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「それじゃあ、上野さんのところに行きましょうか!」
「おぉ~!」
午前の訓練中、早期入学組の生徒が到着したとの連絡があったため、訓練を中断して上野さんに会いに行こうと言う女性陣。
「せっかく体が温まってきたので、もっと訓練したいです」
「おお!やっと男らしいこと言うようになったじゃねえか。そのとおりだぜ!訓練の中断なんてできねえよなぁ!」
訓練を中断してまで行きたくない男性陣。いや、間違いなく俺と東さんの意思は統一されていないけど。
昨日あれだけ言ったのに、結局大間々先生は理解してくれなかったし、小雪まで着いてくるとか言ってるし。女子って本当に恋バナとか好きだよね。
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ?先生が着いてますから~」
「じゃあ、先生と小雪だけで行ってくれば良くないですか?」
「ふふふ、照れてますね~」
大間々先生、言い方が若干ウザいです。
思春期の男子中学生が好きな子に会うのが恥ずかしい、みたいな感じで思われてるんだろうけど、全然そんなことないんだよなぁ。
まあ、中学でもほとんど関わりが無かったし、同じクラスにさえならなければ、嫌われたり避けられたりしても問題無いだろう。
大間々先生が強引に引っ張っていくわけだから、同じクラスにならないように学校側に手を回してもらおう。
「残念っすけど~、今日はまだ合わせらんねえっす」
「よし!じゃあ戻って訓練するぞぉ!」
「おぉ~!」
「ちょおおおおっと待ってよ!なんでそんなすぐあきらめるの?」
新入生が集まっているという教室に向かったのだが、粕川先生に門前払いである。まあ、初日で色んな説明とかもあるだろうから、当然と言えば当然だ。
ちなみに、大間々先生は途中で「教室を確保してきますから迎えはお願いします~」と言ってどっかに行ってしまった。
というわけで、上野さんとの面談に対するモチベーションが高いのは小雪だけ。なので、担当の粕川先生に断られればあっけなく引き下がるのは当然だ。
「せっかく来たんだから、せめて上野さんの顔だけは見て帰ろうよ!」
「いや~ユキちゃん、それは無理っしょ。こっちにもスケジュールがあるしさ~。そういうのは、休み時間とかにしてくんないかな~」
「ぶ~、じゃあお昼休みまで我慢するよ~」
「ほら、話がついたならとっとと訓練に戻るぞ。護は今日も魔法の練習をみっちりやるからな!」
は?なんでいきなり魔法の訓練をするんだ?
「へぇ、キミ、魔法を習得したんだぁ。てっきり騎士系のビルドにするのかと思ったよ」
騎士系っていうか、大盾使いなんだけど、大間違いじゃないな。やっぱり小雪のバディだと、騎士とか大盾使いがあっているってことなのかな?
