1-10
あれは中学1年の夏。
林間学校に行った時のことだった。夏なのにどうして登山なんぞにせにゃならんのか、とか、虫ばっかの中どうして外で料理したりキャンプファイヤーしたり、肝試ししたりしなけりゃならんのか、とか。
せめて川遊びして女子の水着姿くらい見れれば良い思い出になったかもしれないけど、そんなワクワクイベントは無かった。
不満ばっかりの2泊3日だったなぁ。
そんな林間学校最大の不人気イベント、炎天下のオリエンテーリング登山のとき。
「よう護!一緒の班だな」
「よ、よろしくね、護」
同じ班になったのは、刀司と上野さんだった。2人とも別のクラスなのに。別に俺がぼっちで誰も班を組んでくれなかったわけじゃないよ?学校がクラスの垣根を越えてランダムで班分けをしちゃったんだよ。
中学に入学して間も無くであったが、2人はすでに有名人だった。
刀司は1年生ながら剣道部でレギュラーになっていたし、上野さんは入学から3か月で30人以上の男子に告白されたとか。
そんな有名人と3人1組。目立つことこの上ない。有名人に挟まれる俺ってば、めっちゃ浮いてたよね。
「ね~見てよ。藤岡くんと上野さん、お似合いだよね~」
「わかる~。しかも2人って、幼馴染みなんでしょ~。もう親公認ってやつじゃない?」
浮いてたというより、眼中に入っていないようだ。確かにあの頃は上野さんより背が低かったから、2人に挟まれたら見えなかったかもね。
しかし、周囲の会話が聞こえてくるたびに2人の機嫌が悪くなるのはどうにかならないものか。
昔から、刀司と上野さんは仲が悪い。顔を合わせるたびにケンカしていた。しかも口げんかとかじゃなくて、殴る蹴るなんでもありのケンカだった。
ちなみに上野さんが圧勝していた。近所で上野さんにケンカで勝てる子どもはいないほど強かった。
さすがに今では殴り合いなんてしない・・・・・・してないよね?
「あ~あ~、上野が近づきすぎるから変なこと言われんだよ!」
「じゃあ藤岡くんが離れてよ。暑苦しいから」
今ではこうやって口論できるだけ、知的な進化を遂げたのかもしれないね。だけどさぁ。
「2人とも離れろよ!なんで俺にピッタリくっついてんの?登山してんのにおかしいでしょこの距離間!」
「「・・・・・・」」
「なんで2人して無言なんだよ!仲良いなあもう!」
「「それはない!」」
「息ピッタリじゃん!」
ケンカする割にたまに息がピッタリ合うのはなんでなんだろうね?本当は2人とも、仲良しだよね?
「そういや上野、この前また告られたって?」
「あ~もう。嫌なこと思い出させないで。せっかくの林間学校なのに」
「それで?返事はどうしたんだよ」
「決まってるでしょ。お断りしたよ」
決まってるのか。俺だったら、誰かに告白されたら即断でお断りなんてできないよ。まあ、誰かに告白される予定はないですけど。
「へぇ、もしかして、もう誰かと付き合ってんのか?それとも、他に好きな奴でもいんのか?」
「う、え、な、いきなり何言ってんの!」
めっちゃ慌ててて草。
こんなに動揺している上野さんは初めて見る気がする。でも、確かに山ほど告白されていて、誰とも付き合わないっていうのはなんかあるな。噂では、イケメンな先輩や県議会議員の息子にも告白されたって話だったし。
「上野さん、もしかしてもう彼氏がいるんですか?」
「え、いや、アタシは・・・・・・」
「いやいや、上野に彼氏はできんでしょ。見た目は良くても中身は脳筋ゴリラだぜ?」
「あ~ね」
刀司とケンカしている姿を思い出すと、まさにその通りだと思ってしまった。キレたら、口の中におやつ放り込むまで止まらなかったし。
「な、なんで護まで納得してるの?ひどくない?」
「あ、今日はおやつたくさん持ってるから大丈夫ですよ!」
「え?どういうこと?」
「いや、なんでもないっす」
昔は確かに脳筋ゴリラって感じだったけど、今は随分と丸くなったと思う。キレたら手が付けられなくなったと言っても、気遣いは出来たし、周りのこともちゃんと見ていた。その全てを暴力が台無しにしていたわけだが。
そう考えれば、角が取れた今の上野さんは、まさに美少女と言って差し支えないだろう。
「なるほど。恋が上野さんを変えたってことか」
「ちょ!護までなんてこと言ってんの!」
あらやだ、テレて真っ赤になっちゃって可愛らしいわね。
「脳筋ゴリラのくせしてヘタレなんだから、恋したって彼氏なんて出来ねえだろ?」
「は、はあ?べ、別にヘタレじゃないですけど!あと、脳筋ゴリラでもない!」
「へぇ、じゃあ告白くらいできるわけだ」
「くぅ~~~・・・・・・」
首まで真っ赤にしてどうした?熱中症か?
