第14話 大会の幕開け
神喰ライの最新作、
チームの面々がゲーマー向けクロスコードというコミュニケーションサービスの通話に集まり、各々配信開始ボタンを押し、各自配信で己の挨拶をした後ミュートを解除する。今日が初めての顔合わせだ。
「――ってなわけで、自己紹介から。俺はモグリ。ランクは最上位の帝で総合ランク二位を取ってる。人型兵器って言った方が伝わる人もいるかもな」
「今回は完全に応援役に回ることとなったぬるぬるだ。気軽にぬると呼んでくれ」
火鉢とアレフがこんな感じ、と示すように他の配信の視聴者向けに自己紹介をすると、チームの皆も続くように名乗っていった。格闘ゲーム経験者はいないようだ。
今回の大会は五人一組の四チームに分かれて総当たり戦をする。ある意味で運命を共にするのは皆、火鉢よりもフォロワーもチャンネル登録者も圧倒的に多い人気配信者ばかりだ。その中でも抜きんでて登録者の多いVTuberの
この日の為にオフ大会やゲームセンターで出会ったプロゲーマーを中心に声をかけ、各々使うキャラクターに合わせたコーチングを頼んである。というのは口先で、三人の内二人は花月から教えて貰ったプロゲーマーだ。
一応全キャラクターのフレームを理解しているとは言えど、最新のコンボやキャラ対策は専門にしているキャラクターの方が圧倒的に教えることができるだろう。
「俺はでびるさんのコーチングね」
『よろしくお願いします!焼きそばパンでも何でも買ってくるんで!』
彼女は熱血系ドラゴン娘VTuberとしてVTuber黎明期からいる企業の配信者だ。アレフと正反対の豊満な体格に赤色のドラゴン要素。ここに決して忘れぬファンサと皆を魅了するマネージャーのような元気いっぱいの声でここまで人気を博してきた。彼女はFPS部門で桜花杯に出たことはあるが、格闘ゲームは初めてと言う。
「して、でびるとやら。お前もドラゴンのようだが……」
『お前”も”ってことはぬるさんも!? え、でもイラスト――』
「まぁまぁ。とりあえず神喰ライの世界観から説明しますか」
おねしゃす! と活気の良い返事が返ってくる。マイクも火鉢の使っているものより随分と良いものを使っているのか、ノイズや音割れなどは殆どない。
「とは言っても、超シンプルで、ゼウスとかアフロディーテみたいな古今東西様々な神様達が気紛れに”
『本当にシンプルですね』
「でびるさんは使ってみたいキャラとかはいますか?」
『そうですねぇ……気になるのはやっぱ信長かなぁ。あとはダ・ヴィンチも見た目好きかも!』
ほうほう、といつもアレフ用に空けてあるモニターに開いたメモ帳に全キャラの初見の印象を記録していく。
信長は神喰ライ一作品目からずっと主人公を務め続けているスタンダードキャラだ。覚えることは少なくて済むが、クセの強い他キャラと戦う時に攻めあぐねてしまうのが初心者にとっては難点だろう。
ダ・ヴィンチもまた初期からいるキャラクターだ。対戦相手の技を模倣するという、前作では日の目を浴びることがなかった”万能”というコマ投げの特殊技が大幅にアッパー調整をなされ、今作では屈指の強キャラに変貌した。だが、その万能や、前作から比べるとやりやすくなったものの、矢張り難しいコンボと、初心者一発目に勧めるには少し気が引けるキャラクターでもある。
「うーん……でびるさんってFPSだとどんな動きします? 特にランクマ」
『え? ランクマなら順位優先ですね!』
「ほうほう。なら、一つのゲームをどれぐらい続けれます?」
『耐久配信なら得意ですよ! 十二時間は余裕です!』
「それは凄い。ちなみにゲームでの時分の強みってなんだと思う?」
『強み、ですか? うーん……あ、判断力はよく褒められますね。状況をよく見てるね~、みたいな』
それだけです、と彼女は控えめに言ってみせるが、その”判断力”はゲームにおいて最高の持ち味だ。火鉢も今日、コーチに就くにあたって彼女の配信を幾つか見たがゲーム、特にFPSでは状況を読み解き最適解を導き出すシーンがいくつも見られた。敵の持つ武器を瞬時に見分け、適正距離を見抜いたり、別のゲームでは人数有利ができることを予知したかのような動きさえ見せていた。
「それならダ・ヴィンチもありかな。とりあえずトレモ行くか」
『うっす! お願いしまっす! 師匠!』