まあ、東さんから素直に言うなっていう圧をかけられてるから、このまま流れに乗っちゃうけど。
「何か問題ありますか?」
「べっつに~。どうせ4月になれば正式なバディ決めを行うから、好きなスキルを習得して、伸ばせば良いんじゃね?」
「残念ですけど、護くんは私のために必要なスキルを習得してくれてるんです。4月になっても、私たちはバディですよ」
「ユキちゃんに必要な?だってキミ、魔法使いじゃないの?」
「さて、魔法剣士かもしれないし、魔槍使いの類いかもしれませんよ」
「ふ~ん。俺も随分嫌われたもんだね~。誰かが変なことでも吹き込んだんすかぁ、東さん?」
「はあ?そんな暇があれば俺は筋肉を鍛えさせるぞ俺は!」
大嘘つきやん。東さんにこんなやりとりができたのかと驚いてしまう。
しかし、どうして自分の戦闘スタイルまで隠さないといけないのかはわからないな。ちゃっかり小雪まで戦闘スタイルを偽ろうとしたが、言ってることはただの厨二病だった。
そんなこんなで、一時撤退を余儀なくされた俺たちは、大間々先生がセッティングしていた教室、はスルーして、訓練場に戻ってきた。
「それじゃあ護、お前にも今日から魔法の訓練をはじめるぞ!」
開口一番そう言った東さんの言葉に、こちらは開いた口が塞がらなくなりそうだ。
「ちょちょ、あれは粕川先生に偽の情報を流すためのフェイクだったんじゃないんですか?」
「あ?なんだそりゃ。今日は元々魔法を教えるつもりだったぞ?お前を最強の冒険者に育てるんだから、魔法もバンバン憶えてもらう!なっはっはっは!」
やっぱりこの人に頭脳戦とかはムリかぁ。そりゃそうだわ。
「そういえば、小雪も魔法剣や魔槍を使いたいって言ってたな!良いじゃないか、やろうぜ!」
「え!あ、それは、違くて、ですね?」
「まずは基礎体力作りから!筋肉は全ての基本だからな!」
「うえぇ、ま、待ってくださいよぉ」
まあ、小雪は筋力や耐久のステータスが軒並み低いから、一度鍛えてもらったほうが良いかもしれない。
「それじゃあまずは、軽く50㎞走っとくか!」
「やめなさいこのおバカ!まずは、でフルマラソンより長い距離走らせるおバカがいますか!」
「あ、大間々先生お帰りなさい」
「た、助かったよぉ」
「まったく!いくら待っても来ないと思ったら、何やってるんですか!」
そうは言っても、門前払いだったのだから仕方ないじゃないか、というような言い訳を並び立て、今までの経緯を説明。
「なるほど。それで訓練内容の見直しを」
訓練の内容を変更するのは止められるかと思ったが、どうやら大間々先生も賛成らしかった。さすがに小雪に50㎞を走らせるのには反対されたけどね。
ステータスが脳筋よりの俺でも50㎞はムリだから、小雪には拷問以外の何物でもないよ。
「魔法は私が教えるとして、東さんは剣術と槍術って・・・・・・まあ、大丈夫ですよね」
「なっはっはっは!スパルティア流は、どんな武器でも達人級に使いこなせるんだぜ」
そんなアホな。以前大間々先生が、スパルティア王国を修羅の国、と呼んでいたが、どれだけ恐ろしい人たちの集まりなのだろうか。できれば一生関わりたく無い。
「それじゃあ、中里くんにはまず、魔力の扱い方から教えていきましょうか」
「それはいわゆる、魔力を感じるところからってヤツですね!」
知ってるぞ。ラノベでよくある導入部分のやつ。血液と同じように体内を循環しているパターンか、それとも魔力器官みたいなところに蓄積された魔力を引き出してくるパターンか。あとは空気中にある魔力を集めて、みたいなのもあった気が・・・・・・
「どういうわけか、最近召喚される子どもたちは、みんな魔力操作の上達が早いんですよねぇ。月夜野さんもそうでしたし」
「そりゃあ、たくさん教科書が出回ってますからね」
創作物ではあるけど。今では魔法が出てこない物語のほうが少ないくらいだしな。
「人の体は空気中から必要数の魔素を吸収しています。吸収した魔素は血液と同じように体内を循環しているんです」
「なるほど、そっち系ですね。了解しました」
よくある物語の流れだと、意識を集中させると暖かさを感じたりとか、違和感を感じたりと、何らかの気づきがある。
それにならって俺も目を閉じて、深呼吸をしながら自分の体の内側に意識を向ける。
心臓の鼓動がドクンドクンと聞こえてくる。
俺の呼吸音も鮮明に聞こえるようになってきた。
「おらあ、これがスパルティア王国流の剣術だああぁ!」
「ぎゃあああぁ!あ、東先生それ真剣ですよ!そんなの振り回さないでくださいよおおぉ!」
「こら小雪!よけてないでしっかり打ち合え!」
「ムリですって!この剣重くて全然持ち上がりませんもん!」
その日、俺は周囲の雑音に負けて、魔力を感じ取ることができなかった。
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