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大間々先生のおかげで、訓練が開始されることも、ダンジョンに放り込まれることもなくなった。
ただ、東さんに任せておくと何をしでかすかわからないと言うことで、今日のところは大間々先生も一緒に、学院の中を案内してくれることになった、のだが。
「ここが第1訓練場だ!」
なぜか真っ先に案内されたのは訓練場だった。
広いドーム状の建物で、一面に土が敷き詰められている。学校のグラウンドのような感じだ。どうしてグラウンドをドームにしちゃうんだろう?これ、雨の日にお休みとかになったりしないよね。
「ここでは高等部の生徒が基礎訓練やスキルの訓練をするときに使うぞ。じゃあ、試しにここで訓練を――」
「はい、では次に行きましょうか」
「待ってくれ奏!せっかく訓練場に来たんだぞ?なぜ体を動かさないんだ!」
訓練訓練とうるさい東さんを無視して、俺と大間々先生はグラウンドの中を歩いて行く。
それにしても本当に広いな。
周りにはなぜか観客席みたいなのも設置されているし、観客席の下はシャワー室やロッカールーム、トレーニングルームまであるらしい。ついでに軽食ができる施設も。
こんなのもう、どっかの球場以上じゃん!しかも第1訓練場ってことは、この規模のドームが複数あるってこと?どんなに金がかかってるんだよ!それに、建設期間だっておかしいよ。
「本当に半年もしないでこんな施設を造ったんですか?」
この訓練場だけじゃ無くて、学院や寮まで。半年もかからずに一つの町を創り上げるなんて、普通じゃ無い。
「山岳地帯は東さんが平地にして、建物の建設はクラフトスキルを持った職人さんが造ってくれたんですよ。さすがに電気の配線とかは業者さんにお願いしましたけどね」
うん、何を言ってるのかわからない。
そもそも、山岳地帯を平地にするって何?東さん1人で地形を変えちゃったってこと?それに、クラフトスキルを持った職人って、異世界で知識チートしちゃう系の人たちか?
「商業地区も明日から着工して、来週には建物ができるみたいです。買物ができるようになるには、一月くらいかかるみたいだけど」
大間々先生が何を申し訳なさそうに語っているのか、全く理解できなかった。
スキルの力に圧倒されながら、完成している建物をあらかた見学し終えた。時間も潰せたから、そろそろ寮に案内してもらえるのかなと思っていたら、巨大な門が設置された建物の前にやって来た。
門は軽く大型トラックがすれ違いできそうな程の横幅で、縦幅も10メートルはありそうだ。入り口に対して、建物は不釣り合いなほど小さく、2階建ての一軒家程度の大きさしか無い。正直、こんな大きな入り口いらないだろ?ってくらいのアンバランスさだ。
「ここがダンジョンの入り口だ!」
「ああ、はいはい。ダンジョンダンジョン」
「なんだ護、もっとテンション上げろよ!」
ダンジョンの入り口だ!って言われても、テンションなんて上がりませんよ。むしろ急降下。だって、俺が今一番関わりたく無い場所だもん。
「なんなら、ちょっと中を覗いてみるか?」
「いや、いいです」
不適にニヤリと笑う東さんに対して、俺は無表情のまま返事を返す。だって興味無いし、できれば生涯中に入りたくないし。
「まあいいか。基礎訓練が終われば、嫌でも放り込むからな」
「東さん、順序はしっかりと守ってくださいね?いきなり1人でダンジョンに放り込んじゃダメですからね?」
「・・・・・・・・・・・・わかってる」
「なんですかその間は!本当にわかってるんですか?」
「大丈夫、大丈夫だよ。ちゃんと訓練してからにするから」
訓練すればダンジョンに放り込んでも良いと言うことにはならないからね?訓練だって、できれば参加したくないし。
早く他の生徒がやって来て、東さんの興味が他に移れば良いんだけどなぁ。
その日はこの後特にすることも無く、準備ができたという俺の寮の部屋に連れて行ってもらえた。最後まで東さんは訓練するぞ!と叫んでいたが、大間々先生のおかげで事なきを得た。
部屋は意外にも1LDKの広さで完全個室。しかも家具一式に冷蔵庫、キッチン用品まで完備されている。食事は1階にある食堂で食べられるそうだ。まだ生徒が俺しかいないのに、わざわざ今日から準備してくれるってさ。誘拐まがいで連れてこられたとは言え、ここまでしてもらっても良いのだろうか?
