第17話 ドローン
「はぁー、使えない。闇バイトなんかに引っかかる頭弱い奴を雇うんじゃなかった」
階段を降りてきたのは高校生くらいの女子だった。
ピンクのブラウスに黒いスカート。どちらにも白いフリフリが付いている。胸元にはデカい黒リボン。淡いピンクの髪は緩く巻かれている。。
凛子は彼女を見ると、大きく目を見開いた。
「この人……!?」
「知り合いか?」
「知り合いではないわ。彼女は『
暴露系。
その言葉にレオンは首をかしげた。だって知らない単語だもの。
十五年前には存在しなかった言葉だ。
「すまない。暴露系とはなんだ?」
「え? ええと、他人の秘密をネット上で公開するタイプの配信者のことよ。有名人が『裏ではこんなに悪いことをしています!』って公表するの」
「なるほど……」
いわゆる週刊誌のネット版みたいなものだろう。
そんな活動をする配信者が居るとは驚きだ。
個人で活動するとなると情報収集が大変そうな気がするが、現代ならSNSなどで広く情報を集められるのかもしれない。
レオンが暴露系について聞いていると、しいなは鼻で笑ってレオンを見下ろした。
小馬鹿にするようににやにやと笑う。
「うわぁ、暴露系も知らないとか、どんだけ情弱なわけ?」
「じょうじゃく……?」
「情報弱者の略よ。物を知らない人って意味ね」
またしても凛子に解説して貰えた。なんで知らないのかと、凛子にも呆れた顔をされてしまう。
ここはレオンのロールプレイということにして、ごまかしておこう。
「情報弱者か……異世界から来たばかりなのでな。日本の事はよく知らないんだ」
「きも。服も言動も痛いとか、全身イタイタ人間じゃん」
「……それは全身骨折してないか?」
少しロールプレイをしたら、しいなから鋭い言葉のナイフが飛んできた。
同年代の女子に『キモい』と言われるのは心に来る。
レオンは心の痛みに耐えながら、しいなを睨んだ。
「貴様は『雇うんじゃなかった』と言っていたな。つまり、この事件の関係者と考えても良いな?」
しいなは言っていた。『闇バイトなんかに引っかかる頭弱い奴を雇うんじゃなかった』と。
つまり、彼女が凛子を誘拐した男たちを雇った側。
今回の事件の首謀者と考えられる。
「まぁねー。パパがお小遣いくれるって言うから」
「パパ……親に頼まれて誘拐をしたのか?」
「レオンさん。パパって言うのは女の子を支援する男性のことよ」
「そ、そうなのか……」
なんで、そんな意味になってるんだよ!?
どうにも、しいなとの会話では知らない単語がボロボロと出てきて調子が狂う。
もっとも、レオンは前世も含めれば三十歳。高校生ぐらいのしいなとは常識が違いすぎるのかもしれない。
孫と会話するおじいちゃんは、こんな気持ちなのだろうか。
「ともかく、この事態を貴様が企てたのならば逃すわけにはいかない。話を聞かせて貰おうか」
「お前みたいなダサい奴がしいなちゃんを捕まえるって……笑えるわぁー」
笑えると言いながらも、しいなはにこりともしていない。
階段の上からレオンを見下している。
ぱちん。
しいなが指を鳴らすと、蜂の羽音のような、ぞわぞわと背筋を這う音が響きだした。
(なんの音だ……)
しいなを警戒していると、その背後から四基の機械が飛んできた。
まるで特殊なラジコンヘリ。
中央に穴が開いており、穴にはブンブンとプロペラが回っている。
「なんだ。あれは……」
「あれはドローン型の魔法機よ。気を付けて!!」
ドローン。
どうやらただのラジコンとは違うらしい。
ドローンたちはブンブンとしいなの周りを飛び回る。
「やれ」
しいながレオンを指差すと、一機のドローンが飛び出した。
ギュイィィィィィィン!!
響き渡るのは甲高いモーター音。なに事かとドローンを睨むと、その外周に付けられた刃が回転を始めた。
のこぎりのようにギザギザとした刃がレオンに向かって迫る。
「ッ!?」
ギャリギャリギャリギャリ!!
レオンは咄嗟に剣を取り出し、ドローンの攻撃を防いだ。
剣と刃がぶつかり火花を散らす。
「剣を削り切るか!!」
安物の剣ではのこぎり刃に対抗できない。
ギャリギャリと火花を散らして剣が削られる。
バキン!!
耐え切れなくなった剣は、呆気なく二つに割れる。
レオンを守る剣が消えた。
のこぎり刃が目前に迫る。
「ならば、物量で押し切るとしよう」
ガン!!
レオンの足元から出現した剣がドローンを弾き飛ばす。
それに続いて足元から剣が噴き出した。
それは竜巻のように渦を作り出すと、レオンを守る竜のように飛び回る。
剣の一本や二本ではドローンに対抗できない。
しかし、この量の剣ならドローン四基で止められるわけがない。
単純に質量で押しつぶされるだけだ。
「女を切り刻む趣味は無い。諦めて降伏しろ」
「だからさぁ、いちいち格好つけて喋るのが、痛いしキモいんだよね」
しいなはレオンを睨むと、ぱちんと指を鳴らす。
ビルからおびただしいほどの羽音が響いた。
パリパリパリ!!
