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 東さんと大間々先生の実演を見せてもらった後、俺と月夜野さんもマッドドールを使って連携の練習を行った。


「ファイヤーボール!」

「ぐっひゃ!」


 もう散々な結果だった。


 まず攻撃をタイミング良く弾けない。だって一定の間隔で攻撃してくるわけでもないし、攻撃が当たる瞬間にタイミングずらされたり。


 攻撃をしっかり見ていないとダメだってのはわかってるんだけど、怖くて目を瞑ってしまうことだってある。


 だから攻撃を弾くのは無理。そうなると、相手を弾き飛ばすのはもっと無理。新しく習得した「シールドバッシュ」を使ってどうにかマッドドールを弾くことができても、月夜野さんの魔法の射線上に俺も入ってしまう。


 結果として、月夜野さんの魔法が俺の背中に直撃するという、悲しい結果になってしまった。射線上に俺がいたら撃つの躊躇しない?


「ごめんね護くん。今度はちゃんと当てるから」


 と言いながら、威力がどんどん上がっていったのは、力んじゃっただけなんだよね?他意はないよね?


 まあ、そんなわけで俺たちバディは早速壁にぶち当たった。俺としては、このまま上手くいかなければ、ダンジョンに入らなくてもよくなるんじゃね?とも思うんだけど、上手くいかないままだと、月夜野さんに焼き殺されるかもしれない。


「なんかその、アドバイス的なものは?」

「筋力を上げる!」


 本当にこの脳筋は俺を弟子だと思ってんのかね?


「魔法の射線が問題なら、月夜野さんが走って移動して中里君と敵が射線上で重ならないようにするとかですかね。あとは、魔法のコントロール技術を上げて、中里君を躱しながら敵に当てるようにするとか?でも、魔法操作のスキルがないと難しいかなぁ?」

「それ、私が大変じゃないですか?戦闘中走りっぱなしとか、さすがに無理なんですけど」

「よし、それなら護と一緒に朝練して、体力つけるか!」

「普通の人間は軽く10㎞なんて走れないですよぉ!」


 意外といけるよ?俺は3日で慣れたから。東さんもペースを考えて引きずりまわし・・・・・・もとい、伴走をしてくれるからね。


「なっはっはっは。それじゃあ、明日からは朝4時訓練場に集合だな」

「ちょっと待ってください東さん。中里君と月夜野さん、この2週間でちゃんとした休みはとってるんですよね?」

「休み?朝練の後と昼休み、午後の訓練の後は休みだぞ?」

「そうじゃなくて、1日丸々お休みの日は何日ありましたかって聞いているんです!」


 いや、それ聞くまでも無いですよね?大間々先生も、今日まで休みなく訓練に付き合ってくれてたじゃないですか。


 休みどころか、訓練は日増しに厳しくなってくし。気がつけば訓練するのが当たり前になっていた。夜の筋トレも自主的にやり始めてたし。


 も、もしかして、これが洗脳ってやつか!


「はぁ。冒険者だって休暇はしっかりとるじゃないですか。週に1度は休みをあげてください。そう言えば、先日ショッピングモールの搬入などが終わったそうです。本格的に生徒が移動してくる前に、プレオープンして問題がないか確認したいそうなんです。せっかくですから明日の訓練はお休みにして、2人でショッピングモールを回ってもらえませんか?」


 ショッピングモールかぁ。うちの近所には無かったから、あんまり行ったことないけど、でかい!何でもそろう!めっちゃ遊べる!ってイメージだ。


「でも、俺たち仮想通貨持ってませんけど?行っても何も出来ないんじゃ?」

「よぉし!それならダンジョン――」

「今回は訓練の一環ですから、お金は必要ないですよ」

「つまり、全部タダ!」

「衣料品などは返品してもらいますけど、食べ物やゲームセンターなどは全てフリーです」


 タダで食べ放題&遊び放題ってことか!最高じゃん!ちょっとお高いレストランで食事したり、映画の梯子をしたり、ゲーセンで遊び放題!しかも貸し切り!


