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一応の自己紹介を終えた後、「お茶でも淹れますから」と大間々先生に言われたので、俺たちはソファーに移動したのだが。
「ちょっと座る場所考えましょうよ」
美女 美少女
テーブル
筋肉 俺 筋肉
筋肉で俺を挟むな!
ソファーめっちゃ沈んでるし、少し誰かが動くだけで悲鳴のような音が聞こえてくるんですが?
さすがに座ってるだけで壊れたりとかしないよね?
「それでは、少し今後についてお話ししましょう」
スルー?大事な話っぽいけど、本当にこの状態ではじめるんですか鈴木さん(仮)!
「本来であれば、日本の生徒が風守学院へ移動してくるのは3月下旬頃の予定でした」
「3月下旬?じゃあ、なんで俺たちはもうここにいるんですか?」
「こちらとしても予定外でした。まさか、スキルが発現した生徒の中に、2階から飛び降りて逃走をはかろうとしたり、叫びながら職員を背負い投げした挙げ句、廊下を駆け出して逃げだそうとする生徒がいるとは」
あ、はい。すいません。
「2階から飛び降りるって、マジですか?」
わかってますよ。俺がどんだけありえないことをしたのか。だからUMAでも見つけたような表情で俺を見るのはやめてください。
それに、月夜野さんだって職員背負い投げしたってマジ?鈴木さん(仮)クラスの男性を投げ飛ばしたっていうなら、こっちもドン引きなんですけど?
「お2人には今後も逃亡の可能性があるため、早々にこちらの学院へ移り、我々の監視下に入っていただくことになりました」
「逃げないって言ったら、一時帰宅とかさせてもらえます?俺、学校から直接連れてこられたから、なんの準備もしてきてないんですけど」
スマホはあるけど充電切れてもう使えない。充電器が無いので充電できないし、マンガやゲーム機、ノートパソコンなんかも持ってきたい。寮の自室で暇潰せる物がテレビしかないんだよ。
それに、着替えも無いので昨日からずっと制服を着たまんまなんだよ。下着の代えもないから、汗びっしょりのまま着続けてるんで、他人からしたら俺、かなり汗臭いと思うんですけど?
「残念ながら、許可できません」
「なんでですか!」
「中里くん。2階から飛び降りて逃げようとする人間が、信号で車が停車した瞬間に逃げたり、走行中の車から飛び降りたりしないと、信じることができますか?」
「・・・・・・できゃすん」
「どっちですか?」
だって逃げ出したいし!
異世界に関わりたく無いのはもちろんだけど、朝のウォーミングアップで10㎞走れとか言う人の訓練を常人が受け続けられるわけがないんだよ。
さすがに走行中の車から飛び降りるのは無理だけど、信号で停車中の車から逃げ出すのは良い案かもしれないな。
「というわけで、中里くんの一時帰宅は許可できません。よろしいですね?」
「で、でも、さすがに家族への報告とかもしたいし、最低限の荷物だって持ってきたいんですけど。着替えとか」
「確かに、着替えは必要ですね」
鈴木さん(仮)は軽くうなずいた後に、なぜかスーツの内ポケットに手を突っ込んだ。まさかそこから拳銃とか出てくるんじゃないだろうな。
「こちらを。月夜野さんもどうぞ」
懐から取り出されたのは、黒い長方形の小箱。鈴木さん(仮)がその蓋を開くと、中には拳銃じゃ無くてスマホ?
「えっと、これは?」
「風守市内で使用できる仮想通貨を管理する端末です。裏面には学院の校章も入っているので、学生証代わりにもなります。もちろん、電話機能やSNSでのやりとりも可能です」
つまり普通のスマホなのでは?と思った俺の心情を察したようで、鈴木さん(仮)は苦笑しながら説明を続けた。
「こちらは、ダンジョンの中でも使用可能な上、高ランクの魔獣の攻撃でも壊れることはない耐久性を持っています。ゆくゆくは、地図アプリでダンジョン内のナビもできるようになる予定です」
いまいち凄さはわからないけど、丈夫で電波がよくとどくスマホってことかな?
そこまで耐久性を上げたところで、俺はダンジョンに潜りたいとは思わないので、無用の長物だと思うけどな。
「仮想通貨って言っても、元になるお金はどうすれば良いんですか?」
「ダンジョンで魔獣を倒し、素材を販売していただければ、それに応じた金額が振り込まれるようになっています」
「それ以外には?親からの仕送りとか」
「ご家族からの仕送りは受けられないことになっています。親からの仕送りを当てにされると、ダンジョンに潜らない生徒が出てきますから」
それは俺ですね。絶対ダンジョンなんかに入りたくない。ダンジョン以外でお金を稼ぐ方法はあるだろうか?店もかなりの数が入るらしいから、バイトとかもできそうだけど。
いや、こう言うのって、お金が無くなったら強制退学とかあるんじゃない?
「ダンジョンに潜らないで、仮想通貨のお金が無くなったらどうなりますか?」
強制退学!強制退学!きょ~せ~たい~がく~!
「もし護の金が無くなったら、俺が無理矢理お前を連れて下層以下の階層に潜る」
「うそでしょ!」
「それはできればご遠慮願いたいですが。しかし、お金が無くなったところで問題はありません。朝と夕は寮で食事が出ますし、学院の学食では無料で食べられる食事も用意しています。さらに、学費や寮費も無料ですので、豪華な食事や趣味、遊びに興味が無ければ、風守市にいる間はお金の心配はありません」
「強制退学とかには?」
「強制退学?わざわざ遠方から集まっていただいているのに、強制的に追い出すようなことはしませんよ?」
そんなん強制退学にしろよ!お約束だろ!俺はお家帰りたいんだよ!
「今回は、中里くんの事情を考慮して、端末に10万円を振り込んでおきました。そちらのお金で必要な物を揃えてください」
「揃えろっていわれても、どこで買物なんかするんですか?」
「ここは異世界特区風守市です。都市機能は整備されていますよ」
そう言うと、鈴木さん(仮)は自分のスマホを取り出し、地図アプリを開いて見せてくれた。建物の中には、名前が表示されている物とバツ印がついている物があった。
「名前が表示されている建物が、現在利用可能な施設です。アプリで用途ごとに店が検索できるようになっていますよ」
鈴木さん(仮)に端末を借りて、試しに『レストラン』と入れて検索したところ、周辺に200件以上の表示が現れた。和食、中華、フレンチは当然、あらゆる国の料理店があるようだ。
表示の中に「スパルティア王国料理店あずま」という名前があったのは、見ないことにしておこう。
「申し訳ありませんが、バスや電車はまだ配備されていませんので、移動は徒歩でお願いします。学院の周辺にも様々な施設がありますので」
「・・・・・・わかりました」
果たしてどれほどの敷地面積があるのやら。
その全貌を目の当たりにする前にここから抜け出せれば良いんだけど、それはなかなか難しそうだ。ここは腹をくくって、風守学院で普通の高校生活を送れる努力をした方が良いんだろうな。
下手すると、ダンジョンに放り込まれて死ぬかもしれないし。
学院での目標としては、ステータスやスキルに関する事柄にかかわらない。異世界との接点は持たない。
そうすれば、普通の高校生活が送れる可能性だって十分あるよね。
「じゃあ、護は日用品の買物が終わったら俺と訓練だからな。早く帰って来いよ!」
あるよね?俺の普通な高校生活。
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