第5話 盤上ゲーム・「リブーム」

「レイグス、あれが子どもだ」


 ひそひそ話をやめ、アレクシスが彼女から体を離すとはっきりと言う。


「分かっております、旦那さま」


 ソフィアはこれまでとは違う態度で、アレクシスに接する。周囲に彼らの関係性が主従関係であるようにつくうためだ。

 ソフィアの素早い返答に、アレクシスはにっと笑った。


「ゲームは『小さな宝石遊びリブーム』のはずだ」

「かしこまりました」


「リブーム」というゲームは、盤上ゲームの一種で、形の違った五種類の駒を使う。それらの駒を使って相手の駒を挟んで取り、多く取ったほうが勝者となる。


 司会者は次にゲームに参加する人の募集に入る。


 ここに来る者たちは、景品を手に入れるために自分でゲームに参加することもあるが、自分よりも強い人を雇って戦わせることがほとんどだ。選りすぐりのゲーマーたちが集まると言っても過言ではない。


「……では、行ってまいります」


 するとアレクシスが、彼女の手をつかんで「レイグス」と名を呼んだ。


「何でございましょう」

「この勝負、絶対に勝ってくれ」


 懇願こんがんする彼に、ソフィアは静かに答えた。


「もちろんそのようにいたします」

「頼んだ」


 ソフィアは席を立ちあがると、腰紐こしひもにつけていたおうぎを手にした。黒い鳥の羽が付いているそれは、見えている口元を隠すだけでなく、優雅さを演出してくれる。ソフィアに貴族の女っぷりを補完してくれる道具を手にすると、彼女は舞台の方へ向かった。


     ☆


 二人の子どもを掛けたゲーム――「リブーム」は縦七マス、横六マスの計四十二マスに区切られている盤上で戦う。


 ゲームに参加する者には、■、◆、●、▲、★に研磨された石の駒が渡される。これらにはそれぞれ宝石から名前が付いていて、次のように呼ぶ。


*■……パイロープ

*◆……アンドラダイト

*●……デマントイド

*▲……グロッシュラー

*★……ウバロ


 対戦相手との違いが分かるように、白と黒の二種類が用意される。白が先攻、黒が後攻だ。


 先攻、後攻を決める際は、セルディア王国の百レイル(=約百円)のコインを投げて決める。


 まず司会者もしくはオウルス・クロウの関係者が、対戦者の一方に表が出るか、裏が出るかを尋ねる。表ならフェリウス二世の横顔、裏なら国花であるアートメーリア(百合に似た花)が出るのだが、聞かれたほうはどちらの面が出るのかを答えなければならない。


 その後コインを投げて、合っていれば先攻か後攻か選ぶことができ、違っていたら司会者が尋ねなかったほうが先攻か後攻かを選ぶことができる。


 決まれば対戦者同士、こまに細工がされていないか確かめながら、定位置に置く。


 こまは、手前のマスに左から右に向かってウパロを二つ、次にデマントイドを一つ、グロッシュラーを一つを置き、またウパロを二つ並べる。

 そして一つ上の列では、デマントイドの上にパイロープを置き、グロッシュラーの上にはアンドラダイトを置く。


 ルールは次の通り。


<ルール>

*白の場合は、□、◇、〇、△、☆を使う。形の呼び名は黒と同じである。


*縦六マス、横六マス、計三十六マスに区切られた盤を使う。


*両方向から挟んで駒を取る。横、縦、斜めと一列になっていればよい。


*一列になっていれば、複数(相手の駒が途中にあればそこまで)取ることが可能。


デマントイドは、前後左右斜めのどれか一つの方向に何マスでも動くことができる。


グロッシュラーは右斜めもしくは左斜め(後退も可)の方向に何マスでも動くことができる。


パイロープは前後左右一マスずつしか進めない。その代わり、これはどこの位置にあっても三方向から挟まなければ取ることができない。


アンドラダイトは前後左右一マスずつしか進めないが、盤の半分を越えたら●と同じように動くことができる。これは盤の半分より戻っても効果は残る。(デマントイドと同じ効果になったと分かるようにアンドラダイトは裏にする。裏には黒なら白いデマントイドの形をした小さな石がはめ込まれており、白なら黒のデマントイド小さな石がはめこまれている)


ウパロは前後に、一回で二マス進むことができる(一マスでも可)。盤の半分を越えたら左右に一回で二マス動くことができる。これは盤の半分より戻っても効果は残る。

(効果が変わったことが分かるように、ウパロは裏にする。裏には黒なら白いウパロの形をした小さな石がはめ込まれており、白なら黒のウパロ小さな石がはめこまれている)


*盤の角に置かれたものは、パイロープ以外でも三方向から挟まなければならない。


*自分の駒の間に、相手の駒が二つ、三つとあるときでも両脇から挟んでいれば、駒を取ってよい。また列にパイロープがある場合は、三方向のルールは適用にならないため、パイロープも取ることが可能である。


 勝敗の付き方は、四つある。白色の駒が勝つと仮定すると、以下のようになる。


 まず、黒色の駒が一つになったとき。リブームは駒を挟むゲームである。そのため、挟める駒が無くなれば試合終了である。


 次に、黒色の駒が二つでパイロープがない状態であり、かつ白色の駒に□を含め二つ以上の駒がある場合。パイロープはどこの位置にあっても、三方向から挟まなければ取ることができない性質をもっている。そのため、黒色の駒が二つあっても白色のパイロープを取ることができないことから、この時点で黒色の負けが決まる。(場合によってはこのルールを無くすこともあるが、早く勝敗を付ける場合は適用されることがほとんどである)


 三つ目が、デマントイドグロッシュラーのどちらかを取られた場合、残っている駒の数に関わらず負けとなる。


 四つ目が時間制限。一試合二十分で、一人の持ち時間が十分である。

 上記に挙げた三つに当てはまるものがない場合は、残った駒の数が多いほうが勝ちだ。


 普通のリブームはじっくり数時間かけて戦うが、オウルス・クロウという闇組織は、夜中にしか現れないため、自分たちの撤収の時間を含めて早く決着を付けたがる。そのため対戦者たちも、決められた時間のなかで、自分が有利になるように戦うのだ。


 リブームにはそれぞれの戦い方がある。


 駒を角に置いて防御を強くする者もいれば、アンドラダイトの性質を生かして攻める者もいるし、デマントイドグロッシュラーを取られないように、できるだけ別の駒を使う者もいる。


 長い時間をかけて戦うなら、じっくりと構えた戦いも可能だ。だがオウルス・クロウでのリブームには時間制限がある。そのため、攻めなければ負ける。


 しかも、自分の戦う方法はいくつか持っていなければならない。相性によっては、自分の戦い方が不利になる場合もあるからだ。


 よって、複数の手札のなかから、相手に最も勝てそうな方法を繰り出し、かつできるだけ攻める戦いを行わなければならない。


 闇取引の試合は、勝者だけが次の試合にのぞむことができる。必ず勝たなければ、あの子たちを助けることはできないのだ。

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