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『地球のみんな、ごめんねぇ』


 その言葉と共に、異世界テリオリスが地球へやって来たのは半年前のことだ。


 海面に突如として現れた新大陸。


 魔力という謎の物質。


 スキルや魔法という謎技術。


 魔獣という謎生物。


 さらには『ステータス画面』なんていう謎機能までも現れて、地球はテリオリス以上に混乱したことだろう。


 しかし、俺にとってはそんなことはどうでも良かった。


異世界が現れたからといって、すぐに自分の生活に変化が起こるとは思ってもいなかったし、俺に関係があることは何もないと思っていた。


 なによりも、高校受験という問題の方が俺にとっては重要だったからだ。


 今と変わらない起床時間で通学可能な高校が、県内でもそこそこレベルの高い進学校しかなかった。


高校進学で生活に変化が起こってしまわないよう、それはもう頑張って勉強したよ。


 そんな苦労した高校入試が終わり、あとは合格発表を待つばかりだった1月の末。


 なぜかこの日、俺は世界が変わってしまったことを実感することになってしまった。






「今日はみんなに、ステータスを表示してもらいます」


 朝のホームルームの時間。担任の高山先生は教室に入ってくるなりそう言った。


 普段なら高山先生が教室に入ってくれば、生徒たちはいそいそと自分の席に戻るのだが、今日はその全員が足を止めていた。


「えっと、高山先生、その人は彼氏、ですか?」

「・・・・・・違います」


 そんなことを言えた奴は勇者だと思う。高山先生が御年32歳で、全くもって男っ気が無いとかそんなことは置いておいて。


 先生の背後には黒服を着た巨漢が立っていた。小柄な高山先生の背後にいることで、その威圧感はかなりのものだ。その圧に圧倒されてしまい、俺も巨漢から目を離すことができなかった。


「こちらの方は、内閣府から派遣された、こ、公務員の方です」

「内閣府異世界対策室から派遣されました。鈴木と申します」


 いや、絶対ウソだろ。


 教室中の意見が一致したはずだ。良くて格闘家。最悪ターミ○ーターだろ。


「先ほど先生からお話があったとおり、本日は皆さんのステータスを確認させていただきます。順番にお呼びしますので、呼ばれた方は廊下に出てください」


 なんでそんなことする必要があるのか、ツッコめる勇者はいなかった。




 ステータスの確認作業は、出席番号順に行われていた。名前を呼ばれて戻ってきた生徒の周りには人だかりができており、何をしてきたのかで盛り上がっていた。


「ステータスを表示して、あのでかいおっさんに見せただけだ。『なし』って言われて終わったわ」

「うちもそうだった。なんか下の方?じっと見て、『なし』って」


 ステータス画面なんて、半年前に1回見たっきりでその後開いたことなんてなかったな。


「ステータス」


 この一言で目の前にステータス画面が表示されるなんて、ファンタジー過ぎて嫌だったんだよね。


 これを見るだけでも、日常が変わってしまったのだと思い知らされる。




中里 護(15歳)


レベル1

体力:37

霊力:35

魔力:0

筋力:34

知力:40

俊敏:42

耐久:28

器用:33




 薄く発光した画面に視線を向ける。自分の能力がゲームのように数値化されていると思うと、ゲーム世界にでも転生したような気分だ。


 その手の物語は好きだけど、自分がそうなりたいとは言ってないぞ!


 さて、あの自称内閣府の公務員さんは、こんなものを見てどうしたいというのか。


「もしかして、スキルがあるか確認してるのかな?」


 誰かのつぶやきを拾って、みんなが納得の声をあげた。確かに、一時期はスキルによる事故や事件が多発して問題になってたっけ。


 今更だけど、国でスキルを持っている人間を管理しようってことなのかな?


 まあ、スキルは熟練の達人とかじゃ無ければ発現しないって聞いたから、俺には関係無い話なんだけどね。




スキル

乙女の祈り

魔法

なし




「・・・・・・」


 うん。ちょっと待ってくれ。確かに半年前にはスキルの下には『なし』って書いてあった。今のはちょっと光の反射とかで見間違えちゃっただけ。




スキル

乙女の祈り

魔法

なし



「・・・・・・・・・・・・はああああ!」

「どうした護」

「はぁ・・・はぁ・・・いや、なんでもないよ」


 奇声を上げて立ち上がった俺を、普通に心配してくれた友人が声をかけてくれた。俺だったら、変な声上げて急に立ち上がるような奴を心配なんてできないので、普通に尊敬してしまうって、今はそれどころではない!


