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「それじゃあ今度こそ、上野さんのところにレッツゴー!」

「おぉ~!」


 どうしてそんな元気なの?小雪はさっきまで剣の訓練でへばってぶっ倒れてたのに。


 もしかして、へばったふりしてただけなの?それで休憩もらえるんなら、俺も今度からそうしよう。


「ほらほら、早く食堂に行きましょう。時間、無くなっちゃいますよ?」

「いや、先生。そんなに急がなくても、午後の訓練の時間を減らせばいくらでも――」

「なに!訓練時間を減らすわけにはいかねえ。ほら、とっとと行くぞ!」


 なぜか東さんまで向こうの味方になってしまった?


おかげで駆け足で食堂まで向かう羽目になってしまった。全力疾走じゃなくて本当に良かったよ。


 急いで向かったせいか、食堂にはまだ誰もおらず、貸し切り状態だった。どれだけの人数早期入学者がいるかわからないが、混む前に昼食を注文してしまおう。


「いや、そうじゃないでしょ」


 自然な流れで注文カウンターに向かおうとしたところを、小雪に止められてしまう。


「どうしたの?早く注文済ませないと、混むかもしれないよ?」

「だから、今は昼食じゃなくて上野さんが先でしょ!昼食なんか、上野さんとの話が終わってからでいいじゃん!」

「すいませ~ん!日替わりのレディース定食1つ、ご飯少な目でお願いしま~す」

「俺は日替わりの漢定食、肉マシご飯大盛りで!」


 そんなこと言ってるから、先生たちに先を越されてしまった。肉マシなんて注文通るんだなぁ。さすがに昼にそんなに食べると吐くからムリだけど、覚えておこう。


「俺はA定食、全部普通で大丈夫です。ほら、小雪は?」

「うぅ、私がおかしいのかな?じゃあ、私もA定食、ご飯大盛りで」


 案外小雪の方が食べる量多いんだよな。体は動かさなくても、魔法を使って霊力を消費するとカロリーがかなり消費されるらしい。


 新しいダイエット法が誕生するかもしれないね。


「お待たせいたしました!」


 数十秒と待たずに、筋肉男子により商品が並べられた。それを持って、俺たちは入り口近くのテーブルに移動する。わざわざ入り口近くじゃなくても、これだけ人が少なければすぐにわかるとおもうんだけどね。


「東さん、本当にそれ食べきれるんですか?」

「ん?これくらい食わなきゃ、筋肉は育たねえぞ?」


 実は先生や東さんと一緒に食事をするのは初めてだ。教員には、教員用の食堂が設けられているので普段はそっちを使っているらしい。


 それより、日替わり漢定食、量がやべえな。大皿いっぱいに山盛りのステーキ肉が乗せられている。間違いなく、キロ単位の重量はあるだろう。見ているだけで吐きそうだよ。


「失礼、ここは風守学院の食堂だが、あなたたちはこの学院の関係者か?」


 ワイワイと食事をしていたら、不意に見知らぬ少年に声をかけられた。どこかで見た気もするが、この人も早期入学の生徒なんだろうか?


「一応ここの生徒ですけど、あなたは?」

「ここの生徒だと?先ほどまでの講義でキミたちの姿は見なかったが?」


 なんか上から目線でムカつく物言いだな。こっちの質問には全然答えないし。


「講義は受けてませんよ?俺たちはここに来て1か月は経ってるんで」

「ははは、そうか。お前らが能力検査で問題を起こしたという、落ちこぼれ共か」


 落ちこぼれだと?俺は確かにそうだが、小雪は凄いチートスキルを持ってる優秀な生徒だぞ。


「僕たちは、能力の高さや希少なスキルを有しているから早期入学を認められたエリート。お前らは、問題児で厄介者の落ちこぼれだ。そんな奴らが、どうして僕たちよりも先に食事を摂っている?」

「あんたたちが来るのが遅かったからじゃないですか?」


 なんでこいつはこんなにも自分が偉いと思えるんだろうか?確かに俺たちは能力検査の後問題を起こした問題児で厄介者かも知れないけど、別に落ちこぼれてはいないぞ?