ビルの窓ガラスが割れると、そこから飛び出してきたのは大量のドローン。
夕暮れ時のカラスの群れのように、ドローンが狭い空を埋め尽くす。
「そもそも、物量でも負けてないから」
「……なるほど」
ギャリギャリギャリ!!
空では剣の竜巻と、ドローンの群れがぶつかる。
先ほどのように剣とドローンが正面からぶつかっても勝ち目はない。
折れた剣と損傷したドローンが地面に転がるが、圧倒的に剣の方が落ちていた。
このままでは負ける。
「コスプレしてる変態には興味ないから、その凛子って女を置いて消えてくれない?」
「……悪いが、それは出来ないな。凛子は大切なビジネスパートナーだ」
「じゃあ、お前も一緒に切り刻んでやるよ」
ブブブブブブブブブ!!
まさに蜂の巣を突いた様に羽音が鳴り響くと、ドローンの群れがレオンたちに迫る。
「……少し失礼する」
「きゃっ!? な、なに!?」
「しっかりと捕まっておけ!」
レオンは凛子をお姫様抱っこ。
凛子は驚きながらもレオンに従って、レオンの首に腕を回した
迫るドローンから逃げるように走り出すが、逃げ場はない。
狭い通路の先はドローンが塞いでいる。
少し走っただけで、レオンはビルの壁に突き当たった。
「動画のネタを引き出したいから、死なないでねー」
しいなは興味もなさそうにスマホをぽちぽちといじっていた。
もはや勝利を確信しているようだ。
無理も無いのかもしれない。レオンの背後にはビル、周りはドローンたちが取り囲んでいる。
どこにも逃げ場は無い。
「じゃ、おつかれー」
甲高いモーター音と蜂のような羽音がレオンたちを押しつぶした。
ギャリギャリギャリ!!
コンクリートを削って火花が散る。
しかし、血は一滴も流れない。
「戦闘中によそ見とは、あまりにも甘いな」
「はぁ? ッ!? お前、なんで壁に立ってるわけ!?」
しいなはスマホからレオンに目を向けると、大きく目を見開いた。
そこにはビルの壁面を歩くレオンの姿。
魔法都市で売っていた壁を歩ける靴も買っていたのだ。
「だとしても、お前のなまくらじゃ、しいなちゃんのドローンには敵わないでしょ。切り刻んでやるよ!」
「確かに安物の剣では勝てないが、俺は剣を飛ばすだけの無能じゃない」
ぱりん!!
ドローンの群れに向かって灰色の石が飛んだ。
それがガラスのように砕け散ると――バラバラとドローンが墜落する。
「攻撃アイテム『ノームの落とし物』だ。割れた地点を起点として強い重力を発生させる。飛んでいる敵には効果てき面だろう?」
「なんだよ。そのチートアイテム!!」
「チートとは失礼だな。俺が使っているの正規アイテムだ。なにも不正改造などしていない」
レオンは悠々と地面に降りると、今度は水晶のような丸い瓶を取り出した。
中にはスノードームのように白い粉が詰まっている。
それを落ちたドローンたちに投げると、白い粉が散らばってパキパキとドローンが凍り付いていく。
「こっちは『雪妖精の鱗粉』だ。触れた物質を凍り付かせる。凍ってしまえばプロペラも動かない」
ご丁寧にプロペラを回して飛んでいるのだ。
魔法機とは言っても、基本的な浮力は物理に依存しているはずだ。
ガチガチに凍らせてしませば、簡単にプロペラを回すことも出来ない。
無理に回そうとすれば自身の羽を傷つけるだけだろう。
「これが『レオンハルト』の強さだ。剣を飛ばすだけでなく、多彩なアイテムを使って翻弄する。『ブレイブ・ブレイド』をプレイしていれば、もう少し警戒出来ただろうにな」
「うぜぇドヤ顔しやがって……!!」
しいなは苛立たし気にレオンを睨む。
実際にレオンはドヤっているので仕方がない。
キモいだなんだと罵倒してくるガキを悔しがらせるのは楽しいものだ。
レオンが悔しそうにしているしいなを見て愉悦に浸っていると、抱っこしてる凛子がちょんちょんと頬を突いた。
「どうした?」
「気を付けて、あのドローンおかしいわ」
「おかしい?」
「あのドローンたち、明らかにしいなさんの指示に従っていたけど、操作していた方法が分からない。AI制御でもなさそうだったし……なにかが、おかしいわ」
凛子におかしいと言われて、レオンも凍り付いたドローンを見つめる。
すると、ドローンからほわほわと白い何かが漏れてきているのが見えた。
「へぇー、流石は魔法メーカーのお嬢様。分かってんじゃん」
ぞるぞるぞる!!
ドローンたちから白い粘液のような物が漏れ出る。
粘液は氷をすり抜けて、うねうねと一つにまとまっていく。
それはスライムのように一つにまとまると、しいなの背後に鎮座した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます