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 学院に来てから2週間が経った。あっという間、というには濃厚過ぎる時間を過ごしたと思う。


 毎朝4時に叩き起こされ、10㎞のランニング。その後腕立て、腹筋、スクワットと筋トレを行う。ちなみにこの訓練、月夜野さんは不参加だ。


 朝食を摂った後は、1ⅿはある大盾を持っての戦闘訓練。サイズの割に重さは無いので、ぶんぶん振り回すこともできる。東さん曰く、ミスリル7:アダマンタイト3の比率で配合された合金で作ってるから軽いんだとか。まさに異世界ファンタジーである。


 この大盾を持って何をするのかと言えば、東さんの攻撃をひたすら受けるだけ。


 だけ、とは言ってもあの脳筋が容赦無く殴りつけてくるので、最初のうちは何度もふっ飛ばされていた。


 今では何とか受けきる事が出来るようになったけど、全身の力を使って盾を構えなければならないので、訓練が終わるころにはクタクタになっている。


 昼食を終えて午後からは、月夜野さんを相手に魔法を受ける訓練。実はこの訓練が一番怖い。


 拳は点での攻撃を防ぐだけでいいのに対して、魔法は面での攻撃を防がなければならない。大盾一つ構えて、火炎放射器の前に立つようなものだと言えば良いだろうか?


 魔法の入射角や威力を見極めて、盾に角度をつけて受け流したり、場合によっては弾き返さなければいけない。


 できれば避けたり逃げ出したりしたいけど、「タンクが攻撃躱したら後衛が死ぬだろうが!」ということで、避けることを許してもらえない。


 よくもまあ、こんな訓練を2週間も続けられたものである。


 おかげさまで、本当に成長してしまった。




中里 護(15歳)


レベル1


体力:57

霊力:52

魔力:63

筋力:60

知力:42

俊敏:58

耐久:74

器用:55


スキル

乙女の祈り

大盾術レベル1

シールドバッシュ

魔法

なし





 本当に、成長し過ぎでしょ、なにこれ?


 よりによってスキルが2つも生えちゃったんですけど?もうこれじゃあ学院退学とかできないじゃん!


 まあ、東さんの訓練が始まった時点であきらめてはいましたけどね。せめて、タンク以外の職に就かせてくれ!


 ちなみに、月夜野さんは厨二魔法とは別に、炎と闇の2属性を使えるようになったらしい。「これで詠唱しなくて良いね」と喜んでいた。




 というわけで、俺も月夜野さんも、この2週間でかなりの成長を遂げたわけだけど、レベルは未だに1のまま。レベルを上げるためには、レベルを持つ生き物を倒さなければいけないそうだ。


「ダンジョンいくぞお!」

「絶対嫌だ!」

「なんでだよ!護のステータスなら、1階の魔獣相手なら余裕だぞ?」

「絶対嫌だ!」

「だからなんでだよ!」


 こんな問答が、すでに3日は続いている。どうにかこの3日間は逃げることができたけど、そろそろ東さんの我慢も限界のようだ。


 とはいえ、魔獣なんかと戦いたくないし。必要性を感じないもんなぁ。


「小雪、お前からも言ってくれ!一緒に魔獣を倒しまくろうってな」

「いやぁ、私も魔獣と戦うのはちょっと」


 ですよね!いくら厨二病を極めし者といえど、お嬢様が魔獣とかいう訳の分からない生物と戦いたがったりしないよね。


「かぁ~。2人揃ってなんだよ。それじゃあ、いつまで経っても最強の冒険者にゃなれないぞ」

「いや、そもそもなりたくないし」

「しょうがねえな。それじゃあ、無理矢理にでも連れて行くしかねえか」

「待ちなさいこのおバカ!無理矢理ダンジョンに連れて行くなんて、ダメに決まってるじゃないですか」

「でもな~、そろそろ戦闘訓練をしてみないと、自分の課題ってのが見つかんねえぞ?」

「・・・・・・それは、一理ありますね」


 ちょっと大間々先生!あなたが抵抗してくれなかったら、この脳筋は間違いなく俺たちをダンジョンに放り込みますよ。ここで折れないでください!