とりあえず、今そんなことを考えても仕方が無い。まずは東さんの訓練を回避することに注力するとしよう。
その後は、どうやってこの学院から逃げ出すかを考える。
俺は絶対、普通で平穏な日常を取り戻してやるんだ。
「というわけで!朝練はじめるぞお!」
「・・・・・・」
早朝、まだ朝日が昇ってもいない時間。今何時?
新品のふかふかベッドで寝ていたはずが、気がついたら昨日見学した第1訓練場にいたんだけど、どういうことなの?
しかもなぜか、腰の周りにワイヤーのようなロープがグルグル巻きにされていて、その先っぽを東さんが握っているのだが?
「なっはっはっは。朝は空気が清々しいからな。走るぞ!」
「走るぞ!じゃないですよ。まだ陽も出てないじゃないですか。せめて明るくなってからにしてくださいよ」
寝る前に絶対に訓練には参加しないと決意したのに、早速挫折している。
頼みの大間々先生も、この時間じゃ起きてないだろう。つまり、助けは来ない。
「走っていればそのうち明るくなるから大丈夫だ!よし行くぞお」
「ちょっとまっ・・・うぉ、なんだよこれ!」
東さんが走り出した途端に、俺の体がもの凄い勢いで引っ張られた。腰に巻いたワイヤーのせいだなふざけんな!
転ばないように慌てて走り出すが、その様子を確認した東さんは嬉しそうに破顔した。
「なっはっはっは。まずはウォームアップ。このペースで10㎞走るぞ!」
「ウォームアップで10㎞って正気ですか?」
「すまない。ちょっと少なかったか?」
「多いんだよ!って、なんで俺がラノベのモブみたいなツッコミしなきゃいけないんだよ!」
異世界帰りだからって、俺なにかやっちゃいました?はダメだって!
俺に気を遣ってくれているのか、ペースはそこまで速くない。今のところなんとか走れているけど、10㎞なんて無理だ。持久走でだってそんな距離走らされないっての!
このおっさんに何を言っても無駄なのはわかってる。だったら、どうにかこのロープから抜け出す方法を考えよう。幸い、両手はフリーで使えるんだからほどくことだってできるはずだ。
どこだ?どこに結び目がある?
ロープ全体を手で触りながら確認するが、一向に結び目は見つけられない。それどころか、なんかこのロープおかしくない?ロープの端っこ同士がくっついている?
じゃあもうロープじゃないじゃん!っつうか、これじゃあ結び目見つけてもほどけないじゃん!何考えてんだよあの筋肉!
「ん?それ簡単にはほどけねえぞ?」
「じゃあ、どうやってほどくんですか?」
「ミスリルとアダマンタイトの合金を繊維にして編んだロープだからなぁ。2000度くらいの炎を出せるようになれば溶かせるか?」
2000度って、鉄もドロドロになってる温度じゃねえかよ!そんな温度の炎、人間が出せるわけないでしょ!
「ちなみに、どうしてこのロープは端同士がくっついてるんですか?」
「護に巻いた後、あぶって溶かしただけだが?」
「だが?じゃないよ!よく俺の体平気だったですね」
「ん?ああ、平気・・・・・・だったな」
「なんだよその間は!俺の体に何があったんですかぁ」
散々叫ばされたせいで、10㎞走り終わると同時に、俺は意識を失った。
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