地球は異世界と統合されました

マグ




 輪廻の輪。その前で、神は魂を輪廻に返すため、作業を続けていた。


「俺、死んだ?マジで?てーことは、今からチートもらって異世界転生ってやつ?」

「はぁ~~~」


 その言葉を聞いて、神は大きなため息を吐いた。


「残念ながら、死んだ者の魂は輪廻の輪に乗って、この世界で転生することになる。記憶もリセットされ、新しい人生を歩むこととなるだろう」


 死んだ人間は等しく魂を浄化され、この世界で新たな生を受けることになる。それがこの世界の摂理だ。


「ああん?死んだ後神っぽい奴に会うってえのは、転生とかチートとかくれるからじゃねえのかよ。記憶も持ち越しって、お約束だろうが!」

「・・・・・・連れて行け」

「「はっ!」」

「ちょ、待てよ!い、異世界転生はどうなったんだよ~!」


 白いスーツに身を包んだ二人の男に両脇を抱えられた一つの魂が、輪廻の輪に放り込まれた。


 それを見送った神は、再びため息を吐くと、作業を再開させた。






 作業が一段落し、神は共を引き連れて自室へと戻ってきた。


「どいつもこいつも異世界転生、異世界転生。そんなにワシが創ったこの世界が嫌いか!夢も希望もないってか?あ~あ~そうでしょうとも。魔法もないしレベルアップだってしないし?チート能力?そんなんポイポイやってたら世界が崩壊するわボケ共がぁ!」

「か、神よ・・・・・・」

「この世界の住民が安心して生活できるようにと、魔力を封印し、魔獣が発生しないようにして早1000年。ワシが、この1000年どんな思いでこの世界を護ってきたと思っているのか。数多に世界はあれど、この世界こそが最も安全で豊かな世界であるというのに」

「神よ。我ら神の使いはそのことを理解し、日々感謝しております。どうか、お気持ちを落ち着かせてくださいませ」

「他の神だっておかしいだろ?なんでホイホイうちの世界の住民を召喚していくんだよ。そのせいで帰還者の一部から話が漏れて、今じゃ異世界転生や異世界召喚の物語ばっかりじゃん!○ろうもカ○ヨムも異世界転生はデフォルトになってんじゃん!もっとこうさぁ、ワシの世界を楽しむ物語でいいじゃん!あ~あ、一昔前みたいにラブコメが流行んねえかなぁ」

「神よ、ご安心ください。最近では配信を切り忘れて~、みたいなラブコメが流行っています。もはや異世界転生の文化は廃れてきているのでは?」

「あ~、配信者系ね。ワシもあれ好きだわ。妹が実は人気のVチューバーだったとかな~。でもあれってさ、最近ダンジョン配信モノが主流じゃね?」

「そ、それは・・・・・・」

「ワシの世界、ダンジョンありませんけど?まあね、ワシの世界にダンジョンができるくらいならね、許容範囲よ。なんなら、ワシが封印してる魔素の一部を開放すれば、ダンジョンの千や二千すぐに創れるし?ただ、そうするとダンジョンから魔獣が溢れ出す可能性があるからね。わかる?ワシ、この世界のために頑張ってるんだよ。それなのにさぁ」

「まあ、ある意味そういう危険があるからこそ、ラブコメがはかどったりするんですけどね」

「あ~、そういうこと言っちゃう?じゃあ出すよ、ダンジョン。1000層くらいの難攻不落な最強ダンジョン出しちゃうよ?」

「1000層って、そんな階層のダンジョン発生させたら、マントル突き抜けちゃいますって」

「マントル周辺だけ灼熱エリアって設定で良いんじゃね?」

「その階層で攻略はできなくなりそうですけどね」

「ふふ、まあ、色々言ったけどさ。ワシはこの世界も、そこに住まう人間たちも、等しく愛しているわけだ。だからさ、ダンジョンだの魔獣だのと、そんなものはないほうが良いに決まってるよ」