「とりあえず1階だけだ。あそこなら、レッサーウルフとジェルフロッグしか出ねえからさ」

「う~ん、それなら最悪命の危険はないですかねぇ。でも、無理矢理って言うのはやっぱり・・・・・・」

「せ、先生。生き物の命を奪うっていうのは、やっぱり抵抗が」

「魔獣を倒すのは小雪だろ?護は攻撃を受けるだけだぞ?」


 それが一番嫌なんですが?それ、痛いだけじゃすまない可能性もありますよね?


「私も、まだ怖いです。それに、護くんとの連携だってちゃんと練習してないし」

「そういや、連携の訓練もまだだったな」

「はぁ、一番重要な訓練をしてないじゃないですか。さすがに、実践の中で連携の訓練をさせるわけにはいかないですよ」


 連携か。確かにそんな訓練はしてない。


 月夜野さんは魔法使いだから、攻撃は全部魔法だよね。盾で魔獣の動きを止めたとして、どうやって攻撃するんだろう?


 俺ごと魔法で燃やす、とかいうことはないと思う。思いたい。けど、今までの訓練で魔法がまっすく飛んでくるのしか見たことないなぁ。


「魔法使いとタンクのバディが戦ってる動画とかってないんですか?」

「動画?テレビってことか?向こうじゃ映像記録する魔道具なんてなかったからな」

「だったら、実際に見せてあげましょうか?」

「おお!そりゃいいな。じゃあ、早速ダンジョンに――」

「待ちなさいよこの猪突猛進脳筋おバカ!動きを見せるだけなら、アレを使えばいいじゃないですか」

「アレ?どれだ?」

「全く・・・・・・コレですよ」


 大間々先生が取り出したのは、手のひらサイズの人形?それも、石を削って作られてるみたいだ。


「起動」


 そう言いながら宙に放り出された石の人形は、空中で制止すると、グラウンドの土を吸い上げるようにして体に纏わせる。


「ゴーレム?」


 土を体に纏わせた人形は、2ⅿほどの大きさになると地面に足をつけた。


「これはマッドドール。起動した人間の命令を聞く自動人形です。あまり複雑な命令は出せませんけど、今回はこれで十分でしょう」

「それじゃあ、ちょっと盾借りるぞ」


 言われた通りに東さんに大盾を渡し、俺と月夜野さんは20ⅿほど距離をとった。


 それを見て、東さんはマッドドールに向けて盾を構えた。


「それじゃあ、始めますよ。東さん、ふっ飛ばしちゃダメですからね?」

「わかってるよ」


 東さんの返事とほぼ同時のタイミングで、マッドドールは腕を振り上げた。腕は鞭のようにしなりながら、東さんに攻撃を叩きつける。


「よっし!」


 腕が当たる瞬間に合わせて、東さんは盾を弾く。さらに2撃目、3撃目と攻撃が続くが、その全てを当たった瞬間に弾き返した。


 腕だけでの攻撃を止めたマッドドールは、走るように東さんへと体当たり。この攻撃も直撃の瞬間に盾で弾き飛ばし、マッドドールの体は宙に投げ出される。


「アイススピア!」


 東さんの体から距離が出来た瞬間に、大間々先生が氷の魔法を放つ。氷の槍は東さんの頭上を越えて、放物線を描くようにマッドドールに直撃。全身を凍りつかせた土塊は、バラバラになって大地へと還った。


「まあ、こんなもんだろ」


 いや、やり切った顔してるけど、あんなん無理でしょ。どんだけ筋力あったら2ⅿの巨体を上空に放り投げられるんだよ!


 たとえ1階の魔獣があれより小さいとしても、弾き飛ばせるかどうか。弾き飛ばせなかったら、魔法に巻き込まれる?


「タンクと魔法使いの2人だけって、かなり無理があるんじゃないの?」


 初心者が編成して良いパーティじゃないよ。絶対。






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