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「護さんとミナモが結婚する利益。1つはあなたたち中里家の皆さんの社会的地位が向上します。お兄ちゃんも、フォルティア王国大使館の大使として、好待遇で雇い入れることができるようになります」

「おお!そうなれば、俺はもう毎日部長の嫌味を聞かなくてよくなるんだな!」

「さらに、王族の親族を大使として派遣することで、日本との融和に力を入れているということをアピールできます」


 その大使が生粋の日本人である我が父なのだが、大丈夫だろうか?


お父さんも、外交官になる時点で遊んで暮らせないじゃん。仕事だって責任が重くなったら、部長さんの嫌味以上のストレスが重くのしかかってくると思うんだけど大丈夫か?


「こちらとしても、日本との融和はミサカイ皇国に対する牽制にもなります」

「ミサカイ皇国とフォルティア王国は、仲が悪いんですか?」

「ミサカイ皇国は、半年前に大規模な召喚魔法を使用し、29人の日本人を召喚しました。理由は定かではありませんが、戦争に利用するためである、という見方が強いです」

「戦争に利用する?」


 ラノベでよくある、クソみたいな国に召喚されちゃうヤツだ。そしたら、能力の低いヤツが追放されて、後々最強の主人公に成り上がっちゃうやつね、わかりますよ。


「つまり、追放された生徒を味方につければ勝つる!」

「召喚された生徒を追放するのですか?なんのために?」

「無能だから?」

「召喚されれば、戦いを嫌がる生徒も、能力が劣る生徒も関係無く訓練を行われ、戦場に投入されるでしょう。地球の人間はテリオリスの人間に比べて基礎ステータスが高いですからね」


 異世界召喚で追放無双は無かったよ。追放無双どころか、召喚されたら文字通り死ぬまでこき使われるってんじゃ、無双できなくてもいっそ追放された方が幸せな気がする。


「元々ミサカイ皇国は大陸統一を狙い、長年軍備拡張を行い、周辺の中小国を吸収していました。大規模な召喚も相まって、さらに戦力は増強。大陸内に対抗できる国は無くなっていました。我が国からはミナモを嫁がせることで、同盟を結ぼうと考えたのですが」


 そこに来て、地球と異世界が統合されてしまった、ということか。


 世界が混乱していては、戦争どころでは無かったのだろう。今や世界中で外交合戦が行われているし、科学文明と魔法文明を互いに取り入れようと、産業的、学門的にも革命を起こす勢いで研究がおこなわれているらしい。


「ミサカイ皇国は大規模な召喚魔法を行使したせいで、経済的にひっ迫しています。結局召喚した生徒たちは日本に強制送還させられてしまいましたし、結果として何も残らなかった。ただ、追い込まれたミサカイ皇国は何をしでかすかわかりません」


 それで、日本との強い結びつきを求めているってことか。


 日本近海に現れた大陸。最も日本に近いのがミサカイ皇国。そして、最も遠いのがフォルティア王国らしい。


地政学的に、フォルティア王国と日本でミサカイ皇国を挟撃できる格好になる。フォルティア王国が日本の友好国となれば、下手にフォルティア王国にちょっかいをかければ日本の心証が悪くなり、地の利を生かした交流もできなくなってしまう。


「なるほど。しっかり考えてるんですね」

「ええ、なので、至急ミナモと結婚をして下さい」

「嫌ですが?」


 諸々の利益は理解できたけど、俺が結婚するのは別でしょ?俺でも良いなら、誰でも良いはずだ。


どっかの政治家の息子でも、大企業の子息でも捕まえて結婚した方が、よっぽど国のためになると思う。


 中里家的には残念だけど、一般家庭がいきなり王族の仲間入りなんて、苦労するに決まってる。


「ここまで拒否されては仕方ありません。では、まずは婚約だけして、護さんが18歳になったら結婚。それでどうでしょう?」

「無理ですね」

「はぁ、そうですか。頑固なんですね。それでは、強制的にフォルティアに連れ帰り、ミナモと結婚したくなるよう、お願いを続けましょう」


 いやぁ、そんなこっちを射殺すような視線を向けながらお願いなんて、絶対ウソですよね。


俺がうんと言うまで、牢屋で縛り上げられて、ムチで叩かれたりするんだ。あのエ○同人みたいに!


