第11話 僅かなチャンス
「……わらくん、菅原くん…… 菅原くん!」
誰かが自分の名前を呼んでいる。
目を覚ますと、心配そうに果心と亀戸がコウタロウのことを見つめていた。
その視線がコウタロウにとってびっくりしたので、むくりと起き上がった。
「菅原くん! やっと起きたんだね! 司書さんから中庭で菅原くんが倒れてるって聞いた時はもう助からないかと思ってたんだよ!」
「んな、大袈裟な…… で、式典は終わっちゃったか?」
「あと10分ぐらいで始まるよ。私、市長っぽく見えるかな?」
ポーズを取って果心は微笑んで言った。市長のトレードマークとも言える紫色のネクタイを身につけていた。
「うん、完璧」
「菅原さんは安静にしてて下さい。犯人の確保の方は我々警察の方で行いますので……」
「いや、もう大丈夫です。あの時に犯人を捕まえられていれば、こんな事にならずに済まなかったので。こうなったのは自分の責任ですし、自分で確保します」
コウタロウは真剣な眼差しで亀戸に言った。
「だから、自分の体は大丈夫です」
「でも……」
コウタロウがただの睡眠薬にやられていたのは皆さんならご存知だろうが、コウタロウ達はその事実を知らない為、何らかの魔法薬である可能性が否定出来ないので、下手に動くと身体に異常を来したり、魔法を使おうとすると弾切れのようになってしまったりする事もあり得る。
どんな薬を盛られたか分からない現状では下手に動くと、コウタロウの命の危険があると言っても過言ではない。
「自分が行かないと、自分が許せないんです……!」
コウタロウの熱い眼差しに気圧され、亀戸は許可されないことが分かっているが、荒川に許可を求めた。
もちろん、荒川は
「ダメに決まってるじゃないか。いくら菅原サンが仕事に戻りたがっていても、どんな薬か何かを盛られているか分からないんだろ? そんな状態でやられたって、こっちが迷惑だし、魔法少女を捕まえられないんじゃ、公安に笑われるに決まっている」
と亀戸を宥めた。
「そこを何とか……! こっちだって菅原さんを説得しようとしたんですけど、どうしても自分でやるんだ、って言って聞かないんですよ!!
あの菅原さんの目を見るとそれ以上止められません……!」
「常識的に考えて安静にしてるべきだろ……!! 無理にでも押さえつけろ!」
荒川もコウタロウが外に出るとマズイと思い、図書館の方へと向かった。
コウタロウは尚も説得しようと試みる亀戸や果心の言うことを聞かず、医務室のドアを開けようとしている。
「なんで開かないんだ……!」
このような事態になることを想定して、医務室の看護師はドアに鍵をかけてある。
そこの鍵を回せばドアは簡単に開くのだが、冷静さを失い自らの使命に燃えているコウタロウには簡単に気づかない。
果心と亀戸はコウタロウをドアから引き剥がそうとしているが難しい。
そんな時ドアをノックする音が聞こえた。
「俺だ。荒川。鍵掛かってるのか?」
「あ、荒川さん…… 今、菅原さんが……」
「そんなに、戻りたいの菅原サン」
ドアをガチャガチャする音が荒川にもうるさいぐらい伝わる。
そのガチャガチャ音が不思議とコウタロウの熱気の様に感じる。
「はあ…… 行きな、菅原サン。今時、こんなこと言うと怒られるだろうが、男にはやらなきゃいけない時がある。アナタにとってはソレが今なんだろうよ。亀戸、ドアの鍵を開けて。君の方が正しかったみたいだ」
荒川には見えないが、亀戸はコクンと頷きドアの鍵を解除した。
解除した途端、コウタロウがドアを勢いよく開けて医務室を飛び出した。犯人を確保するために一目散に走って行った。
自分が倒れた場所に向かったが、特に人の気配はなかった。流石に持ち場へ行ってしまったのだろうか。
既に目星が付いてた駐車場と自動販売機の裏に行くことにした。
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私の邪魔をしてきた男は、ベンチから崩れ落ちて通路で横になっていた。
これなら大丈夫。作戦は上手くいく。
それでも、計画はある程度見直さないといけないと思った。
今、私がいるのは図書館の屋上。図書館の屋上からだと、地上にいる人にとっては間違いなく死角になる。さっきの男を眠らせるのに成功している時点で、ある程度信頼性が高い。
しかも、他に市長を狙っている人がいるなら屋上がかなり有利そう。屋上でも地上でも数発撃ったら目立ってしまい、薬なしで戦わないといけないかも。
私が1発で市長を捕まえなければ、全てのプランがおじゃんになる。チャンスは1回きりなのだ。
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