第51話 ある意味で贅沢な悩み


 そう啖呵を切ったのは良いものの、試験官にはわたくしが対人戦の経験が少ない事がバレている以上、まともに戦った所で間違いなく勝てないだろう。


「その意気込みは良いし魔術陣メインで戦うという戦闘も面白いのだが、勿体ないのがやはり経験の少なさか……。まぁ、このレベルであれば、私の攻撃を耐え凌げれば昇級圏内ですので頑張ってくださいね」

「……くっ、澄ました顔をできるのも今の内ですわよっ!?」


 しかしながらわたくしも対人戦の経験の少なさは理解しているので、初めからこのような展開になる事は想定済みである。


「むっ!?」


 だからこそ、何も対策をせずに挑む訳がない。


「流石A級昇級試験官を務めるだけの実力がありますわね。あれに気付いて避けるだなんて……」

「まさか、地面の下に魔法陣の罠を仕掛けていたとは……さすがですっ」


 そしてわたくしが考えてきた対策というのは地面の下に相手が足で踏んだ時に発動する魔術陣を仕掛けていた事であった。


 この方法はルーカス様から貸していただいた魔術陣の本に書いてあった『魔術陣を使った戦い方』という戦法の中から『地雷式罠』という方法を真似た戦法である。


 地雷というのは良く分からなかったのだけれども、あの本に書かれていた魔術陣の知識や戦法は間違いなく帝国の魔術陣の知識よりも数百年は先にある内容であると思えるくらいには帝国の魔術陣の常識を間違いなく崩してしまうような事しか書かれておらず、その知識の差で試験官との実力の差を埋めるといのが、わたくしの戦法であった。


 後はランダムで発動する魔術陣を設置することによりタイミングを読まれないようにする戦術や、魔術陣自体が指定した相手を追尾して発動するものなどを織り交ぜ、相手のリズムを崩す事に徹する。


「急に玄人らしい、実に嫌らしい戦術に切り替えてきましたね。初めの方は私を騙す為にわざと対人戦に不慣れなように装い、それに私が合わせたところで本性を現した……というところでしょうか?」

「いえ、本当に私は対人戦の経験は殆どないんですの。 嘘ではございませんわよ?」


 そもそも私に絡んで来た者は基本的に【拳銃式自動魔力転送媒体器】で一発撃つだけで終わってしまい、対人戦の経験を積む機会は殆ど無いと言えよう。


 こんな、一撃で終わってしまうような状況で対人戦の経験を積める訳も無いわけで、それはある意味で贅沢な悩みなのだろう。


「まぁ、確かに細かい部分で粗が目立つので、リリアナさんがそいう言うのでしたらそうなのでしょう」


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