1-9
「どぅりゃあああああ!」
月夜野さんが創り出した黒い炎の塊と、東さんの拳が激突する。その瞬間に、急速で落下していた炎は勢いを止め、東さんの拳と拮抗した。お互いがお互いを押し合っている状況だ。
何これ?なんてバトルマンガ?
「ぶっとべええええええ!」
威力が拮抗したのはほんのわずか。東さんが力を強めるとあっけなく黒い炎の塊は霧散していった。
ぶっ飛べって。あんなのが上空にぶっ飛んで行かなくて安心したよ。
「かなり派手だったが、中身はスカスカだったな。炎魔法レベルⅢってところか?」
「スカスカって、かなりの熱量でしたよ?私が展開したアイスシールドなんて半分くらい溶けちゃいました。レベルⅣはあるんじゃないですか?」
レベルの話をされても、こっちは全然わかんねえよ。
何も無いところから、いきなり巨大な火球を創り出したり、あまつさえそれを拳一つで打ち砕いたり。
こんな『あり得ない』を『当たり前』に許容しなければ、これからの世界で生きていけないんだろうか。少なくとも、この学院ではそうなんだろう。
「はあ。俺にはこんな場所、向かないよ」
「あ、あの!ごめんね中里くん。大丈夫だった?」
駆け寄ってきた月夜野さんは、慌てたような様子で俺のことを心配してくれた。これが普通の厨二病を隠しているお嬢様キャラとかだったら、普通のラブコメとか始まりそうなのになぁ。
あんなの見せられたら、普通にバトルマンガとか始まりそうだよ。
「月夜野さんはすごいね。あんな強力な魔法が使えてさ」
「そうかなぁ。東さんにあっけなく壊されちゃったけどね」
「なっはっはっは。初めてであれだけの魔法はすごいぞぉ!それに、まだ霊力に余裕があるみたいじゃないか」
ステータスに表示されていた『霊力』という項目は、スキルや魔法を発動させるために必要な数値なんだそうだ。ゲームで言うところの『MP』ってことだね。
先ほどの大魔法も、月夜野さんの持つスキル『厨二魔法』の効果によって、ほとんど霊力の消費がなかったらしい。あの規模の魔法が撃ち放題とか、国が管理しなくちゃいけないレベルなのでは?
「ああ、だから、スキルを持っている人は強制的に隔離されてるってことか」
月夜野さんを囲むように、楽しげな会話をしている東さんや大間々先生も、俺たちの監視が目的なのかもしれないな。
「それでは、次は中里くんの番ですね」
先ほどまで談笑していた3人の視線が、一斉にこちらを向く。いやいや、期待されても今以上のすごいものなんてお見せできませんよ。
っていうか、俺もステータスを表示させないとダメなのか。ぐおおぉ、俺もスキル名がちょっと恥ずかしい。月夜野さんよりはマシだけどさ。
「ステータス」
中里 護(15歳)
レベル1
体力:39
霊力:35
魔力:0
筋力:34
知力:40
俊敏:43
耐久:30
器用:33
スキル
乙女の祈り
魔法
なし
月夜野さんよりはマシ。そう自分に言い聞かせて、俺はステータスを表示させる。なぜか先日見たときに比べて体力と耐久、俊敏が上がっているのだが、これは昨日の10㎞マラソンの成果か?
あと、月夜野さんはスキルの説明文見たいのがあったけど、なぜか俺のスキルには説明欄がない。前見たときもそうだったよな。
「・・・・・・中里くん」
なんで哀れみを含む笑顔で俺の肩に手を置くの?少なくとも君のスキルよりは全然イタくないからね?
「へぇ、護もなかなかスミにはおけねえな」
俺のスキルを見て、なぜかニヤニヤと笑う東さんと、顔を赤くしている大間々先生。大人2人の意図が全くわからないんだけど、とにかく東さんは笑うのやめてくれ、頭にくるから!