「そもそも、俺を異世界、フォルティア王国に連れて行くなんて、日本政府も許さないんじゃないですか?」

「残念ながら、地球人はスキルの所有者を危険視しています。そのために、異世界特区なる場所まで作って隔離しているのですから。ですから、王族である私が、スキルを発言させた自分の甥をフォルティアに連れて行くくらいなら、問題にはなりません」


 これは、異世界で監禁されるか、婚約を受け入れて風守学院で過ごすか、どちらか選べということか。


 異世界には行きたくないし、行ったら最後、何をされるかわからない。


 婚約もなぁ。好きな人がいないとはいえ、愛の無い結婚を受け入れるっていうのはちょっとハードルが高い。


もしかしたら、高校で素敵な出会いがあるかもしれないのに、婚約してたら自由恋愛もできん。


 彼女がいる楽しい高校生活、送ってみたいな~。


「では、こうしましょう。ミナモを風守学院に入学させます。卒業までの3年間交流を深めていただき、護さんの心を射止めることができれば結婚する」

「じゃあ、結婚しなくても良いってことですか?」

「それまでに言質が取れなければ、どうなるかわかっていますね?ミナモ」

「は、はい!お母さま!」


 一応俺の意見も考慮されたのかな?ミナモちゃんに言質をとられなければ、結婚しなくても良さそう?


「ですが、これだけは受け取っていただきます」


 空中から突如現れた黒い小箱をことりとテーブルの上に置いた水姫さんは、蓋を開けてこちらに差し出してきた。


 中には金色に輝くバッジが入っていた。


「これは、フォルティア王家に連なる者だけか所持することを許されるバッジです。これを着けてさえいれば、フォルティア王国の貴族だけでなく、テリオリスの貴族家から絡まれることは少なくなるはずです」

「水戸○門の印籠、みたいな奴ですか?」

「そういう意図で使えるのはフォルティア貴族だけですけど、まあ、そんなものですね。基本的には制服に着けていただき、いつでも身に着けておいてください」


 どちらかと言ったら、弁護士や議員のバッチみたいな感じなのかな?


「それでは、そろそろ時間のようですから、我々は国に帰らせていただきます。護さん、これから困難が多く振りかかると思いますが、幸多からんことを、お祈りしています」

「じゃあね、お兄ちゃん!あたしもすぐに学園に行くから、いっぱい仲良くなろ~ね~!」


 なんか微妙に引っかかることを言い残して、2人は玄関先まで移動していった。


 これでしばらく会うこともないだろう。そうであって欲しい。会わないよね?


「水姫、これからは、いつでも帰って来て良いんだからな。兄ちゃん、いつでもお前が帰って来るの・・・・・・待ってるからな~」


 実の父親が号泣する姿は、なかなか心にくるものがあった。正直きついっす。


「お兄ちゃん、何を言ってるんですか?」

「え?」

「お兄ちゃんはこれから、フォルティア王国に行って叙勲式の準備です。最低限の礼儀作法は覚えていただかなくてはいけませんし、1か月は帰って来られないと思ってください」

「待って?俺、遊んで暮らせるって」

「護さんがミナモと結婚しない以上、お兄ちゃんには方々で仕事をこなしてもらわなければなりません。お互い、自分の子どもが幸せになれるよう、頑張って働きましょう!」

「そ、そんな、詐欺だ~~~!」


 お父さんはそのまま水姫さんに引きずられて、外に待機していた黒塗りの乗用車に押し込まれていった。


 強く生きてね、お父さん。






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