第113話 最後に良いものを見る事ができたでしょう?


「は? な、何で俺の行使した魔術がいきなり消えたんだ? そもそも炎と呪いを合わせた、この世界ではまだ数例しか存在していない混合魔術の一つだというのに……っ!? おい貴様っ!? いったい何をしたんだっ!?」

「何って、このご主人様から頂いた護符なのだけれども、段位七以下の魔術は、この護符の効果を無効化されない限り全て無効化されるという効果を持っているので、ただ単にあなたが行使した魔術の段位が七以下だったというだけなのだけれども、まさか裏組織で作ったとっておきの魔術が段位七以下しかないとか拍子抜けも良いとろよね」


 ホントに、バカとはいえ裏組織でそこそこの地位に就いていそうな元Sランク冒険者が自信満々で行使するくらいなのだから多少なりとも強い魔術を行使して来るものと思っていたのだから段位十は無いにしても九くらいの段位はある魔術を行使してくるのではないかと身構えていた私の、まだ見ぬ高段位魔術に出会えるワクワクを返して欲しい。


「畜生ぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!」


 そして恐らく先ほどの魔術がこの可哀そうなバカにとって一番強力な魔術だったのだろう。彼はそれに心折れたのかその獅子の腕を振りかぶり、鋭い爪で切り裂こうとしてくるではないか。


「魔術が聞かないから物理で切り替えるとか……。初めからそうすればいいのに……このままだと最初から最後まで可哀そうな存在だったわね。それだと流石に可哀そうだから、今度は私たちのとっておきである【魔力式装備鎧】を見せてあげる。冥土の土産というやつね」


 私は、相手の切り裂き攻撃を避けると、ご主人様から貸していただいている【魔力式装備鎧】を見せてあげる事にする。このネタを地獄に持って行けばきっと話の種くらいにはなるだろう。


 この世界にとってゴミのような存在に対しても、私は最後に良い思いをさせてあげるのだから、このバカにとってきっと聖女のような存在に見えるだろう。


 そして私は【魔力式装備鎧】を起動して、狼型の装甲に包まれ四足歩行になる。


「な、何だそれは……?」

「同じ獣系だけれども、ドロドロに溶け始め、悪臭を漂わせながら最終的に死んでしまう不完全で見た目も最悪な貴方と違って、そもそも使用したところで死なない上に艶光りする無機質な光沢は実に美しいと思わないかしら? 最後に良いものを見る事ができたでしょう?」


 そして私は、あんな汚らしいものでご主人様から貸していただいているこの装備一式を汚したくないので、右手に魔力を込めてそのまま斬撃を飛ばす。

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