第35話 泣くときは今ではない
その願いの重さにわたくしは軽々しく首を縦に振ることができずにいると、母竜は悲し気な声音で「どうか、娘を……」と懇願してくるではないか。
「うぅ~~……っ。 す、少しだけ待っていてくださいましっ!! 二時間ほどで戻って参りますわっ!! それまでぜっっっったいに息絶えないでくださいましっ!!」
「…………わかりました。私も母親としての意地を見せてみせましょうっ」
そしてわたくしはそう叫ぶように伝えると、母竜の傷口へ回復の魔弾を、無意味化もしれないけれども一応撃ち込んでから【ホークアイ】の形状を『搭乗型』へと変形し、安全など度外視で最速を維持してルーカス様の元へと飛んで行く。
逸る気持ちを抑えつつ何とかクヴィスト家の戻ってくると『装備型』へと切り替えて中庭へと降り立つ。
「ル、ルーカス様っ!! どこにおりますのっ!? ルーカス様っ!!」
「どうした? リリアナ。そんなに慌てて……何かあったのか?」
「せ、説明している暇はありませんのっ!! 今すぐわたくしについて来てくださいましっ!!」
そしてわたくしは奴隷の身分でご主人様であるルーカス様を大声で叫ぶなどという、殺されても仕方がいほどの失礼な行為で、ルーカス様を探していると、騒ぎを聞きつけたルーカス様がわたくしの元へ来てくれ、怒鳴りつけてもおかしくないにも関わらずルーカス様はそんな事はせずにわたくしが焦っている理由を優しく聞いてくれるではないか。
しかし、そんな時間などないと焦っており、軽くパニックになっていたわたくしはそれすら無視して『いいから今からわたくしに着いてこい』と言わんばかりの事を言ってしまうではないか。
いくら何でも無礼すぎると気付いた時には既に遅く、流石のルーカス様も怒ってしまわれるのではなかろうか? と不安になってしまう。
「……分かった。リリアナがそこまで言うのにはそれだけの理由があるのだろう? それで俺は今からどこに行けば良い?」
「あ、ありがとうございますわっ!! とりあえず、東にある山までついて来てくださいましっ!!」
そんなわたくしの態度にルーカス様は怒るでもなく、疑うような事もせずに信じてくれ、そして今から私が言う場所へ向かうと言ってくださるではない。
ただそれだけの事でわたくしは泣きそうになるのだが、泣くときは今ではないと必死に我慢してルーカス様を伴って竜の親子がいる場所へと最速で向かう。
「お、お待たせいたしましたわっ!! この方はわたくしのご主人様である、ルーカス様でございますわっ!!」
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