「こ、告白なんて朝飯前ですけど?目が覚めてすぐぐらいに出来ますけど?」
「それはさすがに、相手に迷惑じゃない?」
早朝から告白とか、ムードもへったくれもねえな。しかし、美少女なら許されてしまいそうなところが恐ろしい。
「だ、大丈夫だもん!寝ぼけてたって、アタシのこと好きだって言ってくれるもん!」
「そ、そうですか。そんな人が見つかると良いですね」
いや、普通にいそうだけどね、上野さんの場合。
「い、いるもん!」
っているんかい!
「え?じゃあ、彼氏いるってこと?」
「そ、そうだよ。ちゃんと将来を誓い合った人がいるんだから!」
「・・・・・・おいおい」
なんか久しぶりに幼馴染と話をしたら、彼女は少しだけ大人になっていたようだ。
中学生になったんだから、それくらい普通なんだろうけど、彼女が変わってしまったんだと思ったら、少しだけ寂しくなった。
「上野、やっぱ全然変わってねえじゃん」
「くぅ~、藤岡くんが煽るのが悪いんだからね!」
「いってぇ!なにしやがんだよこの脳筋ゴリラ!」
なぜかその後、上野さんは刀司の尻を蹴り上げてた。
「ということで、上野さんには中1の頃から付き合ってる人がいるんだよ」
「「・・・・・・」」
「そのことをちゃんと公表してれば、告白待ちの列とか作らなくても良かったのにね」
ピーク時は放課後の校舎裏で待機列が出来たって伝説もあったな。アイドルの握手会みたいな。
「中里くん。上野ひかりさんが風守学院に来たら、一度ゆっくりお話をしましょう?」
なんでそんな諭すようなまなざしを向けているんですか先生?
それに、上野さんと改まって話をすることなんてないと思うんだけど。中学時代も、さっき話した林間学校のときと、この前会議室で話したとき以外、会話らしい会話なんてほとんどしてない。
「そもそも、スキルや魔法についてほとんど知識の無い上野さんが、生涯に一度だけの祝福、なんてのができるんですか?」
「現にできてるじゃないですか?まあ、確かに正式な手順ではないみたいですけどね。そのせいで、まだスキルに効果が付与されてませんから」
「なんて?」
スキルに、効果が、ない?
つまり、スキルが無いのと一緒じゃないか!
え?つまり、どういうこと?
「大丈夫です。上野ひかりさんに会って、ちゃんと祝福してもらえば、強力なスキルに早変わりですから」
「待って待って!そもそも上野さんが俺に祝福してくれる意味がわかんないですって」
「だから、ゆっくりお話ししましょう?先生もご一緒しますから、安心ですよ?」
どこに安心の要素があるのか、しっかりと説明願いたい!
「まあ、難しく考えるな。魔法使いと聖職者がパーティに入るなら、まずはタンクとしてきっちり仕込んでやるからな!」
「軽く考えても許容できないこと言ったよね?タンクって何ですか!俺が知っているタンクと同義だったら、俺は絶対やりたくないですからね!」
「なっはっはっは。焦らなくても万能な冒険者にしてやるから、安心しろ」
だから、安心の要素をください!
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