第66話 …………見事っ!!


「知ってるか? 世の中には打撃専用の武器がある事を」

「来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなっ!!」


 そして相手の男性がゆっくりと俺の方へと歩いて来るので、なりふり構わず殴りまくる。


 しかし相手の男は、今度は俺の攻撃を防ぐ事すらせず、そのまま歩いて来るではないか。


 いったいこの男の身体はどうなっているというのか。


 ありえない。


 こんなの事が、俺の攻撃をまともに喰らって無傷な人間などいる筈がないっ!!


「まぁ、そう暴れるなよ。拳を極めた攻撃というのがどういう物か見せてやるよ」


 そう男性は言うと何もない空間からサイコロ状の黒い物体を取りだし、起動するではないか。


 どうやらその黒い物体は魔道具のようで、起動すると相手の右腕に張り付き、手先から肩まで覆っていくと、肩の部分には鉄の板で出来た羽のような物が付いており、その手先は猛禽類の足のような爪があり、手の甲には何かが光りながら回転しつつ空気中の魔素を取り込んでいるのが見て分かる。


 その形は、今まで俺が生きて来て一度も見た事も無い武器であったのだが、そのヤバさは見ただけで分からされてしまう。


 それと同時に、俺は相手の男性が装着している武器に見入ってしまう。


 一見甲冑の腕の部分だけのように見え、そして実際にそう思い馬鹿にする者も少なくないだろう。


 しかしながら今まで己の拳だけで成りあがってきた俺だからこそ解る。


 あれは拳に特化した武器であるという事に。


 すると、肩部分にある板で出来た羽のような物が『カシュッ』という音と共に開くと、相手の腕の周辺に目視で確認できるほどの高密度の魔力が渦巻き始めるではないか。


「どうだ? 魔術と科学の粋を集めてできたこの拳専用の武器は?」

「…………控えめに言って美しい」

「分かっているじゃねぇかよ。今の俺は気分が良い。せめてもの情けだ。苦しまずに殺してやろう」

「無理だと分かっちゃいるが、泥臭く抵抗させてもらう」


 俺が相手の武器を褒めた事がよほど嬉しかったのか、相手はご機嫌そうに俺を苦しまずに殺すと言うので、最後まで抵抗する旨を告げて殴りかかる。


 しかし、次の瞬間、俺の腕は真っ二つに裂けてしまっているではないか。


 何故とは思わない。


 単純に相手が俺の拳に合わせて拳で攻撃を合わせたのだろう。


 その結果俺の拳が打ち負けた。ただそれだけである。


「…………見事っ!!」


 そして俺は最後に高みを知れたという幸福感に包まれながら意識が途切れるのであった。

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