第12話 時間との戦い

 自分の体は自分がよく知っていると言われるが、コウタロウにとっても本当に自分の体が何ともないのかは疑問だった。

 確かに、皆の言う通りどのような薬というか、魔術が使われているのか分からないし、いざ魔法を使おうとしたら何にも出てこない可能性がある。

 ここまで計画的な犯行で睡眠薬だけなのは信じ難い。


 正面入口から出て自動販売機の所へ向かおうかと考えていたが、既に開館式が始まるまで8分切っていたため、多くの人が集まっていた。そのため、少し遠回りになるが東側の非常口から出ることにした。

 時間がないのでコウタロウは苛立っていたが、こればかりは仕方ない。


 ようやく、東側の非常口から外に出て自動販売機の地点に向かったが誰もいない。

 流石にこんな分かりやすい所には居ないか。と思った同時に、畜生、何でここに居ない。という焦りやイライラは募るばかりであった。


 次に見るべきなのは駐車場だろうか。いや、駐車場以外にも適当な場所があるはずだ。

 自分が中庭でぼんやりしていた時の死角はどこなのか。頭上に矢が当たったことを考えると……

 閃いた。


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 屋上でひたすら待つとなると、市長が出てくるまで少し時間がある。

 といっても、10分程度しかないため正面入口の辺りに留まることにしている。

 時々覗いて様子を見ているが、徐々に人が集まっていることが分かる。

 多くの人々の前で『犯行』を行うことに緊張している。こんなに心臓がバクバクしているのは、中学受験したあの日以来だ。

 市長が出てきたら狙いを定めて撃つだけ。市長が出てきたら狙いを定めて撃つだけ。

 余計に緊張することを考えなければ良いのに、考えてしまう。


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 コウタロウが閃いたのはこの通りだ。

 自分の頭に攻撃されたということは、犯人は上、要するに屋上か木に登っている可能性が高い。

 例の自動販売機の周りは林のようになっているが、里山育ちではないと登るのが難しそうな木ばかりだ。

 無論、魔法少女になるのに特別運動神経が高くなければならない訳ではない。

 そもそも、魔法少女になった所で必ずしも超人的なパワーを授かる訳でもない。


 犯人の習性を考慮するとあまり冒険はしないだろうから、図書館の屋上にいるのではないだろうか。

 ドアを施錠されていないのが不思議ではあるが。

 コウタロウは一目散に階段を駆け上がった。


 祈るように屋上へのドアを回すと、ドアが開いた。

 既にセレモニーは始まっておりコウタロウに残された時間は多くはない。


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 セレモニーが始まった。市長のお出ましはまだだけど、なんか偉い人が続々と出てくる。

 SPや警察官が睨みを効かしているけど、屋上に私がいるのは気づいていないようだ。

 私は着実に準備をした。例の薬をちゃんと身につけていることを確認した。正直、鏃に直接その薬を塗れる仕様じゃないことは疑問だけど、何か理由があるのだろう。

 後は市長が出てくるだけかと思った時、ドアが開いた音がした。

 騒がしいセレモニーの音が辺りに響いているはずなのに、この音が嫌に耳に刺さった。


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 ドアを開けて、式典が行われている出入り口の方へ向かった。

 そっちに向かうと、居た。

 予想が漸く当たり胸を撫で下ろしたい気分だがそういう訳にはいかない。


「なっ……なんで?! 睡眠薬がこんな早く━━」


 相手は狼狽している様子。あっさりと薬の手の内を明かしてしまう時点で、やはり未熟者だ。


「お前か。逮捕状も出ている。市長を殺そうなんて事を考えるのを辞めるんだ」

「うっ……」


 相手の様子を見てコウタロウは勝利を確信した。

 しかし、カナは違った。


 狼狽えて見せたものの、全くプランがないわけではない。倒した筈のあいつが何故か勝利を確信している様子だったが、その隙に陰に置いてあった弓矢を取った。


「わ、私は諦めた訳じゃないです……! なので、あなたを倒して、市長を倒して、今の生活から抜け出します」

「……」


 再び弓を向けられたコウタロウは、戦う以外に解決する方法がないことを悟り、小さな火球を掌に作った。

 火球を数発飛ばしたところ、2発程度当たった。

 カナも負けじと弓を撃つが中々コウタロウに当たらない。明らかに取り乱している様子である。長くは持たないだろう。

 時間を稼ぐのが得策なのではないかと思ったが、セレモニーは何事も起こっていないかのように進んでいる。

 市長、いや果心が出てくるまで時間がない。ちらりと見えた毒薬は人間にも効く。

 果心があれに撃たれてしまったら命の保証はないだろう。


 コウタロウは様々な手段を思案した。

 犯人を生きたまま確保し、果心を無傷でセレモニーを終わらせるのが目標である。

 よく使う手法で行けるか。試してみることにした。


 まず、相手を自分の間合いに引き込む。次に、自分の周りを炎で囲み相手の動きを封じる。その中で相手を行動不能にするのがいつものやり方だ。

 少し小慣れた魔法少女や水属性の人には効かない作戦ではあるが、あまり戦闘に慣れていなさそうで、水属性の魔法を使わない相手ならば非常に有用な作戦である。


 コウタロウが床に向けて炎の輪を作ると、カナは自分を狙わずに何を考えているのかと不思議に思ったが、5秒経つとその意図を嫌でも理解できた。

 身動きを取れなくなったカナは狼狽える他なかった。


 コウタロウはカナを取り押さえることに成功した。

 果心がテープカットに臨むために出てくる5秒前だった。


 セレモニーは何事もなく無事に終わった。

 カナをパトカーに護送するのはなるべく人目につかないように行うために、暫く待つことになった。


「さすが、菅原くん。体がちゃんと動くかどうか分からないのにきちんと仕事をこなしたんだ」


 文字通りお縄にかかっているカナを横目に果心はそう言った。


「報酬が貰えないと生活できないからな」

「でも、なんか呼吸がおかしいような気がする…… やっぱり休んだ方がいいんじゃない?」

「菅原さん、アンタはよくやった。だから休め」

「では、お言葉に甘えて……」


 この後、コウタロウはばたりと倒れ数時間医務室の世話になった。


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 しっかりと休んだ2日後、コウタロウの携帯に警察から連絡があった。

 犯人が犯行の目的を自供したという内容の電話であった。更に、今後裁判や検察から色々やり取りが必要になるだろうということも言われた。

 いくら学校に通っていたと言っても、魔法関連の法律は抜けていることも多いので話す内容はある程度、果心と相談しといた方が良いなあと思った。

 肝心の報酬については翌日、指定された口座に振り込まれるようだ。


 翌日に振り込まれる報酬に対してコウタロウは心が躍っていた。

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