今そんなこと全然考えてなかったのに、無意識に声に出てたってこと?
「いや、言ってないよそんなこと」
「あ、うん。そうだよね?」
護の冷静なツッコみで、アタシも落ち着くことができた。
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