「それで、中里くんのお相手って、どんな人なんですか?実は中里くんのスキルを知ってから、ずっと聞いて見たかったんです。もうこれだけの人が知ってるから、良いですよね?」
大間々先生がキラキラとした眼差しですっと俺の眼前に顔を出した。やめてくれ、美人の顔がいきなり眼前に現れるとか、インパクト強すぎて心臓に悪い。あと、シトラス系のめっちゃ良い匂いした!
「先生、ちょっと近いです。めっちゃ良い匂いします!」
「も~、ちゃんとお相手がいるのに、他の女の子にそんなこと言っちゃあ、メ!ですよ?」
なんかこの先生めっちゃ可愛いんですが?も~とか言ってほっぺた膨らませてたら、教員やってる年齢に見えないよ。
「それで、お相手ってなんですか?」
「とぼけちゃってぇ~。か・の・じょ、ですよぉ」
「いねえっすけど?」
「ふぇ?」
なんで先生の方が疑問顔なんかわからんけど、生まれてからこの15年、俺に彼女というのはいないぞ?
「う、ウソですよね?え?本当に?」
「なんでそんなに驚いてるのかわかりませんけど、俺に彼女はいません」
「じゃあ、婚約者とか許嫁は?」
「一般家庭の子どもに、婚約者とか許嫁とかいると思います?」
今のご時世で許嫁なんて文化残ってんのかな?少なくとも俺には縁のない文化だけど。
「でも、じゃあどうして『乙女の祈り』があるんですか?」
いつになく興奮した様子の大間々先生は、かなりの説明を吹っ飛ばして結論ばかりを求めてくる。
そもそも俺は自分のスキルのことを何一つ知らないので、どうしてこのスキルを持っているのかは俺が一番知りたい。
「護のスキル、『乙女の祈り』ってのはなぁ、聖魔法を持つ女性が、生涯にかけて一度だけ使える祝福なんだよ」
「テリオリスでは、生涯をかけて愛すると誓った殿方に贈る祝福なんです」
はあ、それは確かに素敵な話ですねぇ。他人事だったら、だけど。
え?なに?もしかして俺のこと好きな女の子がいたってこと?しかも生涯をかけてって、ちょっと愛が重い気もするけど、俺の周りにそんな子がいたなんて全然気づかなかった。
「でもこれ、誰でも使える祝福なんですか?」
「聖魔法を習得していなければ難しいですね。テリオリスでは、愛する人に祝福を贈るために聖魔法を習得しようとする女性が多いんでよ。聖魔法の習得はかなり難しいので、断念する人が大半ですけどね」
「さすがに、俺の周りに聖魔法を習得してるなんて知り合い、いないんですけど?」
俺の友人でスキルを持っていた奴は刀司しかいなかった。刀司は男だから、聖魔法を使えたとしても俺に祝福を贈ることはできないらしい。
実は刀司は女だった?
それは絶対にないな。この前だって一緒にスパ銭行ったし。
「あ~、やっぱりいるじゃないですか!」
刀司が実はTSした説を真剣に考えていたら、突然目の前の大間々先生が大声を上げた。手には、学院のスマホ型端末を持っている。どうやら生徒の情報を閲覧していたらしい。
「ほら、この子が中里くんに祝福を贈ってくれた子ですよ!」
俺の眼前にスマホをぐいぐいと押しつけてくる大間々先生。すいません、そんなに近づかれると色々当たって大変なんですけど!
「ちょ、先生離れて!慎ましいながらも確かに存在感のあるモノがあたってますから!」
「・・・・・・中里くん。それはさすがにちょっと引くよ」
なぜか月夜野さんに冷たい視線を向けられてしまった。これ以上俺を刺激しないでくれ!
「しっかり見てください。上野ひかりさん。あなたと同じ中学の同級生ですよ!」
一向に離れようとしてくれない先生が目の前に突き出してきたスマホの画面には、確かに知っている女子の顔写真が映し出されていた。
「この子、別に彼氏いますけど?」
「「え!」」
大間々先生だけでなく、なぜか月夜野さんまで驚いていた。
さすがにこの流れで、別に彼氏がいるってなれば驚くものなのかな?
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