第5話 手がかりはすぐそこに

 コウタロウの決意は固かった。

 その決意の固さに呼応するように被害者への聞き取り調査が進みつつある。


 ここ数日の調査によって判明したことは少なくはない。

 記憶が残っている被害者への調査で分かったことが沢山ある。

 

 記憶が残っている被害者の種族も勿論魔族で、赤鬼のような風貌をした若者である。

 調書を読むと、


『最初、黒の光沢の衣装に水色のアクセントが入った凝った中学生ぐらいの女が立っているのを横目で見ていたが、70m程度歩いた所で背中に焼かれるような痛さがあった。

 すると次第に体がメキメキと筋肉量が増えていき、いつの間にか金棒を手にしていて、人間を襲いたい感情に襲われた。

 人肉とはどんな味がするのだろうか? 醤油をつけて喰ったら美味いのではないだろうか? シンプルに焼いて食うならだろうか?

 普段は思いもしないようなことを考えてしまった。

 今まで知り得なかった野生の本性に驚きを通り越して恐怖すら感じる。

 人間の暦で80年近く生きているがこんなことは一度もなかった。

 しかし、人間がどんな味なのかは非常に気になった。

 無我夢中で金棒を振り上げて人間を襲おうとした。

 いち早く人間を食べたい気持ちもあったが、わあわあ騒ぎながら逃げている人間を追いかけるのも悪くはなかった。

 そんな人間で遊ぶのに夢中になっていたところに警察がやって来て捕まえようとした。

 今思うと、警察の方々には申し訳ないが、捕まって人間が食べられなくなることは嫌だった。

 だからあの時は警察に抵抗して、金棒を振り回した。

 ようやく警察官を潰せると思った時、また体に異変を感じた。

 さっきのとは違い、痛みというよりモゾモゾして体の内側から痒かった。

 その痒みが出てくると手に持っていた金棒は消え、筋肉質だった体は萎んでいつもの体に戻っていった。

 自分の中にあった凶悪性が消え、だんだん真人間(ではなく鬼だが)になった。

 辺りを見回すと、いつもの道がめちゃくちゃになっていた。

 警察官に、

「自分でしたこと分かっているのか?!」

 と言われた。

 もちろん、事の重大さは理解していた』


 という趣旨の内容が書かれていた。

 防犯カメラの映像に残っていた黒い影も例の風変わりな少女も、何やら黒い影だったことから、同一人物である可能性は低くないだろう。

 直接犯人確保に繋がる情報は多くはないが、犯人像を掴む手がかりを得ることはできた。


ーー


 翌日、再び警察署に向かった後、5人の被害者が狙撃された地点に向かい、その場所の様子や近隣住民への聞き込みを行った。

 午後には目撃者を警察署に呼び出し聞き取り調査が行われた。

 この間の猫の魔族の件の目撃者との話を済ませ、コウタロウと果心は暫しの休憩に入った。


 休憩室には飲み物の自動販売機とちょっとしたお菓子コーナーが設置されており、椅子とテーブルもいくつか置かれている他、テレビや新聞もある。


 果心がビスケットとカフェオレを買っている間、水筒を持ってきていたコウタロウは手持ち無沙汰なので適当な新聞を読むことにした。

 選ぼうと新聞ラックに行くと、目に付いたのは市が発行している広報誌だった。

 広報誌を手に取り、適当にテーブルに座り始め1面から読み始めた。

 『公民館の清掃員募集』や『福祉相談会実施』など特に面白い内容は無いように思えたが、後ろの方のページに思いがけない情報があった。


「市長の動向……」


 思わず、コウタロウは呟いてしまった。


「市の広報なんか読んで…… 気分転換?」

「そのつもりだったんだけど… これ、見てくれないか?」


 果心はまじまじとその記事を読み始めた。

 『今後の予定』欄に目を移すと、今月の26日に完成する北部図書館の開業式典に出席するようだ。

 コウタロウ達が暮らす、安黒あぐろ市の今の市長は、ケンタウロスの牛柳である。

 牛柳も広い意味では魔族に属するので、件の魔法少女に狙われる可能性は低くはない。


「もしかして……」

「もしかすると……」


 コウタロウと果心は互いに顔を見合わせた。

 コウタロウは休憩室を飛び出し魔法課に向かった。


 コウタロウはさっきまで読んでいた広報誌を片手に、荒川が仕事をしているところに向かった。

 運悪く、荒川は席を外しており直接伝えることは出来なかったが、広報誌の例の面を開き、電話の横に置いてあるメモとペンを拝借して、『魔法少女の目的はこれかも知れません』とさっさと書いた。


 1時間後、荒川が署に戻り、コウタロウのメモを読んだ。

 メモと記事を読み終えた後


「菅原さん、メモの所読んだよ。確かにその可能性はあるなァ。しかし、市長が魔族ってだけなら、本当に襲撃してくるか分からない」


 コウタロウはこくりと頷く。


「奴の目的が分かるに越した事は無い。それでも、北部図書館の開館式を狙うのは理に適ってるし、もし奴が社会に揺さぶりをかけたいと思っているのなら必ず現れる筈だ。

 我々も市長の警護、いや、被疑者確保のために開館式に向かおう」


 コウタロウ達は犯人が現れる前提での作戦と、犯人が現れる前提ではない警護計画を建てるために会議室に向かった。

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