第52話 祈るように窺う


 そしてやはり、新しい戦法を取り入れた所で戦い慣れしていない雰囲気や、駆け引きの粗さ等はどうしても伝わってしまうのだろう。


 それでも、それ込みで勝たせていただきますわ。


 その為に今まで『爆発系の魔術陣』しか行使して来なかったのだから。


 ルーカス様から貸して頂いた魔術陣の本。そこに書かれていた様々な、魔術陣を活用した戦法は勿論物凄く為になっているのだが、その中でも『戦いとは相手の思考を誘導させた方が勝利する』という考え方は、わたくしの核となっている。


 早い話がブラフやフェイントを織り交ぜ本命を当てるように誘導するという事であり、


 そしてこの模擬戦でわたくしが行っている事は『無い』と相手に思わせる事。


 その為には見た事も無い戦法を使い相手の思考を鈍くさせる事、そして隠し玉を見せ、更に攻撃パターンを切り替える事により相手の容量を圧迫してきた。


 隠し玉は最後まで隠してここぞというところで使うから隠し玉なのである。


「さぁ、ここから私は攻めに転じましょう」


 そして、その隠し玉を使うのならば、相手が『わたくしの攻撃パターンを読み切った』と勘違いした今だろう。


「あら、わたくしはまだお早いと思うのですけれども?」

「なっ!?」


 そういうとわたくしは今まで行使していた魔術陣の数倍以上の大きさ、そしてその魔術陣を何重にも重ねて、ついでに逃げられないよう万が一を想定して結界魔術で試験官を四方で囲み、魔術陣を発動させる。


 下に張った魔術陣は土魔術で地面を液状化させ、上の魔術陣は重力増加、前後左右にはとりもち状の非常に粘着力の高い物を無数に飛んで来る仕組みにしてある。

 

 そして、当然何重にも重ねて行使しているので一回で終わる訳が無く、しかしながら同じ内容であれば見切られる可能性もあるので、バインドロック系の魔術陣を様々な属性で発動したり、重力増加の魔術を上側ではなく前後左右ランダムで行使して試験官の三半規管を狂わしにかかったりと大盤振る舞いである。


「これを全て対処されたら流石のわたくしもお手上げですわね」


 そんなこんなで五分ほど経った頃にわたくしは攻撃の手を停めて中にいる試験官の様子を祈るように窺う。


「…………参りました。さすがです……。リリアナさんのAランク昇級試験の合格を認めましょう」


 すると、身体中とりもちに覆われて泥だらけの顔と手足の先だけ出て、その手足ですら蔓や鉄などによって縛られ大の字で固定されている試験官の姿がそこにあり、わたくしの試験合格を告げるのであった。





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