第2話 最後の賭け


 そして俺の言葉を聞き、親友だった男性は狼狽しだし、顔は真っ青に変化しているのが見て分かる。


「まぁ、嘘だと思うならば自分の目で確かめてみれば良い……」


 ここまで時間稼ぎという意味でも何とか会話を繋げて時間稼ぎをしてみたのだが、やはり心臓を貫かれてしまうと回復させるのは無理のようである。


 そもそも、こいつの依頼主がどのような理想の持ち主であるのかは分からないのだが、それでもまともな理想の持ち主でない事だけは間違いないだろう。


 そして俺は薄れゆく意識の中で、残り少ない魔力を使い最後の賭けに出るのであった。





 最初に目覚めた記憶は、うろ覚えではあるものの両親の顔のアップであったと思う。


 初めこそはその大きさに巨人か何かだと勘違いしてしまったのだが、どうやら俺は最後の賭けに勝ったという事に気が付いたのは数日経ってからであった。


 万が一俺を殺さずに研究施設へと持ち込まれてしまった可能性も捨てきれなかったのだが、どう考えても俺に顔を見せにくる巨人たちは、俺に敵意ではなく好意を寄せてきている事は理解できていた。


 というか厳格そうな初老のオッサンなんか俺の事を見た瞬間に顔が溶けてしまうのではないかと思うくらいにデレデレな表情になってしまうのを見た時は、何故だか見てはいけない物を見ているような感覚に陥ってしまい、良く分からない罪悪感が芽生えたものである。


 そして、俺が最後の賭けに勝ったと確信を得た理由に、まず聞いた事のない言語を使っていた事、窓の外から見える空に月が二つ浮かんでいた事、それを飾る星々もまた見たことない配置をしていた事、そして使用人であろうメイド達が見た事も無い聞いた事も無いスペルで魔術を行使して明かりを灯していた事、周囲を見渡しても電気製品がない事等々、こういった違和感の数々によってここが異世界であり、俺は最後の賭けに勝って『転生』できた事を確信したのである。


 しかしながら、だからといってまさか『別の異世界』へと転生するとは思っておらず、その事実に気付いたときはかなり狼狽していたのを今でも鮮明に覚えている。


 しかしながら起きてしまった事はどうしようもないし、元の世界へ戻る方法も、そもそもどこにあるのかすら分からないのだから、かなり早い段階で前世で過ごしていた場所へ戻る事は諦める事ができた。


 人間少しでも希望があれば縋ってしまい何年も無駄にしてしまう場合も多いのだが、そんな希望など無いと早い段階で理解できれば諦めるのも早いものである。


 

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