第6話 作戦会議
作戦会議は荒川、亀戸、コウタロウ、果心の4人の他、警護担当の責任者1人が参加した。
「えー。皆さんに集まってもらったのは言うまでもなく、26日の北部図書館開所式に出席する市長の警護計画についてです。
本来であれば、警護担当者が作成するのが筋なんですが、管内で相次いで起こっている魔族が何らかによって凶暴化している事件の被疑者が、市長を襲撃する可能性も否定できない。
そのため我々も警備に参加する。犯人が現れて確保出来れば一石二鳥だしな」
荒川はふうと茶を飲んだ。
「作戦は、今回、捜査協力してくれている菅原さんと検討した。説明は菅原さんからヨロシク」
「はい」
コウタロウは緊張を抑えながら立ち上がり前の方に向かった。
「こんばんは。市内でまほう屋を営んでいる菅原コウタロウです。現在、私で考えている作戦は……こんなものです」
プロジェクターに1枚の北部図書館の周辺の様子が描かれた地図が映し出された。
「地図を見ていただければ分かりますが、北部図書館は起伏が激しい所にあり、草木が生い茂っており、隠れられる場所も沢山あります。
起伏が激しく隠れられる場所が多いということは、市長を攻撃するのには絶好の場所です。
犯人が現れる可能性について疑念があるかと思われますが、市内で相次いでいる魔族の凶暴化事件の傾向を見るに、現れる可能性は高いです。
今、ご覧頂いているのはこれまで発生した魔族の凶悪化事件の特徴と傾向を纏めたものです。
どの事件も被害者の死角から狙っている点や高い所から狙撃している点は市長を襲撃する計画に向けた練習をしていると言えるのではないでしょうか」
果心が手を上げた。
「質問は最後にして貰いたいんですが……」
「最後にしちゃうと、質問したい所忘れちゃうし、1回にいくつも質問するより適宜質問した方が分かりやすくないですか?」
「はあ……」
「という訳で質問です。先程、魔法少女が高い所から狙撃した。と言ってましたが、式典が開かれる北部図書館の正面玄関を目標にする場合、高低差が2〜3m程度で、高い所から狙撃したあの件はマンションの3階から発射していました。
本当に市長を襲撃するのが目的なのであれば、10m以上高い所から発射する理由なんて無いのでは?」
「果心が言う事も一理ありますが、犯人が自分の魔法の威力を試すために行なった。と言うのが私の推測です。
初期の犯行は防犯カメラの死角を狙っていたり、顔を隠していたりするものの、計画の荒さを否定できません。
例えば、果心が仰っていたようにマンションの3階から被害者を撃った事件は、目標に当てるまで5発撃っています。
さらに、近くに防犯カメラが無い階段があるにも関わらず、エレベーターを利用しています。
この2つが計画の荒さを否定できない要素です。
外した1発は暫く経ったら消えるタイプだったようで、証拠の確保とはなりませんでした。
そのため、マンションの3階から攻撃したことは試し撃ちである可能性があるでしょう」
「なるほどー。ありがとうございます」
果心は資料に赤いペンで『練習?』と雑に書いた。
「話を戻しますと、北部図書館から見て市長を狙撃しやすい地点はやや南東のこの地点とほぼ真南の自動販売機の裏です。
自動販売機は5台並んでいて庇がついてるため隠れられる面積が広く、相手に悟られずに狙撃するには適した地点だと言えます。
そこで、私が自動販売機の裏の方を周り犯人を確保する。念の為、果心さんには幻術で市長になってもらい、式典に参加してもらおうという計画です。
犯人の魔法が人間にどのような影響を与えてしまうのかは判明しておりませんが、本物の市長が狙撃された場合のことを考慮すると、被害は少ないのではないかと推測しています。最後になりますが、質問等はありますか?」
警備担当の責任者がすっと手を上げた。
「ご説明ありがとうございます。私の方からは1点だけ。
魔法部の方々はこのような大層な作戦を策定しているようですが、その、そ
の割には魔法部の投入人数が少ないように思えます。
資料を見る限りでは、この会議に出席している果心さん、菅原さん、荒川さん、亀戸さんの他に2人。
合わせて6人しか動員されないようですが、これだけの人数だけでとても充分な対策が取られているとは言い切れません。
もっと人員を増やすべきなのではないでしょうか」
「魔法部としては多くの人員を配置したいのは山々なのですが、他の事件などで出払っている署員が多く、6人配置するのが精々です。
私と果心に至っては便利屋の人間ですので、魔法部の人間は僅か4名です。
確かに、人員が少ない点は課題ではありますが、果心は公安出身なので、いざとなれば……」
コウタロウは自信なさげに俯いた。
「そうですか。ありがとうございました」
警備担当者は足を組んでそう言った。
「他に質問が無ければこの辺で終わりにしたいです。お集まり頂きありがとうございました」
ーー
一仕事を終えたコウタロウと果心は休憩室で一息つくことにした。
「おつかれー。菅原くん」
「どうも」
果心が投げたカフェオレをなんとか受け取った。
「正直、上手くいくのかな…… これ」
「そんなこと考えちゃうと、上手くいくものも上手くいかなくなるよ?」
「じゃあ、果心は上手くいくと思っているのか?」
「まあ、どうにかなるんじゃない? ならないと菅原くんは困るでしょ?」
「うっ…… うーん……」
甘ったるいカフェオレをぼーっと飲みながら、作戦が成功することだけを考えていた。
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