第3話 俺は普通に引いた


 そもそも、ここが俺の知っている星ではない時点で、前世で生活していた星へ行くだけの魔力も魔術も無い上に、前世の科学技術ですら月に一般人が旅行へ行くだけで大変なレベルであった。


 無理ではないし安全に旅行でき、月へ旅行と聞いても昔ほど驚くような事ではないにしろ、だからと言って簡単に行ける訳ではないのだ。


 その為、当然その旅費ともなると莫大なお金が必要となり、とてもではないが一般人が気軽に行ける場所ではないのである。


 前世の技術をもってして、月ですらこれである。


 その月以上に、それこそ何億光年レベルで離れているであろう時点で俺は前世へと帰る事は諦めた訳だ。


 それに、幸か不幸かこの世界では前世で行使していた魔術の数々も使えるらしい。


 その事が分かれば十分であるとも言えよう。


 そして、夜泣きもしない俺に両親は心配になったのか医者っぽい人に俺を診てもらったりしたのだが『たんなる大人しい子であり、いたって健康である』という判断をしてくれたらしく、それまではどことなく不安な表情をふとした疑問に見せ始めた両親の表情から一気に不安感が消えていくのが分かった。


 それと同時に、それだけ俺は両親に愛して貰えている事が伝わって来て心の奥深くが温かくなると共に、前世にいるであろう両親には悪い事をしたなという後悔も生まれた。


 とは言っても俺の両親は若い頃にテロ集団の襲撃に巻き込まれて死んでしまったのだが……。


 そんなこんなで俺は両親の愛情を受けながらすくすくと育ち三年が経った頃。


 俺はある事に気付いてしまう。


 そもそも何故その事に今まで気づかなかったのか。


 そう思いながら俺は人差し指に魔力を込めて上から下へ振り下ろす。


 するとどうだ。


 俺の目の前に『メニュー画面』が現れるではないか。


 そしてそのメニュー画面にある『パスワード』という項目に触れて『前世で使っていたパスワード』を入力すると、前世で使用していたアカウントへログインする事が出来、ストレージ中を確認してみると前世で仕舞っていた物が全て収納されていた。


 何故俺は今まで『前世で使っていた人工知能システム』を使えないと勝手に自己判断していたのか。


 取り敢えず使用者の死亡及び使用者権限の移行を済ませてメニュー画面を閉じ──


「何で、生まれ変ったというのに数年間も連絡をくれなかったのですか? マイマスター」


──ようとした所で人工知能が俺へ話しかけてくるではないか。


 しかもストレージから仮の身体を使って俺の意思に反してこの世界へと強引に出てこようとするのだが、その姿がどう見てもテレビから這い出てくる某ホラー映画の化物にしか見えず、その光景に俺は普通に引いた。

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