第4話 貴族の子どもたち

「一つ聞きたいんだが、その話しぶりだと君は組織に属していなかったんだな?」


「誘われてはいたんだが断った。俺のほうでも捜査隊を作ろうと思っていたから、父が作っていてくれた資料を基にして、独自に行動していたんだよ。お陰で生きびることに繋がったというわけ。奴らは、関わっていた人間を生かしておくような連中じゃないからな……。ただ、どうやってオブシディアンに関わる情報を、手にしたのかまでは分からないけどね」


「……」


 スビリウスに立ち向かう者たちは、それなりの手練てだれだったはずである。それにもかかわらず、当時その組織に属していた者たちは皆殺しにされたということは、情報がいもづる式になっていて、一つ引っ張るといくつか引っこ抜けるようになっていたに違いない。


 そして邪魔者がいなくなったオウルス・クロウは復活の機会を待ち、今宵こよい、満を持して再び闇に戻って来たということだろう。同じ失敗を繰り返さないように、綿密めんみつな網を張っているはずだ。


「オブシディアンに所属していた者たちは、本当に誰も残っていないのか? 奴らは確かに手ごわいが、まさか一人も生き残らないほど、組織に無能な人間ばかりいたわけではないだろう?」


 ソフィアの問いに、アレクシスは深くため息をついた。


「それが問題でね。実は組織を主導していた貴族と、仕事を請け負っていた数人は辛うじて生き残っていたんだ。主導者は残った仲間を逃がし、自分たちはスビリウスに気づかれないように振舞っていたんだけど、数か月前に屋敷が何者かに襲われたって話だ」


「何?」


 ソフィアが低い声で反応したとき、司会が「本日一番の景品はこちらでございます!」と言って会場が沸き上がったため、彼女たちは会話を中断しそちらに注目した。


 舞台袖ぶたいそでから、黒色の無駄につやのある布が被された箱が運び込まれてくる。そして支配人がその布を取ると、大きなおりとその中にあるものがあらわになった。


「そういうことか……」


 景品として運び込まれたのは、子ども――それも二人もいたのである。


「本日のゲームの景品はこちらでございます」


 檻の中に入った子どもたちは、黒いドレスを着せられていた。


 ここでは子どもを商品や景品として出すとき、男だろうが女だろうがドレスを着せることになっている。オウルス・クロウ側の言い分を借りると、「商品を華やかに見せるため」らしい。


 ソフィアは舞台の上の司会者を冷ややかな目で見て、薄く笑う。十年前と何も変わっていない。相変わらずこちらの気持ちをいちいち不快にさせる。


「こちらの子どもたちは、年子としごなのでございます。目元に仮面をつけていてよく分からないかもしれませんが、中々似た顔立ちをしているのですよ。まるで双子のようです」


 司会者の男は、おりの天井部分に手を置きながら説明すると、会場がざわめいた。


「さらに素晴らしいことに、血統書付きでございます」


 楽しそうな声で司会者が場を盛り立てる。


 血統書付きというのは、人間でいえば貴族のことを意味する。


 子どもたちは自分たちの状況を把握しているのかどうか分からないが、何かを恐れて身を寄せ合い檻の奥で固まっていた。


「血統書付きということは、それなりに足が付く可能性は否定できません。飼いならすのであれば地下のあるお屋敷が良いでしょう。ああ、召使にするのもいいかもしれませんね。今は仮面を被せていますから分かりませんが、大変顔立ちが整っているのですよ。美しい漆黒しっこくの髪に、色の付いた瞳フェルシュミズ。ああ、瞳の色は、景品を手にした人だけが分かりますので、ここでは申し上げません。ご了承くださいませ。この兄弟をおもちゃにするのもよし、道具にするのもよし。紳士淑女しんししゅくじょの皆さまにお任せいたします」


 司会者の言葉とそしてその言葉に盛り上がる会場に、ソフィアは腹の底で何かが燃え上がった。久しぶりに沸き立つ感情である。


 人の子をおもちゃだの道具だのとしていいものではない。ましてや見世物でもない。

 ソフィアは握る拳に力を入れていた。

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