 スキルだよスキル!


 なんで俺にスキルが生えてるの?


 しかも、『乙女の祈り』って、俺、男なんですけど?


 体は男、心は乙女、なんてことは一切無い。むしろそこは自信を持って言える。


「次~、中里護く~ん。廊下に出てくださ~い」

「・・・・・・はい」


 スキルの内容なんて気にしている場合じゃなかった。スキルの内容も問題だけど、今一番問題にしないといけないのは、俺がスキルを持っているってことだ。


 スキルを持っていることがバレたらどうなる?今までスキルの申告が義務づけられたって話は聞いたことが無い。法的にはさばかれる問題は無いと思いたい。


 だけど、明らかにあの黒服の巨漢はスキルの有無を確認している。スキルを持っているのがわかれば、何らかの面倒ごとに巻き込まれるのは明らか。


 俺の代わり映えのしない平穏ライフがなくなってしまうかもしれない。


それだけは、絶対に阻止しなければ!


「ど、どうする。どうすればこの場を乗り越えられる?」

「でもさぁ、このステータス画面って不思議だよね~。ホログラムって言うんだっけ?あれみたいじゃん。手ぇ普通にとおり抜けんのウケるぅ」

「それなぁ~」


 ステータス画面は手が通り抜ける?


「それだぁ!」

「え、え?どしたん中里っち。調子でも悪いん?」

「あ、大丈夫大丈夫。ごめんね」


 本気で心配してくれたギャル集団に謝罪をし、俺は扉に手をかける。


 ふっふっふ。これでやり過ごせるぞおぉ!


「中里護くん、で、お間違いないですか?」

「はい」


 廊下に出ると、先ほど教室にやって来た黒服の巨漢が待ち構えていた。


改めて見ると、身長は2メートル以上あるんじゃないかというほどの長身で、横幅も俺の2倍はありそう。手に持っているタブレットが、スマホと見間違う程のサイズ感だ。


 そんな彼が、身をかがめて俺の目線に合わせて話しかけてきた。


ごつい体をしてるけど、いい人なのかもしれない。


「それでは、ステータス画面を表示してください」


 ステータスを表示させる前に、両手をそっと前に出す。たぶん、スキルが表示される場所はここら辺だろうと言うところで、両手を開いて待機させる。


「ステータス」


 その言葉と同時に、俺のステータスが表示される。目論み通り、スキルが表示される場所を俺の両手が貫通しているので、目視するのは不可能だ。


 どうだ、これで俺のスキルは見えないだろう。


「中里護くん。少し手を下げてもらえませんか?」

「っえ!」


 にこりと微笑む巨漢の男。それにこちらも微笑みを返す。背中から、嫌な汗がつーっと落ちていく。


「スキル欄が見えませんので、少し手を下げてもらいたいのです」

「こ、こうですか?」


 腕をほんの少し下げて、指をウネウネと動かしてみる。ギリギリ隠れてはいるが、それを見た巨漢の男が、俺の手首に優しく触れた。


「「・・・・・・」」


 徐々に下に押す力を強くする巨漢の男。それに対して、俺も全力で抵抗する。


「ふん!」

「ひあぁ」


 かけ声と共に一気に力を込められて、俺の両腕はあっけなく下にたたき落とされてしまった。


「スキルを確認。おめでとうございます。今後についてお話がありますので、このまま2階の会議室に移動してください」

「・・・・・・はい」


 必死の抵抗もむなしく、俺がスキルを持っていることがバレてしまいました。


 はいはい、どうせムダな抵抗でしたよぉ。


 さすがにあの巨体を相手に手を出すとか、逃げ出すなんてできるわけ無いだろ!


「はあぁぁ」


 クソデカため息を吐きながら、とぼとぼと指定された部屋まで向かうことしかできなかった。



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