1-13
「うわあぁ!すっごぉい」
ひ、広かった。俺が何度か行ったことのある、田舎のショッピングモールと比べて、倍以上の広さがあっただろうか?いや、比べるのもおこがましいほどに広かった。
案内板を見ながらグルグル迷いながら、やっとたどり着いたフードコートを前にして、月夜野さんはハイテンションではしゃいでいた。
店舗数は30店。座席数は軽く300席を超えている。ラーメンやご飯物からアイスやクレープまで。国内の主要な食べ物はここで全て食べられるのでは?と思ってしまうほどだ。
「フードコートってすごいんだね!こんなにたくさんの食べ物屋さん、初めて見るよ」
「うん。こんだけ大きいのは、俺も初めてだよ」
何かのお祭りだと言われた方が納得するくらいの広さだ。
「ねえねえ。こういうのって、最初はどれを食べれば良いの?」
「う~ん、こんなに店が多いと、決めきれないよねぇ」
そんな返事を返しながら、チラリとスマホに視線を向ける。
さっき友人女子たちに質問した、ショッピングモールでの女子の過ごし方についての返信が来ていた。
頼むぞ友人の女子たちよ。なんか良い感じの返信をしててくれよ。
“プロテインの店を探します”
“24時間営業のジムに行きます”
“プールで遠泳をする”
「・・・・・・」
画面を見て、言葉を失ってしまった。何?最近の女子って筋肉育ててんの?
俺の友人というだけあって、かなり普通の女子たちにメッセージを送ったつもりだったんだけどなぁ。
「月夜野さん、なんか食べたい物ある?」
スマホをポケットにもどして、月夜野さんに視線を向ける。どことなくそわそわした様子の彼女は、目をキラキラさせて立ち並ぶ店を眺めていた。
「私、もの凄くジャンクなやつが食べてみたい!」
「じゃあ、無難にハンバーガーとか食べてみる?」
「ハンバーガー!ダブチとかいうヤツ?すごい!」
何がすごいのかよくわからないけど、これだけ喜んでいるんならとりあえずハンバーガーショップで良いか。まだ10時過ぎで昼食にはかなり早いけど、また後で、なんて言えないよね。
「いらっしゃいませ!注文をお伺いいたします!」
「「・・・・・・」」
ピシッと敬礼をきめて、某バーガー店の制服に身を包んだ筋肉が言った。
どう見ても店員じゃねえだろこいつ!どうすんだよ、月夜野さんがビビって俺の後ろに隠れちゃったじゃん。さっきまであんなに楽しみにしてたのに、上げてから落とすのやめてくれないですかね。
「すいません、ここロックバーガーであってます?」
「はい!ここはロックバーガーショッピングモール風守店であります!」
両腕を後ろに回し、声を張り上げる店員さん。いや、声出せば良いってわけじゃないからね?姿勢はもの凄く良いけどさ。
「ご注文!お決まりでしたら!お伺いいたします!」
店員さんが声を張り上げるたびに、俺の後ろでびくりと震える月夜野さん。正直俺も怖いんだけど、そんなことは言ってられないな。
「ダブルチーズバーガーのセットを2つ。飲み物は、月夜野さん何飲む?」
「ま、任せるよ」
「じゃあコーラとグレープジュースで」
「はい!ご注文!繰り返させていただきます!ダブルチーズバーガーのセットがお2つ!お飲み物が!コーラ!グレープジュース!よろしかったでしょうか!」
「はい、大丈夫です」
「了解いたしました!商品のご準備ができましたらこちらでお知らせいたします!」
なんかのっけからどっと疲れた気がする。まさかとは思うけど、他の店もこんな感じじゃないよね?
