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 フードコードでのフードファイトが終わり、腹ごなしにモール内をフラフラと歩いていた。


 月夜野さんにしてみれば、見る物全てが新鮮なようで、あちこちの店を覗いては、店員の筋肉に怯えていた。


 ここまで来たら、きっと全店舗に筋肉が配置されているんだろう。せめて女性服や下着店なんかでは、女性の店員さんが配属されていてもらいたいものだ。


「なんだか、アニメやマンガの世界に来たみたい!ショッピングモールは本当にあったんだね!」

「そこはせめて、ドラマや映画って言った方がいいんじゃない?少しは厨二っぽさをごまかせるよ?」

「護くん?次、厨二って言ったら撃つからね?」


 撃つって言うのは、魔法をぶっ放すって意味なんでしょうか?誰だこいつに魔法なんてファンタジーを教えたヤツは!


「それにしても、月夜野さんってこういうところって本当に来たこと無いの?」

「ぶ~、そろそろ月夜野さんって言うの、やめようよ?私と護くん、バディなんだよ」

「確かに今はバディだけど、他の生徒が来ればきっと新しい人と組むことになるんじゃない?」


 だってどう考えても連携が上手くいっていない。このままダンジョンに放り込まれでもしたら、魔獣に押し潰されるか月夜野さんの魔法に燃やされるかだ。


 そもそも、大盾使いって需要ある?あんなに魔獣と接敵していたら、魔法使い以外も攻撃なんかできないと思う。剣士とかだったら、魔獣の背後からバッサリいけたりするんだろうか?


「今更別の人と組むなんてムリだよ。だってさ、私のスキルはほら、あれだし」

「すごいスキルじゃん。とんでもない魔法連発できるしさ。きっと色んな人に必要とされるスキルだよ」

「護くんは、私のこと変なヤツだと思わないの?」

「思うけど?」

「ひどい!」


 初対面で、ロングコートを羽織って指ぬきグローブしてくるようなヤツが普通であるとは到底思えない。


「でも、変なヤツだからって、それがイコールで嫌なヤツにはならないでしょ?俺は、月夜野さんのことは嫌なヤツだと思ってないよ」


 通常時は普通の女の子だしな。知り合ったばかりの俺にも色々気を使ってくれるし。


「ただまあ、俺が斜線上にいるのを気にせず魔法をぶっ放すのだけはどうにかして欲しいけど」

「そ、それはごめんね。護くんが1人で戦ってるのを見てると、私も何かしなきゃって焦っちゃって」

「ゲームだったら味方の攻撃とか気にならないしね。タンクと魔法使いってピッタリなイメージだけど、リアルだとそういうわけにもいかないんだよなぁ」

「でも、東先生はわざわざ護くんをタンクにさせたよね?いくら東先生でも、意味もなくそんなことしないと思うんだ。だから魔法使いには、やっぱりタンクが必要なんだと思うよ」


 俺の役割は、月夜野さんとバディを組むならと、スキルとは関係無く東さんに勝手に決められた。


 きっとこの組み合わせが必要なんだろうと、疑いもせずに訓練を受けてきたけど、いざ連携訓練をしたらあのざまだ。たった1体を相手に何もできない。


「やっぱり私が、もっと上手く魔法を使えるようになれば」


 確かに、月夜野さんの魔法は真っ直ぐ飛んで行くだけだ。大間々先生みたいに、軌道を変えることができれば、魔獣の背後から魔法を当てることもできるはず。


 でも、それって簡単にできるようになるのかな?


 そもそも、異世界の初心者魔法使いって、どうやってバディと連携をとってるんだろう?前衛が剣士とかでも、今の俺たちと同じ悩みは無いんだろうか?