「師匠はなんかハズイな」
『なら先生で!』
それならまぁ、と押され気味に承諾する。
今作からプライベートマッチ限定でオンラインでもトレーニングモードを遊べるようになったのだ。
「まずは信長。一作品目から主人公を務めている最古参キャラだ。飛び道具、無敵技、突進、まぁ大体何でも揃ってる。そんでコンボも比較的簡単。火力も上を見れば沢山いるけど、まぁ悪くはない」
『ふむふむ……弱点はなんですか?』
「弱点はさっきも言った火力と……えぇっと、立ち回りに戻っちゃうって言っても分かりづらいよな。ターン継続がしづらいところ、ぐらいか」
「しかし私たちのような初心者帯では勝ち進めると思うぞ。モグリのような上級者帯では……あまり見ないが」
「ちょっと聞こえ悪いけど、どれも揃っててどれも平均って感じなんだ。一回天井は叩けるけど、次の階層までが分厚いって感じ」
『ほぉーん』
「んで、ダ・ヴィンチは設定上じゃこのゲーム最強だ。ただ、ちょっと玄人向け。基本は近接戦をメインに戦うけど、中距離まで届く下段もある。まぁ、一番のやり込み要素は敵の技を模倣する”万能”って技だな。コマ投げで一回当たると文字通り相手の技を一つ、一回だけ使えるようになる。だから相手によってコンボが変わったり、立ち回りも変えなきゃいけない。使えるようになったら一生相棒でいられるってぐらい現環境だとトップレベルに強いな。弱点は体力がジャンヌと同じで今作最低値ってところだけ」
『一生相棒……』
「しかも、大会みたいな相手が分かっている状態だったらより真価を発揮する。ダ・ヴィンチのオンラインマッチで一番苦戦するのが敵によってコンボを使い分けなきゃいけないところなんだけど、相手が分かっていれば覚える量も各段と減る。そういう意味じゃ、大会向けのキャラとも言えるな」
『ちなみに、先生が使ってるジャンヌってどんなキャラなんですか?』
「ジャンヌか? 簡単に言えば闇落ちヒロインだ。だから攻撃に極振りしたみたいな性能してるな。自分の体力を犠牲に高火力を叩きこむ。餓狼タイプだとその自傷技か安い技しか使えなくなっちゃうから、普通にコマンド打てないと扱い切るのは難しいかな」
『可愛いキャラですね~。甲冑女子ってなんか萌えますよね』
確かに、火鉢もそこは気に入っている。金髪碧眼の美しい身なりが堕天し、不気味に揺らぐ立ち姿はヒロインとは思えないものの、ダークな雰囲気に惹かれるのだ。
ジャンヌは過去が面白く、神喰ライ一作品目から数シリーズは清楚なちゃんとした”ヒロイン”であった。だが、ある作品を境に堕天。正統派ヒロインだった今までと比べて姿形こそ同じであるが、狂気に見初められた結果目は虚ろに、姿勢正しく構えていた剣を捨て置き、拳で殴りかかる暴力の権化と化したのだ。
他にも全てのキャラクターをゲーム上の設定や過去と実際の技を踏まえて解説していく。このゲームはキャラクターの設定も比較的シンプルに作られている。試合後のセリフまでちゃんとボイスが収録されており、その組み合わせも豊富だ。トレーニングモードでは見せられないのが残念だが。
『悩むなぁ……』
「ぶっちゃけ見た目で決めるのもアリっすよ。俺も火力の次は大体見た目で決めるし」
『見た目だけならスーツマンのラヴクラフトなんですけど……性能はダ・ヴィンチなんだよなぁ……決めた! ダ・ヴィンチにします!』
「その意気やよし。でびるよ。貴様にモグリを預けよう」
「何様だぬるは……ダ・ヴィンチね。ならある程度は教えられるかな。まずはガードから行きますか。中段、下段が――」
火鉢は人に教えた経験が殆どない。それこそ、小学生時代に花月に、そして半年前にアレフに教えただけだ。ゲームセンターに通っていた頃に軽く教えることはあれど、ここまでしっかりとしたコーチングというのはその二つだけだ。初心者の頃を思い出しながら伝えていく。だが、餓狼タイプをはじめに火鉢も経験の浅いことが多々あるので、教えながら改めて知ることがたくさんあった。
でびるはVTuber生活で培ったゲームセンスや適応力でグングンと成長していった。基礎的なことを教えて数戦オンラインマッチに潜ってもらい、一日目は終了した。
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