「すごい!これがダブチってやつなんだね!ポテトもこんなにあるよ!」
どうにか元気を取り戻した月夜野さんは、バーガーを手にしてはしゃいでいた。300を超える座席の中で俺たちしか座っていないという異様な光景も、この笑顔を見てたら忘れられそうだ。
「これってあれだよね。この紙を剥がして、そのまま食べて良いんだよね?」
そう言って、丁寧に包み紙を剥がしてから、勢いよくバーガーにかぶりついた。
「うわぁ!これがジャンクフードか。思ってたよりも全然普通なんだねぇ」
「どんな味を想像してたの?」
「健康に悪いって言うから、もっと禍々しい味を想像してた」
禍々しいって、果たしてどんな味なんだろう。表現に厨二が見え隠れしちゃってるのは見ないふりをしておこう。
「ポテトは、なんかしょっぱくて脂っこいけど・・・・・・なんだか癖になる味だね!」
「それはわかる!時々無性に食べたくなるんだよこれ」
月夜野さんがポテトにご満悦な今のうちに、この後の予定を決めるための情報を得ておきたい。
“ショッピングモールが貸し切りになったら何したい?”
再びクラスメイトの女子たちにメッセージを飛ばす。今度はもう少し参考になる返信を期待したいのだが。
“全裸で走る!”
“エスカレーターを逆走する”
“パルクーる!”
小学生かな?
なんで女子中学生が全裸でフロア内を走り回ったり飛び回ったりするんだよ!もっとさぁ、プリクラとるとか、スイーツを食べたりとかないわけ?
いや、それは俺が勝手に妄想しているだけで、普通の女の子はみんな筋肉を育んだりとか全裸で走り回ったりとかしてるのか?
ああ、俺には普通の女の子がわからない。
「護くん、護くん!せっかくこんなにジャンクなお店があるから、色んな物食べてみたい!ダメかなぁ?」
「食べましょう!」
月夜野さんの無邪気な笑顔に救われたよぉ。
普通の女の子より、厨二病のお嬢様の方がまともに見えるなんてよっぽどだぞ。どうなってんだ友人女子たち。
「それでさ、護くん。色んな物食べてみたいから、これ半分食べてくれない?」
前言撤回!どっちもどっちだった。
なんで食べかけのハンバーガーをこっちによこすのかな?どう見ても歯形がくっきり付いてるんですけど?
「えっと、どうせタダなんだから、食べきれなければ捨てちゃえば?」
「え?そんなのダメだよ。SDG‘sだよ?」
言いたいことは嫌というほどわかりますよ。食べ物を無駄にしちゃダメなのなんて。でもね、いくらなんでも知り合って2週間の女子が食べかけたハンバーガーは食べられないでしょ。
こちとら思春期中学生やぞ!
「ほら、あ~ん」
あ~ん、じゃないんだわ。あ~んまで追加されちゃったら、さっきより数段ハードルが上がっちゃったんですけど!
渋っていると、月夜野さんは持っていたハンバーガーを下げて、しゅんとした表情になる。やめてよね、そんなさみしそうな表情をしながらこっちを見上げてくるとか、反則なんだから!
「私の食べかけとか、気持ち悪くて食べられないかな。ごめんね。私、頑張って自分で食べるから」
「食べます!食べたい!食べさせてください!」
「え?ホント?じゃあ、はい、あ~ん」
そんなん拒否れるわけねーじゃん!めっちゃ上手いわバカやろー!
「泣くほどおいしいの?」
「なんか、めっちゃうまいです」
「そっか。じゃあ、ポテトも食べさせてあげるね?」
残りのポテトが無くなるまで月夜野さんにあ~んをしてもらうことになった。本当に、ここが貸し切りで良かった。
この後、軽く10店くらいのお店を回り、月夜野さんの食べたい物を片っ端から買って回った。
「このジーパイってすごいね。めっちゃ油っぽいのにおいしい。はい、あ~ん」
食べたいのはいいんだけどね、その全部を一口食べただけで、後は俺に食べさせてくれるのは勘弁してくれ。
おかげさまで何日か分のカロリーを摂取させられた気がするわ。
ちなみに、今日回ったフードコートの店員さんはみんな筋肉男子だった。絶対本職は別にあると思うんだけど。
オープンしたらちゃんとした店員さんになるんだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます