第10話 誤算

 あの作戦会議から3日経ち、とうとう北部図書館開所式の日になった。

 コウタロウは果心達より早く先にそこに向かった。


 目的はもちろん犯人を確保するためだ。

 コウタロウの算段では先日の作戦会議でも話していた通り、自動販売機の裏に向かった。

 人気こそは無いものの、何時犯人が来ても不思議では無いのでコウタロウは監視を強めた。

 先日の作戦会議で言及しなかったが、やや南西にある月極駐車場も狙い目だと考えている。

 車が停まっていれば隠れる所を探すのに時間を掛けなくても良いし、月極駐車場であれば、特に閉鎖時間も決まっていないため何時でも入れる。

 しかも複数台停まっていることが多いので隠れるには絶好だろう。


 そんなことを考えながらコウタロウは駐車場に向かった。

 駐車区画の白線が消えかかっているものの、4台の車が綺麗にお行儀よく駐車されていた。

 まずは、駐車場をざっくりと見てみることにした。とりあえず、4台の車の駐車位置をメモし、消えかかった白線が何処に引かれているのか、可能であればタイヤ痕を見つけたい所だ。

 白線を見つけづらいのが難点だが、あまり手入れされていない事はタイヤ痕を探すには大変助かる。

 一通り見つけたタイヤ痕から今停まっている4台の他、少なくとも5台の車の出入りがあることが分かった。

 駐車可能台数は12台程度だと見積もっていたため、合わせて9台の車の出入りがあると考えれば駐車区画の配置はあっさりと分かった。

 コの字型の駐車場の1番から6番までがの外側の駐車区画で、7番から12番まではの内側の駐車区画。

 このうち、ここ最近では契約している車がないと考えられるのは4番と9番と11番。他の5台の車が何時戻ってくるかは分からないし、そもそも、9台の車が一度に停まっているタイミングがあるのかが疑問である。

 それでも、ひとまずは停まっている4台の車を調べてみることにした。


 4台の車が停まっている区画は1番、7番、10番、12番。

 コウタロウは12番の近くに立っていたためそこから調べた。


 40分ぐらい掛けてじっくり観察したが、特にこれといったものは無かった。

 そんな時、ある1台の車が入ってきた。その車はシルバーの軽自動車でどこに駐車するのかと見ていたら、契約している車がいない筈の4番に駐車した。

 コウタロウはこの車を不審に思い、対角線上の1番に停まっているよく町中で見かける商用車の影に隠れた。


「本当にここに駐車してもいいの……?」

「大丈夫。大丈夫。ここに止めてる車を見たことないから。普通に止めちゃうと、金かかっちゃうから無料の方がいいじゃん」

「はあ、違法駐車がバレた時のレッカー代と罰金の方が高上がりなんですが……」


 このような会話をしながら車から出てきたのは若い男2人で、図書館とは全く別の方向に歩いていった。

 例の魔法少女の関係者とは考えにくいが、捜査の邪魔であり、あの車がレッカーされてて駐車料金より高い金額を払わされている所を見たい(無論、見ることは叶わないのだが)ので、メモ帳の【伝達事項】の欄に『4番区画に違法駐車アリ』と記しておいた。


 次に、北部図書館に向かうことにした。未だに開館していないのと、この事件の事もあり警備は厳しくなっている。

 中止にすることや市長の参加を取りやめることも検討されたが、このようなことがあの魔法少女に知られると、折角の違法な魔法少女を捕えるチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。

 そのため、果心が自らに幻術を使い市長に扮することで式典を中止することなく、万が一襲撃されても、本物の市長とは違い特に体に異常を来さない可能性がある。

 やや捨て身の作戦ではあるが犯人確保を優先したい警察の意向もありこのような形になった。


 図書館の館内を捜索したが、特に不審物や不審者は特に見当たらなかった。

 まだ少し早い時間だから、犯人が来ていなくても不思議ではないなと思い、図書館の外に出て庭のような所で、暫時の休憩を取ることにした。


 ぼーっとベンチに座っていると何かが頭の上に刺さった。

 刺さったものを確認しようとしたが頭に刺さったものを確認しようとして、手に取ろうとしたがーー


 「バタン」


 コウタロウはベンチから落ちた。


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 ついにやって来たこの日。

 私は比較的早い時間からあの図書館に向かった。

 ここには数日前に下見に来ていたが特に目立った変化は見当たらなかった。

 私が狙撃するのに使おうと思っていたのは睡眠薬と市長を殺すために取っておいたあの薬。

 睡眠薬は邪魔が入ることを考えたもので、何もなければ使う気はない。

 

 狙撃地点は5台並んだ自動販売機があるところか、図書館の近くにある月極駐車場が良いと思う。

 ヨベルにも相談したが


「君の腕前ならそこら辺が丁度良いと思うよ。1番良いの屋上からピューッとやるのが良いかもね」


 というフィードバックが返ってきた。

 屋上から一突きはとっておきの手段にしておきたいかも。


 北部図書館には途中まで電車で行って、途中からレンタサイクルを使った。

 安黒のレンタサイクルはICカードでも使えるので、私のような中学生でも気軽に使える。

 レンタサイクルを駅前の駐輪場で借りて図書館の近くのスポットまで走らせる。暗殺日和というよりサイクリング日和という天気で、このまま自転車でどこかへ行ってしまいたい様な気がした。


 自転車を図書館の近くのスポットに返却し、歩いて図書館に向かう。

 向かう途中に茂みに隠れて変身した。

 変身するといよいよという感じがして緊張してくる。


 ほぼ想定していた時間通りに図書館に着くと、持ってきた装備の確認をして第一地点である自動販売機の近くに行こうとした。

 そうすると、自動販売機の裏で何か動いている、というか、人の気配がした。

 気付かれない様にこっそりと後を付けると、何だか冴えない男がメモを取ったり写真を取ったりしながら移動していることが分かった。

 もしかして、私が魔族共を攻撃していることがバレたのか? 単純に警備の為に来ている私服警官なのか? それにしてはなんか世間離れした格好なのだが? と頭の中で余計な事がグルグルして来た。


 睡眠薬だって、2〜3人いるであろう護衛にしか使うつもりが無かったので、これから人数が増えたら計算外だ。

 しかも、相手も魔法男?であるなら、何かの魔法を使ってくるだろう。

 弓矢を使って攻撃する私にとって不利になる魔法を使ってくる可能性もある。

 ここで私が取れる最良の手段はなんだ?


 少し考えたら1つ思いついた。


 計画は至ってシンプルだ。

 油断した所に魔法男へ睡眠薬を盛り暫く眠らせる。目が覚めるのはセレモニーが終わった後、すなわち、市長が死んだ後になる筈だ。

 こいつさえ目覚めなければ私の作戦は上手くいく。


 想定外の事態は解決した。あとは全てが上手く行くはずだ。

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