第111話 至極当たり前の事


 たったそれだけの事でこのバカは対処できなくなり、右足と残っていた左腕を失うではないか。


「少し、いや……かなり弱すぎないかしら? 正直言ってがっかりだわ……。もう少し楽しめると思っていたのだけれど……所詮表で生きる事ができないような者は、こんな程度なのでしょう」


 本当に、拍子抜けも良い所である。


「……ば、化け物め……っ!!」


 そしてこのバカは両手と片足を失っても尚、その目はまだ死んではいなかった。


「この俺をここまでコケにしやがった事を後悔させてやるっ!!」


 そう言うと目の前のバカの身体が膨張し始めると、まるで魔獣のような見た目へと変貌していくではいか。


 そして、潰れた腕や失った手足も新しく生えてきており、その姿は伝説の魔獣であるキマイラを連想する姿をしていた。


 悪く言えば様々な魔獣や魔物たちの部位を取って付けたような姿である。


 基本的な身体の形と顔は大型のネコ科系統の魔獣の顔を、背中には白い翼、尻尾には蛇、そして、その魔獣の首に当たる部分にはノーマンの上半身がる異様な姿なのだが、その姿を維持する事が難しいのか、溶けて崩れていっているではないか。


 恐らくこの状態だと私が何もしなければ一時間と経たずして身体が崩れ去り、死んでしまうだろう。


 相手が私を襲って来なければなのだけれども。


 しかしながら化け物と成り下がった目の前のバカ(上半身部分)の表情は私を獲物としてみているのがその表情から伝わってくる。


 化け物になっても自分の感情は駄々洩れなのは変わらないようである。むしろ酷くなっているまである。


「俺がこの姿になったからには、お前はもう生きて帰れないぞ? 文字通り俺の命を賭けて貴様を殺してやる……っ!!」

「……えっと、初めから殺すつもりで襲って来ておいて、元から殺し合いの時点でお互い命は賭けているとは思うのだけれども、その言葉は流石にダサすぎて引いてしまうわね……。元々低かった知能も、化け物に成り下がったせいでさらに低くなったのでは?」


 そして相手は今さら何を言っているんだろう? というような至極当たり前の事を偉そうに言ってくるので、そのまま伝えてやる。


「許さん……許さん……許さん許さん許さん許さんっ!! 貴様ごとき小娘など我が組織オリジナル魔術、その中でも限られた者しか行使する事を許されていない非常に強力な魔術を貴様にお見舞いしてやろうっ!! この俺に切り裂かれて死ねればまだマシだったというのに、貴様の最後は想像を絶する苦しみの中で死んでいけっ!!」

 

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