外伝 「運命的な出会い」

お母さんどこに行ったんだろう。私も兄弟達ももう腹ぺこだよ。早く帰ってこないかな。長い時間が過ぎた。餌を探しに行ったっきり、お母さんはずっと帰ってこない。街はずれの人目につかない路地裏でずっと待っていた。が、薄々気づいていた。もう帰って来ない。このままじゃ、飢え死にしてしまう。待ってて、私がご飯を探してくる。

初めて路地裏から足を踏み出した。眩しい。光が目を指す。人間がいっぱいいる。お母さんは人間は危ないって言ってた。隠れながら探そう。

すると木の箱の中に魚がたくさん積まれているのを見つけた。お魚がいっぱいだ。1つだけ持っていこう。口に咥える。その時、怒号が聞こえてきた。

「こらぁっ。こん畜生が。うちの魚だぞ。」

ビクッ。怖い。人間が近ずいてくる。逃げないと取られちゃう。必死になって足を動かす。魚を落とさないよう、顎に力が入る。物陰から後ろを確認する。もう追ってきていない。餌探しは大変だな。怖いし。お母さんはいつもこんなことしていたんだ。

しばらく歩き、兄弟達の待つ路地裏へ向かう。すると、足音が聞こえてきた。兄弟達のものではない。何か固いものと地面が当たる音。人間のものだ。近ずいてくる。近くの物陰に身を隠す。

「簡単な仕事だぜ。」

「あぁ。でも魔女狩りのときと違ってあいつらすばしっこいんだよな。」

どうして、あそこから人間が。あそこは兄弟がいるのに。ちゃんと隠れたかな。大丈夫かな。隠れてやり過ごす。急いで兄弟達の元へ駆けつける。

そこには、血の雨を被ったかのように真っ赤な兄弟達が倒れていた。どうして。さっきまで元気に鳴いていたのに。さかんに鼻をヒクつかせ、兄弟達に触れる。冷たい。もう、目を覚まさないと分かる。その場にうずくまった。もう動けない。疲れた。

しばらくすると足音が近ずいてくる。首をそっと上げ、音の主を確認する。やっぱり人間だ。でも逃げる気力も体力も無い。

「おい、大丈夫か。これはお前の兄弟か。」

兄弟達といたい。動きたくない。

「・・・動かないか。とりあえず移動しよう。ここは危ない。」

人間は私の体を持ち上げ、服の中に入れた。兄弟達は袋に入れられている。そして、しばらく歩き、更地に着いた。すると人間は兄弟達を袋から出し、地面を掘ってそこに埋め始めた。何してるの。やめてよ。人間の服からおり、精一杯の威嚇をする。が人間はやめてくれない。

「ごめんな。この子達はもう天国へ行ってしまったんだ。俺がもう少し早く来ていれば。」

と言って、人間は悲しい顔をした。お腹空いてるのかな。威嚇をやめて人間の手を舐める。

「ん、どうした。」

私の頭を優しく撫でる。お母さんみたいに優しく撫でる。

「懐いてくれたのはありがたいのだが、俺は猫を飼えないんだ。伝手がある。そいつのところへ行こうか。」

人間はまた私を抱き上げ、服の中に入れた。ちょっと人間が多いところに来た。まだ少し怖いから服の中に潜る。

「あの貴方はバイカル帝国の者ですよね。」

「いらっしゃい。そやけど。まさか、バイカルのもんってだけで処刑とかしやんよな。ビエト兵士さん。」

「まさか。この子を引き取ってほしいんです。」

私を服の中から出し、抱っこした。

「あらま、ビエトのもんやのに猫ちゃん触れるん。珍しいお人やなぁ。」

「まあ、周りとは少々違う環境で育ったもので。それで引き取ってくれますか。」

「あぁ、ええで。」

「感謝いたします。」

すると人間は金の毛の人間に私を渡した。

「それにしてもよう俺がバイカルのもんやってわかったなぁ。」

「いつもこの通りを歩いてましたし、商品もほとんどがバイカルのものだったので。では、私はこれで。その子をよろしくお願いします。」

「任せとき。」

金の毛の人間に抱かれたまま、去っていく優しい人間の背中を見ていた。もう会えないのかな。あの黒い毛と青い綺麗な瞳が頭の中に残っている。忘れないようにしよう。次あったとき分かるように。

金の毛の人間は私を箱の中に入れた。

「狭いけど堪忍な。これでも食って待っとき。」

魚を置き、蓋をした。お腹が空いていたからだろうか、それともいつもと違う魚だからだろうか、とても美味しく感じた。時折、箱がガタガタと揺れた。外では何が起こっているんだろう。

しばらくすると、金の毛の人間が私を箱から出した。

「寒いやろ。」

と言って、私を布で包み、抱っこした。布から顔を出し、周りを見渡した。わぁー。真っ白だ。木も地面も真っ白。このチラチラ舞ってる白いのは路地裏に住んでいるときも見た事がある。前足を出してつついてみる。

「なんや、気になるんか。これは雪言うんやで。あともうちょっとやからな。」

少し歩くと上に白いのが乗っかってる建物が1つぽつんとたっているのが見えた。建物に近づき、人間はコンコンコンと1箇所だけ色が違うところドアを叩いた。路地裏に住んでいたとき、お母さんに教えてもらった。あそこは人間が出入りするところだって。ガチャ

「久しぶり、お兄ちゃん。」

ドアが開くと銀の毛の人間が出てきて、中に招き入れた。中はとても暖かくていい匂いがした。

「その子どうしたの。」

「ビエト兵士さんが俺に託したんや。せやけど俺も職業柄この子飼えへんから。俺がさらにお前に託そう思うて。」

「はぁ。まあ、いいけど。というか珍しい人だったんだね。」

「そやな。あっ、そいつまだ名前があらへんねん。つけたって。」

「うん。でも少し考えるからダスティーと挨拶でもしててね。」

銀の毛の人間は私を抱き上げ、黒いやつの横に下ろした。黒いやつがこっちを見て、

「誰だ。ここは俺ん家だぞ。」

「あの人間達がここに連れてきたの。」

「ニアが連れてきたのか。なら良いやつで間違いないな。」

と誇らしげに言った。

「"ニア"って何?」

「あいつの名前だよ。あいつを呼ぶときにニアって言うんだ。ちなみにニアは世界一いいやつだぞ。ご飯くれるからな。」

「ふーん。じゃあ、貴方はなんて言う名前なの?」

「俺はダスティーだ。かっこいいだろ。」

「名前か。いいな。」

「お前のは今ニアが考えてるてるぞ。これからここに住むんだからな。」

「そうなの?楽しみだな。」

名前もこれからの暮らしも。どちらもすごく楽しみだ。お母さんと兄弟達にはもう会えないけどけど、ここで頑張ってみよう。

すると、ニアがうーんと唸ったあと近くのお花を見て言った。

「ベルギア、、、ベルギアにしよう。」

「ええ名前やな。」

「ハーデンベルギアからとったの。花言葉は"運命的な出会い"ベルギア、ここに来てくれてありがとう。これからよろしくね。」

ニアはこっちを見て、ニコニコしていた。あの金の毛の人間も。どうしてだろう。

「お前は今日からベルギアだそうだ。よろしくな。」

「ベルギア。うん。よろしく!」

嬉しい。名前と新しい家族ができた。

これからベルギアとしての新しい生活が始まる。

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幸せの魔法 柳 黎 @07031027

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