「神よ、さすがでございます」


 ひとしきりグチをこぼした神は、共をしていた男から差し出された紅茶に口をつける。もちろん、地球で作られた一般的な物だ。


高級品ではないのは、最近グチが多くて部下に嫌われているからではなく、単に神が安価で多くの人間に飲まれているものを求めているから、のはずである。


「失礼いたします」


 白いスーツに身を包んだ女が、丁寧な所作で部屋に入ってきた。彼女が抱えている大量の書類を目にすると、なぜか嫌な予感が漂ってくる。


 せめて紅茶を飲み終わるまでは、話を聞かないようにしよう。


「先ほど、異世界召喚が行われて、とある中学3年生のクラスが一つまるごと転移いたしました。人数は、生徒28名、教師1名の29名です」

「ぶぅーーーーーー」


 神の願いは届かず、用件を告げた女の話を聞いて、神は盛大に紅茶を噴き出してしまった。


「神よ、これはいわゆるパワハラですか?」

「いやいやいや、これワシ悪くないよねえ。せめて紅茶飲み終わるまで待とうよ。あとちょっとだったじゃん。なんでそれまで待ってくれなかったの?」

「緊急だったもので」

「そうだね、そりゃ緊急事態だよ。ワシが紅茶噴き出すくらいの緊急性だよ!それで?どこの世界?」

「異世界、テリオリスです」

「またメィシューナのところか!今世紀に入って何度目だよ!別に世界の危機とか起こってないくせにポンポン召喚しやがって。国同士の戦争なら自分たちでやれ!できないなら戦争なんかすんなよぉ。大体、あそこの召喚魔法はへったくそだから。ホントへったくそだから。毎回毎回ワシの世界の住人をさらっていくうえに境界に大穴空けやがって。誰がその大穴直してると思ってんだよ。DIYみたいに気軽な工事じゃないってんだよ」

「神よ、境界に穴があいたため、召喚された者たちの様子が観測できます。今ならまだこちら側に呼び戻せるかもしれません」

「そうだな。急に異世界に召喚されて、みんな不安がっているだろう。今すぐワシが、助け出してやらねば」


 そう言って、神は片手を振り下ろすと、空中に映像が映し出される。


 映像の中では、学生服に身を包んだ子どもたちが、銀色の甲冑を着た集団に取り込まれていた。


『よっしゃあ!来たぜ異世界転生!』

『これでクソみたいな世界とおさらばだ!』


「でしょうね!ああわかってたよクソ!」


 わかっていたとは言え、ショックを隠しきれない神は、ついに膝から崩れ落ちた。


「どうせさぁ、みんな思ってるんだよ。ワシの世界なんかより、メィシューナの世界の方がいいなぁってさぁ」

「神よ、その、メィシューナ様から通信が入っておりますが」

「あ~はいはい、つないでどうぞー」


 神がおざなりに手を振ると、先ほどまで映し出されていた映像が切り替わり、一人の少女の姿が映し出された。


『あ、あのあの、師匠、大変なんです。また私の世界の子が、師匠の世界の子たちを召喚しちゃって。ってあれ?師匠、どうして頽れたみたいになってるんですか。大丈夫ですか』

「ダイジョブナイ」

『どっちですか!そんなことより、また境界におっきな穴があいちゃったんで、直してもらってもいいですか?私まだ境界の修理って得意じゃないんですよねぇ。それから、召喚された子たちなんですけど、喜んでるみたいだし、いつも通りこっちの世界に定住してもらってもいいですよね?』


 せめてもう少し悪びれながら言ってくれれば良いのに。そう思うも、口にする気力すらわかなかった。


 メィシューナは地球の神のことを師として尊敬しており、見下すようなことはしていなかった。ちょっとだけお口が悪くて、勘違いされやすいだけだ。


 それは地球の神も重々承知していたが、タイミングが悪かったとしか言いようがない。


「メィシューナよ、ワシャもうダメだ」

『え?え!ダメってなんですか』

「ちょっと地球とテリオリスくっつけるから、あとよろしくね」

『はぁ?くっつけるって、何言ってるんですか』

「か、神よ。ふ、二つの世界を統合すると言うことですか?そんなこと、前代見物ですよ」

「いいよいいよ。どうせワシの世界なんて誰も求めてないんだから。後のことは優秀な女神であるメィシューナに任せるから」

『ちょ、待ってくださいって、ウソ、吸われてる?わ、私の世界そっち側に吸われてるんですけど~?』





 その日、二つの世界は一つになった。


 地球の7割を占めていた海は、その3割を異世界テリオリスの大地に埋め尽くされた。


 そして、地球の神が1000年にもおよび封印し続けてきた魔素が開放され、魔法やスキル、ステータスが地球の人々にも現れ始めた。


 地球の神は姿を消したまま、どこへ行ってしまったのかはわからず。


 メィシューナが統合された世界の神として世界のシステムを運営することになってしまった。


 自ら創り上げた世界を愛し、停滞させていた神は姿を消し、新たな神と共に地球へやって来た世界により、二つの世界は前進していく。


 停滞することが正しかったのか、前進することでさらなる発展が望めるのか。


 それはまだ、神にも知る由はなかった。







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