「行きます!行かせてください!」


 嬉しさのあまりスライディング土下座である。


 日常をこよなく愛する俺でも、そういう非日常にはとても興味がありますよ。


「ふふふ。それじゃあ、明日はバディの親睦を深めるためにも、お2人で楽しんできてください」

「は?」


 お2人でってどういうこと?も、もしかして、東さんと2人でショッピングモールを回れってか?周りに人がいないからって、タンクトップの筋肉おじさんと買い食いしたり、ぷ、プリクラとか、き、きつすぎる!


「なっはっはっは。じゃあ肉を食ってスポーツ施設を巡ってみるか!」

「いや、東さんは別件のお仕事ですよ。行くのは、中里くんと月夜野さんの2人です」

「「は?」」


 今度は月夜野さんと声がぴたりとあってしまった。





 一夜経って、本日は月夜野さんとのショッピングモール巡り。視察以外の意味は無いと分かっていても、女の子と2人でお出かけとなると、無駄に緊張してしまう。


 緊張のあまり早起きし過ぎてしまったので、日課の10㎞マラソンと筋トレはこなしてしまった。習慣って怖いよね。


 女の子と待ち合わせって全く経験が無かったので、待ち合わせの1時間前に集合場所に向かったわけなんだけど、そこにはすでに、月夜野さんの姿があった。


 俺もそうだけど、月夜野さんも中学校の制服を着ていた。ロングコートと指ぬきグローブは、今日はお休みらしい。


「ごめん、待った?」

「あ、護くん。おはよー。私も今来たところだよ?」


 完全にセリフが男女逆だと思うんだけど、大丈夫だろうか?しかも、月夜野さんの座っていたベンチの脇には、コーヒーやジュースの缶が10本以上散乱してるんだけど、本当に今来たところなのかな?


「今、集合時間1時間前の10時だけど、月夜野さんはどんだけ待ったの?」

「・・・・・・8時」

「2時間前から!俺が今来なかったら、あと1時間も待つ予定だったの?」

「あ、うん。その、ね?私、誰かと一緒に遊びに行くのって初めてだったから。どれくらい前から待ってればいいかわからなくて」


 なるほど。男子と、では無くて誰かと、ね。さすがお嬢様学校に通っていただけはある。


 家が厳しかったとかで、学校帰りのゲーセンとかカラオケとか、買い食いなんてのもやったこと無いんだろうな。


「よし、わかった。今日は月夜野さんに庶民の遊びを教えてやろう」

「あ~、何がわかったかわからないんだけど、私別に、庶民の遊びを知らないわけじゃないよ?ただ、その・・・・・・一緒に遊びに行く友達がいなかっただけで」

「・・・・・・ごめんね?」


 おかしいな?急に気温が下がった気がするよ。


「そ、そそそ、それじゃあ、これからどうしようか?」

「どうって言われても、私、こういうところで何をしたらいいかわからないんだけど、普通の女の子って、こういうところで何するの?」


 普通の女の子が何するのか?俺がわかるわけねえじゃん!だって俺男だし。もう何年も女の子と遊んだことなんてねえんですけど!


 普通を愛し、普通を極めた俺でさえ、普通の女の子の遊びなんて、わっかんねえんだよぉ!


「あ、ごめんね護くん。困らせるつもりはなかったんだよ。悪いのはぼっちな中学生活を送ってた私なんだから」


 うわぁ。寒いだけでなく、ものすごい重い空気になってきちゃったよ。


 これはもう、女の子の意見を聞くしかないか。クラスの女子とかに聞けば、どうにかなるだろう。


「とりあえず、フードコートにでも行ってみようか。甘い物でも食べながら、今日の予定を考えようよ」


 クラスの女子にSNSでヘルプを求めながら、俺は月夜野さんを伴ってフードコートへと移動することにした。


 どうか、すぐに誰かが返信してくれますように!






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