 むしろ1か月の訓練をやり抜いた、優秀な生徒(自画自賛)だと思うんだけど?


「とにかく、早急にこの場から立ち去ってくれないか?キミたちと同じ空間で食事などしたくないからね。今後は、僕たちが食事を終えた後に食堂にくるようにしてもらおう。なあに、昼休みの5分前には立ち去ってやるさ」


 5分で食事を終わらせろと?こいつは随分と愉快な冗談だ。後から来たくせに次から次から理不尽な命令ばっかりしやがって。


「ちょっと一発、わからせてやろうかな」

「うぇ、ちょっと護くんダメだってば!一発殴ったら、わからせるどころか何もわからなくなっちゃうよ!」


 ボキボキと指を鳴らしながら立ち上がったところで、小雪に止められてしまう。優秀な生徒さんなんだから、落ちこぼれの俺がちょっとぶっ飛ばすくらいなら、余裕で耐えきれるんだろ?


「護?もしかしてお前、中里護か?はっははははは、あの『普通くん』か。なんだよ、本当にカスで落ちこぼれのクズ野郎じゃないか。お前の優秀な幼馴染たちは、俺と一緒のパーティに組み込まれる。残念ながら、今回は幼馴染2人の後をついて歩くことはできないぞ!」


 俺がそう呼ばれていたことを知ってるってことは、こいつも同中か?


 幼馴染3人の中で、取り柄も無い俺のことを、『普通くん』と呼ぶ連中がいた。そう呼ぶ連中は、たいていが上野さんにフラれた男子だったけど。


「はぁ、喰った喰った。お?お前らまだ手も付けてねえじゃねえか。とっとと喰わねえと、時間がもったいねえぞ?」


 空気を読めぇ!


 なんかピリピリした感じだったのに、何1人でフードファイト終えちゃってっるんだこの人は。


「そうだね。早く食べちゃって、上野さんに会いに行こうよ、護くん」

「おい、クズ女!誰の許可を得て食事を始めているんだ!」


 小雪をクズだと言われた瞬間、体が勝手に動いていた。握りしめた拳は少年の顔面に向かって真っすぐに伸びて行き、そして、なぜか空を切った?


「食事の邪魔するんじゃねえぞ、クソガキが!俺、お前みてえな奴が一番嫌いなんだよ」

「ぐっくぅ・・・・・・」


 俺の拳よりも早く、東さんのゲンコツが落ちていたようだ。少年は大きなこぶを作って、地面に潰れていた。


 これ、たんこぶだけですんでないよね?足の関節、絶対変な方に曲がってるもん。


「あ~あ、知らないですよ、後で問題になっても」

「奏がちゃちゃっと治しちまえば、証拠は残らねえだろ?」

「はいはい、わかりましたよ。『ヒール』」


 良かった。大間々先生のおかげで足の関節も元に戻った。


 なんか最近、こういうファンタジーにもすっかり慣れてしまった気がするなぁ。


「それじゃあ、冷める前に食事を再開しましょうか」

「俺はおかわりもらってくるぜ!」


 気絶したままの少年を食堂の外に放り出して、食事を再開できる2人の神経はどれだけ図太いのだろうか?


 嫌味なことを言われた俺の方が彼のことを心配してるって、絶対おかしいからね?


「あれあれあれ?どうしてうちのリーダー様はこんなところで気絶してんの?」

「はあ?嫌味な野郎がどこでぶっ倒れてやがろうが、俺の知ったこっちゃねえよ」

「藤岡くんの言うとおりだけど、一応同じパーティなんだし、ほっとくわけにはいかないでしょ?どうしよう、保健室とかに運んだ方が良いのかな?」

「いや、そんなことしてたら昼飯食えなくなるぞ?同じパーティって言うなら、バディの上野が運べばいいだろ?」

「いや、普通にムリですけど?アタシが運んで行けるわけないじゃん」

「脳筋ゴリラならいけるって」

「うっさい!いいから藤岡くんが運んでよ!」

「まあまあまあ!2人は仲が良いんだねえ」

「「良くない!」」


 食堂の外から随分と騒がしい声が聞こえてきたけど、気づかないふりをしよう。保健室の先生を探しているんなら、どうせここに戻って来るしね。






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