第109話 いじめて差し上げましょうか


 そう私が言うと、相手の表情が一瞬だけ怯えた表情に変わった事を私は見逃さなかった。


 いくら元Sランク冒険者と言えども、いや、元Sランク冒険者だからこそ自分の攻撃を自分よりも下だと見下した相手に腕と剣ごと攻撃を潰された事によって私に対して恐怖心を抱いてしまったのだろう。


 なんだかんだ言ってもSランクまで上り詰めたという事は、目の前にいる私が自分よりも強いという事を本能で理解してしまったのだが、だからこそ恐怖心が表情に出てしまったのだろうが、頭では私のような小娘よりも弱いと認めたくなかったのだろう。


「結局、そうやって今までの経験則からくる直感よりも自分の肥え太ったプライドの方を取るような奴だからこそ冒険者稼業も上手く回らなくなり、結局裏社会の用心棒のような仕事で食いつないでいくしかないまでに落ちぶれたといったところかしら。なさけないわね、まったく」


 ちなみに私はご主人様に教えていただいた無色魔術段位一【鑑定】で相手の実力がある程度わかるので、このバカのような事にはなりにくいとは思うのだが、それでもご主人様から『信じすぎないように』と注意されているように【鑑定】の内容は参考程度にとどめている。


 それでもこの馬鹿と私ぐらいの力量差があれば、不意を突かれない限りはまず負ける事は無いとのこと。


 なので私は安心してこの馬鹿に対して舐めプレイをできる訳である。


「…………」


 そして、私に言われた事が図星だったのか、また顔を真っ赤にして怒っているのが見て分かるのだが、今度は先程腕を潰されたためか私に襲い掛かる事は無かった。


 というか、これほど怒りの感情をコントロールできないような者が良く冒険者ランクをSランクにまで上り詰めたものである。


 普通であればその性格が災いしてとっくの昔にしんでそうなものであるのだが……だからこそ長生きできずに今日私に殺されるのだろうけれども。


「腹が立つのならば先ほどのように攻撃してくればよろしいのに……学習できるだけの脳みそは何とか残っていたという事かしら? ですが、私に喧嘩を売った時点で遅すぎるんですけれども……。さて、長話もなんですし……そろそろいじめて差し上げましょうか」


 そして私は無詠唱で風魔術段位三【鎌鼬】を行使する。


「……なんだ? 何が来るのかと警戒したのだが、結局先ほどと同じ風魔術段位三【鎌鼬】をただ普通に無詠唱で行使するだけじゃねぇかよ。 ビビらせやがって」


 すると目の前のバカは、私が行使した魔術が先ほど難なく捌けた魔術、風魔術段位三【鎌鼬】である事を確認して心底ほっとしたような表情で捌いていく。



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109~113話 サポーター限定で更新いたしました

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