第6話 コスプレ会場

 日本に逃げるのは、もう少し足掻いてから。

 そうと決まれば、さっさと動かなければならない。


「わかば、俺は作戦を思いついた。帝国の奴らをぶっ飛ばし、ストーリーをぶち壊す」

「え、それには戦力が足りないのでは?」

「ああ、あっちの世界だけなら無理だった。しかし、日本に来れた今、話が変わった。作戦を教えてやろう――」


 レオンは二人に作戦を説明した。

 作戦と言ってもシンプルだ。

 日本で稼いで武器を買いあさる。それを使って帝国をぶっ飛ばす。


「なるほど、現代日本の武器とレオン様の固有魔法が合わされば『俺TUEEEE!!』できますね!」

「おれつえ? 言葉の意味は分からんが、伝わってるようだな……ともかく、まずは俺の知名度を上げる。配信者として儲けるのが、近道のようだからな」

「そうですね。まずはSNSのアカウントでも作りますか? 命を助けて貰ったわけですし、じゃんじゃん協力しちゃいますよ!」

「いや、それよりも行きたい場所がある」

「行きたい場所?」

「ふっ、先ほど教えてくれたではないか」

 

 現在のファミレスでは、マントを付けた貴族衣装やメイド服を着ても注目されていない。

 なぜ、奇特な格好をしている二人が目立たないかと言うと、ちょうど近くでアレが開催されているからだ。


「同人誌即売会に乗り込むぞ」



 その後、レオンたちはわかばの案内によって、同人誌即売会の会場へと向かった。

 屋内では即売会をやっているらしいのだが、外の広場ではコスプレイヤーをカメラマンたちが囲んでいた。


「人が多いな。コミケもこれくらいの人が集まるのか?」

「いえいえ、コミケはもっと集まりますよ。『人がゴミのようだぁぁぁぁ』って叫びたくなるくらい」

「わかばさん。人をゴミというのは良くありません」

「あ、いや、本気で言ってるわけじゃなくて……ちょっと、レオン様も笑って無いで説明してくださいよ!」


 わかばがお決まりのセリフと言うと、エリシアがジトっとした目で睨んだ。

 たしかに、人をゴミ呼ばわりするのは良くない。


 レオンたちが会場をふらついていると、ざわざわと周囲が騒がしくなる。

 レオンたちを差して、話している人も多い。

 しっかりと目立っているようだ。


「あれ『レオンハルト・ストレージア』か……完成度高すぎだろ……」

「お前、知らないのか。SNSのトレンドに乗ってるぞ? いきなり現れたコスプレ探索者だ」

「俺も中学生のころ憧れたわ。今でも好きなキャラだし」

「後ろについてるメイドの子も気合入ってるなぁ。あのメイド服、金かかってる。コスプレのレベルじゃないぞ?」


 レオンは注目を受けて、にやりと笑った。


「思った通りだな」

「レオン様の予想通り、ここならレオン様のことを拡散してくれそうですね!」

「ああ、物を売るときは立地にも気を付けなければならない。ここならゲームに興味がある層が集まっている。俺と言う商品が売れやすい市場だ」


  ただ闇雲に配信をするよりも、まずは認知度を上げるために『興味を抱いてくれる層』にアプローチしたほうが良い。

 その点、同人誌即売会にはアニメやゲームなどの、インドア趣味に興味がある層が集まっている。

 ゲームキャラであるレオンが興味を持ってもらうには、最適な場所だった。


「ただ、今はネットも利用するのが定石ですよ。レオン様のアカウントを作っておきましたので、こっちで宣伝を呟いておきます!」

「ああ、現代のネットについては詳しくない。わかばに任せても良いか?」

「了解です!」


 わかばはビシっと敬礼をする。

 なんとも自身がありそうな顔だ。頼もしい。

 しかし、わかばの隣ではエリシアが不安そうにうつむいていた。


「あの、レオンハルト様……私は……」

「なんだ。役に立っていないと思うのか?」

「……はい」

「安心しろ、お前は後ろに付いて来てるだけで役に立っている。男の俺だけでは、男性層へのアプローチが弱いからな。可愛いお前が居た方が、絵が映えるのだ」

「は、はい……」


 ぽんぽんと頭を撫でると、エリシアは顔を赤くした。

 相変わらず可愛い妹分だ。

 レオンは頬が緩むのを感じる。


 レオンがエリシアと話していると、なぜか周囲がザワザワとどよめいた。


「幼い子に優しくするレオン様尊い……」

「ゲームでは無かったシーンなのに、解釈一致すぎる……!?」

「私もぽんぽんされたい!!」


 黄色い声が多い。

 なぜか女性層へのウケが良かったようだ。


「流石はレオン様、夢女子の心もガッチリですね!」

「夢女子……?」


 そういう類の女子が居るらしい。

 レオンは知らない新種だ。十五年の間に生まれたのか、あるいは繁殖したのか。


「おっと、そんなことを考えている場合では無さそうだな」


 レオンたちを囲んでいた人だかりから、小太りの男性が出てきた。

 首から高そうなカメラを下げている。

 彼はカメコと呼ばれるような、コスプレイヤーを撮影する人だろう。

 少し緊張した固い面持ちで口を開く。


「あの、すいません。撮影良いですか!?」

「なんだ。俺の絵が欲しいのか?」

「は、はい。ダメですか……?」

「いいや。民の願いを聞き届けるのも貴族の務めだ。好きに撮ると良い」

「あ、ありがとうございます!」


 カメコはレオンから離れると、さっそくカメラを構えた。

 同時にわかばはサッとレオンから離れる。写らないように退けたのだ。


「あの、ポーズお願いして良いですか?」

「良いだろう――我が軍門に下れ!」


 レオンはセリフと共に、マントをはためかせて腕を広げた。

 これはゲームで、レオンハルトが主人公に向かって言ったセリフだ。

 自分の部下になれと誘うシーンである。


 ぶっちゃけ、ちょっと痛いポーズなのだが、これくらいは演説で死ぬほどやっている。

 今さら恥ずかしいもクソも無い。慣れたポーズだ。


「すげぇ……」

「あの、自分も撮らせてください!」

「俺も!!」

「私もカメラ良いですか!?」


 最初のカメコに続いて、次々とカメラが向けられる。

 良い流れだ。

 こうして撮られた写真がネットに上がれば、さらに知名度が上がる。


「好きにすると良い。俺は己の姿を惜しむほど、心の貧しい者ではない!」


 レオンの雄たけびと共に、カシャカシャとカメラの音が響いた。

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