2話 見送り
カルツォがこの家に来て、2日が経った。部下のビエルの怪我も完治し、今日母国へ帰るとのこと。
「随分とお世話になりました。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
丁寧なお辞儀をされ、
「いえいえ、前にも言ったように助けたいと思ったから助けたんです。それに無事回復して良かったです。」
と伝える。2人ともとても良い人達で2人と過ごした時間は充実したものだったし、あっという間だった。でもビエルの目覚めにはビックリしたなと思い返す。
昨日の晩-
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」家中に響く叫び声と共にドアを勢いよく開け、
全身包帯だらけの男が出てきて、その場に膝をつく。
「どうした、ビエル」
ビエルと呼ばれた男に肩を貸し、自分の座っていた椅子に座らせる。すると、今自分が出てきた方を指さし、
「ね、 ね、 猫が」
そこにはダスティーがちょこんと座り、前足の毛繕いをしていた。ダスティーの元へ駆け寄り、抱き上げる。
「すみません。驚かせてしまって。ダメでしょ、ダスティー。お客様を驚かせたら。」
大きく口を開け、呆気にとられた顔でこちらを見ている。
「まさか、、、魔女」
一瞬、ドキッとしたが、
「阿呆、お前を助けてくださった方だ。」
と聞き、ふぅとため息をつく。
ビエルは姿勢を正す。
「敵人でありながらも治療をして下さり、感謝いたします。先程の無礼をお許しください。名をビエルと申します。」
さすがは騎士だ。どこの国でも恩人に最大の礼儀を尽くすのは変わりないらしい。でもここまでやられると照れるな。
「良くなったようで何よりです。私はニアと申します。何かお食べになりますか?お腹が空いているでしょう。」
「いただきます。軽く食べられるものでお願いします。」
「はい」
キッチンへと向かう。卵がゆと今が旬の白菜のスープにしよう。
いつもとは違う状況だが、人がいるというのも賑やかで楽しい。リビングの方から声が聞こえる。
「猫、怖くないんすか。しかも黒ですよ。」
怖がるのも無理はないか。あれが普通の反応だ。
少し悲しくなるな。
「何故、怖がる。こんなに愛らしいのに。猫に何かされたのか。」
違うでしょう、と1人でに苦笑いを浮かべる。
「いや、違いますけど、それに何故敵人に助けを求めたのですか?」
それは確かに、リヤードからビエト王国まではここに来るよりも遠くないはず。それにビエト王国には戦場救護軍という負傷した兵士を救護する組織があると聞いた事があるのだが。
「お前が負傷したとき、戦場救護軍が爆撃をうけて救護どころではなかった。それを含め、リヤードからビエトまでの最短の道は敵が潜んでいると推測したまでだ。そして、お前がもう無理そうだなと思ったとき薬屋という看板が見えたから一か八かで助けを求めたんだ。」
ちゃんと考えがあってのことだったんだ。部下のためとはいえ、すごい賭けに出たな。
ある程度話を盗み聞きしていると、あっという間に料理が出来上がっていた。いい匂い。上出来。
「お待たせしました。」
ビエルの前に料理をそっと置く。いい匂いにビエルはいつの間にか笑顔になっていた。
「いただきます。」
口に合うか心配だったがスプーンの進み具合をみるとその心配は無さそうだ。
ご飯を食べ終わり、その日は眠りについた。まだビエルの怪我が完治した訳では無いので明日も忙しくなりそう。
翌日、いつもより早く目覚めた。
「おはよう。ダスティー。ベルギア。」
いつものバイカル帝国の伝統的な刺繍が施されたワンピースを着て、その上に橡色のチョッキを着る。髪をリボンで括り、銀髪を隠して、これで完璧。自室を出て、階段をおり、キッチンへ。
麦のパンに昨日の白菜のスープにサラダ。騎士の食べるものよりは豪華ではないと思うがきっと美味しいはず。2人を起こしてこよう。
まずは、カルツォの部屋へ。コンコンコンとノックをする。
「おはようございます。」
「・・・」
あれ?起きてないのかなと思っていると、ドアがゆっくりと開き、寝ぼけて目が開ききっていないカルツォが出てきた。昨日のきっちりとしたイメージが逆転、少しだらしのない様子にクスッと笑ってしまった。
「おはようございます。」
元気のない声で返事をする様子は幼い子供のようだ。
「ご飯できていますよ。水はあまり使えないので顔は洗えませんが、外に出てきてはどうですか。寒いので目が覚めますよ。」
窓の外に広がる銀世界に目をやる。家の前の湖は凍りついており、水晶のように太陽の光をうけて輝いている。顔を洗うよりよっぽど目が覚めそうだ。
「そうします。」
「寒いのでちゃんと着てくださいね。」
寝ぼけてそのまま出ていきそうで心配だ。
次にモストの部屋へ。ノックをする前に、ドアが開いた。
「おはようございます!」
あら、こちらは元気。その明るさにこっちも自然に笑顔になる。
「おはようございます。」
「いい匂いがしますね。」
ご飯の匂いにつられたのか、もう食べられることと伝えるとすぐに下へ降りていった。こちらはやんちゃな子供のようだ。ご飯を食べ、ビエルの包帯を変える。そして、リハビリがてらに森を散歩する。ダスティーもベルギアも着いてきた。
というようにもう1日もあっという間に過ぎていった。
2人は朝早くに出発した。最後までお礼を言われた。だんだんと小さくなっていく2人の姿を見えなくなるまで見つめる。
「うぅ、さむっ」
2人の姿が見えなくなった。
これ以上、外にいると風邪を引きそうなので、家の中へ入る。中ではベルギアが窓際で名残惜しそうに外を眺めていた。
「ベルギア、どうしたの。2人が恋しいの?そんなところにいると冷えちゃうよ。」
ベルギアを抱き上げ、椅子に座り、膝に下ろす。
「ベルギアはあったかいねー。大丈夫。きっとまた会えるよ。」
にゃーと嬉しそうに返事をするベルギアに笑いかける。すると、邪魔をするようにダスティーが肩に乗ってきた。
まだまだ外は寒いが温かい気持ちになった。
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