第110話 楽しい時間が延びるだけ


 しかしながら、たった一度の【鎌鼬】を防ぎきって安堵しているようなのだが、それだけで私が終わらす訳がないというのに……。


 どこまで行ってもおめでたい頭をしているようだ。


「だれが一度だけ行使すると言ったかしら?」

「……くっ!」


 そして私は単発の詠唱が防がれたので、今度は二つ同時に【鎌鼬】を行使する。


 右腕が潰れている状態でも相手は何とか残った左腕と予備であろう短剣で防ぎきるのだが、それでもやはり片腕がないというはかなり大きいようで、何とがギリギリ防ぎ切った事が相手の表情から伝わってくる。


 というか、このバカは先ほどから感情などがその表情から筒抜けなのだがバカなのだろうか?


 いや、バカなのだからバカなのだろう。


 そして相手が自分の感情を読まれない為の努力などをしてこなかったという事は、いままでそれをせずに生き延びる事ができるだけの何かを隠し持っていると思ったほうが良いだろう。


 まぁ、それが何であれこの馬鹿と私とのレベル差を考えれば大した事はないだろうが、少しの油断でこの馬鹿に負けるなど、屈辱の極みであるし一応警戒しておいて損はないだろう。


「防ぐのは良いのだけれども、防げば防ぐほど地獄が長引くだけだからさっさと諦めて、首を切り落として死んだ方が良いと思うのだけれども? ほら、次いきましょうか」


 そんな事を思いながら私は、今度は【鎌鼬】を三つ同時に行使する。


「ぐ…………ほざけっ!!」


 そしてこのバカは何とか私の攻撃を防ぎきってみせるではないか。


 先ほど二つ同時で精いっぱいだった筈なのに、この短時間で成長したのか、生への執着で限界を超えたのかは分からないが、これがこの馬鹿が冒険者ランクをSランクにまで上り詰める事ができた要因の一つなのであろう。


 まぁ、私からすれば楽しい時間が延びるだけなのだが……。


「あら、上手に防ぎきれましたねっ!」


 そんなバカに対して私はまるで子供を褒めるように、拍手しながら大げさな態度で褒めてあげる。


「うーん、そうね……。次は四つ同時というのも芸がないので次はあなたがバカにした【鎌鼬】三つ同時に行使するのを三連続でいってみようかしら」


 そして私は【鎌鼬】を三つ同時三連続の計九つ連続で行使するのだが、今度は連続性を持たせるだけではなく一つ一つの【鎌鼬】に費やした魔力量をバラバラにしてランダム性を持たせて行使する。


「く……っ。こんなもの初めから分かっていれば防げないものではない…………あぎゃぁぁぁぁぁぁぁああっ!?」


 

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