第12話 夢

わたしは濃い霧の中にいた。

どこからか声が聞こえた。


テノールの声が響く。

不思議と心地良い。


『ぼくは貴方の味方だよ』

声は優しくささやいた。


『このままでは裕也は、従妹かもみに取られてしまうかもしれない。』

『それでもいいの?』


声はわたしに問いかける。


「「いや!」」


わたしは叫んでいた。

胸がズキズキと痛む。


良い方法を教えてあげるよ。

その言葉は、うっとりとさせる声色を含んでいた。


「そんなのどうやってすればいいの」


すがるような思いで私は問いかける。


それはね・・・・。


わたしはその声の言う事に、しだいに抗えなくなって・・・。



**



「んんん・・・」


変な夢を見た。

よく憶えていないけど嫌な夢だった気がする。

朝から不快な気分だ。

最近ずっと、同じ夢を見ている気がするんだよね。


「あみ、あみってば!」


私は玲奈の声で気が付いた。

そっか、今教室にいたんだっけ。


「どうしたの?最近ぼーっとしてるみたいだけど」


「・・寝不足かなぁ。最近変な夢を見てるみたいで・・」


「夢?どんなの」


「それが、思い出せなくてさ・・」


朝起きると、ひどく不機嫌な気分になる。

でも憶えていない。


「松永さんてさ、あれから来てないよね。どうしたんだろ」


裕也は学校に登校するようになった。

かもみだけが休んでいた。


「初日だけ登校するって変なの」


玲奈は普通の事を言っているだけのはずなんだけど。

私にはすごくに聞こえた。

何でだか、よく分からないのだけど。


「あみ、しかめっ面してる」


「え?」


無意識で顔が変なことになっている。

私、最近変なのかも。



****



ピンポーン


夜に呼び鈴が鳴った。


「誰だろう?」


誰も家に来る予定はない。

セールスだろうか?

インターホンを見るとあみが映っていた。

何かあったのだろうか?

俺はドアを開けた。


「あみどうした…」


あれ?何かおかしい。

俺の顔を見ていない。

あみは俺を押しのけ、家に入ってきた。

いきなりリビングに座っていた、カモミールの腕をつかんむ。


「お前どうしたんだよ!」


呼びかけても反応がない。

カモミールは、あみの手を振りほどこうとするが離さない。


「裕也はわたしのものなんだから、貴方には渡さない…」


何かブツブツ言っているようだ。

あみはカモミールを強引に引っ張って、玄関まで連れて行く。


「お前、おかしいぞ?」


声が届いていないらしく反応が無い。

俺は強引に、あみの手をカモミールから引きはがした。

しつように、あみがカモミールに襲い掛かる。


「もしかして、操られているのかもしれない。魔法が使えたら…あ!アレあったかも」


カモミールは思いついたように、空中の何も無い空間に手を突っ込む。


「あった!」


透明な容器に入った液体。


パシャッ

カモミールは栓を抜き、液体をあみの顔にかけた。

あみの髪も服も濡れてしまった。


**


「…冷た、あれ?何で濡れてるの」


しばらくして、あみは意識が戻ったようだった。


「あれ?ここは裕也の家?わたし何でいるんだろ…え、あなた…誰?」


カモミールを見つめるあみ。

カモミールはただ黙ってあみを見ていた。


「ここには、かもみさんがいるはずよね?」


あみは家の中を探し始める。


「かもみさん?いないの?」


勝手に二階に上がり、ドアを開けて探し始めるあみ。


「あみ・・」


あみが一階に降りてきたところで声をかける。


「かもみは・・いないんだ」


「え?どういう事?」


「目の前の彼女が、かもみ、エルフのカモミールなんだよ」

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