「もう少し、連携についてしっかり教えてもらった方が良いかなぁ」

「ふふ、そうだね」

「うん?なんかおかしいこと言った?」

「だって、初めて会ったときは家に帰りたい、退学したい、訓練なんかしたくないってずっと言ってたのに。真面目に訓練のこと考えてるからさ」


 それは今でも思ってる。俺は異世界になんか関わりたく無いし、スキルやステータスにだって深入りしたくない。ダンジョンに入りたくないのだって、命を危険にさらしたくないのもあるけど、レベルアップしたくないってのが大きい。


「でも、このままならどうせダンジョンに放り込まれるし、そうなったときに月夜野さんを護れなかったら困るだろ?」

「私を、護ってくれるの?」

「だって、そういう役割じゃん」

「そっかそっか。それじゃ、これからは護くんに護ってもらおう!」

「あ、なんでもじゃないからね?あくまで――」

「残念、言質とったから!」


 そう言って笑った彼女は、来た道を折り返して走り出してしまう。お腹がパンパンな俺は、すぐに走り出すことができず、徐々に歩く速度を上げながら後を追った。


「これ、1つください!」

「お買い上げ!ありがとうございます!」


 月夜野さんに追いついたのは、すでに彼女が何らかの買物を終えた後だった。ファンシーなエプロンを着た筋肉質な男性から、何やら商品を受け取っていた。


「大盾って、左手で構えてるんだっけ?」

「今のところはそうだよ」

「じゃ、左手を護くんに進呈しよう」


 そう言って差し出されたのは、黒い革製の指ぬきグローブだった。無駄に品質が良さそうなのはなんなんだろうか?


「えっと、これを俺にくれるの?」

「そうだよ。護くんの左手は、私を護るための大切な手だから。代わりに私は、魔法で護くんを護れるように、杖を持つ右手用のをもらうね?」


 何が嬉しいのか、月夜野さんは右手に指ぬきグローブをはめて、にこりと笑った。


「さ、はめてはめて!」


 俺にも指ぬきグローブをはめろと申すか!


 確かにね、指ぬきグローブってかっこいいよ?はめたいかはめたくないかで言えばはめたいけど、人前ではちょっとなぁ。


「だめぇ?」


 こいつ、そういうところがずるい!絶対その破壊力がわかっててやってるだろう!


 まあ、その破壊力にあらがえない俺も悪い気がするけどね。


 仕方なく、俺は自分の左手に指ぬきグローブを装着する。革製だけど、はめ心地はかなり良いし、邪魔にならない。何より、盾を握ったときに滑り止めにもなりそうだ。


「ふっふっふ、それじゃあこれからも頼んだぜ、相棒!」


 指ぬきグローブを装着した右手を握りこぶしにして、彼女はこちらに向けてきた。


「お手柔らかに、相棒」


 俺はため息をつきながらも、左手を握って、彼女の右手にコツリと手を当てた。


 なんだかすげー恥ずかしいことをしているような気もするけど、周りには誰もいないから良しとするか。


「でもこれ、なんか指輪の交換みたいじゃね?」

「にゃ、にゃあああ!にゃんてこと言うんだよ!かっこよく友情が芽生えた感じだったじゃん!そ、そそそ、そういうのはまだ早いんだから!」

「俺はただ、指輪の交換って言っただけで、結婚指輪なんて言ってないよ。それに、まだ早いって、今後そうなる予定があるみたな言い方するじゃん」

「にゃあああああああ!」

「ちょ!どっから出したんだよその杖!」

「我が身に宿りし終焉の業火よ。我が呼びかけに応え顕現せよ――」

「ば!照れ隠しで強力な魔法ぶっ放すって、何世代前のヒロインなんだよおおおぉ!」


 盾を持たない今の俺では、月夜野さんの厨二魔法の前からは逃げ出すことしかできなかった。


 背後から迫る黒炎が形作った龍は、真っ直ぐに俺を飲み込んだ。


 こんな威力の魔法を戦闘中に使われたら、魔獣と一緒に巻き添えを食らうのは必至だろうなぁ。そう思いながら、俺は意識を手放したのだった。








ちなみにこの日は物語内でも2月14日です。

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