第70話 デーモン

 俺たちは地下2階に下りた。そこは灯りはなく、暗闇に包まれていた。ここでは松明に火をつけねばならない。だが困ったことにそんなものは上の階に置いてきた。戻ろうとしたが階段はすでに消えていた。


(ダンジョンを攻略しなければ外には出さないということか・・・)


 仕方がないので暗い迷路を進むことになった。ペロは夜目が効くのか、においでわかるのか、暗くてもへっちゃらのようだった。そのうち俺も暗闇でも目が慣れてきてうっすらと周囲が見えるようになってきた。

 すると前方から人影が歩いてきているのがわかった。こいつもダンジョンの魔物に違いない。俺は両手に棍棒をもって構えた。今度の相手は・・・。

 暗い色の体に頭に角を持ち、背中から翼が生えている。まるでデーモンだ。その右手には剣が握られている。武闘系の奴だ。その剣で攻撃しようというのだろう。ペロは横で牙をむいて「ウーツ!」と唸り声をあげていた。

 そのデーモンからは圧倒的な力が感じられる。生身では危険だ・・・そう判断した俺はすぐに棍棒を降ろして変身ポーズを取った。


「ラインマスク! 変身!」


 デーモンは俺の変身を黙って見ていた。そこに何とも言えない重苦しい空気が流れた。ここは一発かましておかねばならない。


「天が知る。地が知る。人が知る。俺は正義の仮面。ラインマスク参上!」


 だがデーモンは微動だにしない。リアクションが薄くて不気味だ。奴がどれほどの力を持っているか、見当がつかない。


(素手では不利だ。俺も武器を持って・・・)


 ラインマスクは素手で戦うのが普通だ。しかし敵が武器を持つとき、ラインマスクも武器を取って戦ってよい・・・ということに俺はしている。TVのラインマスクではその剣さばきが話題になったほどだ。武器を持っても強いという一面を持っている・・・という設定だ。

 デーモンは剣を振り上げて向かってきた。それを木の棍棒を受け止めようとするが、あっさり真っ二つにされた。あわてて金属の棍棒で受け止める。


(危なかった。上の階でドラゴンを倒していてよかった。そうでなければ奴の剣で斬られていた)


 俺は金属の棍棒でデーモンを押し返した。武器を交わしてみて奴の強さがよくわかった。多分、HT《ヒットポイント》がかなり高いのだろう。奴は小細工など使わず、剣で決着をつけるようだ。

 それなら俺も・・・棍棒を構え直した。双方の間にとてつもない緊張感が走る。ペロもその迫力に圧倒されて吠えることもできない。しばしの静寂の後、先に動いたのはデーモンの方だった。

 デーモンの剣が振り下ろされた。それを俺が棍棒で受け止める。奴は何度も何度も俺に斬りかかるが、それを受け止めて跳ね返す・・・それが何度も続いた。だが武器からして劣勢は否めない。さすがに金属製とはいえ棍棒では奴の剣を受け止めるのに精一杯だ。こうなればこっちの得意な戦いに奴を引きずりこまねばならない。

 デーモンがまた斬りかかってくる。俺はパワーを拳に送り、


「ラインパンチ!」


 を放った。その強力なパワーは奴の剣を跳ね飛ばした。その剣は空中を舞って床に突き刺さる。奴は剣を拾おうとするが、その前に俺はキックとパンチを放った。そのダメージで奴は苦し気に後ろに下がって片膝をついた。


「今だ! ストレートラインキック!」


 俺は助走をつけて飛び蹴りを食らわした。天井が低くて飛び上がることができないので、そうすることでラインキックを放ったのである。それを食らったデーモンは激しく壁に打ち付けられ、息絶えた。そしてその姿は泡になって消えた。後には床に突き刺さる剣が残されただけだった。

 強敵を倒したものの、まだ安心していられない。この地下2階には強力な魔物が待ち受けているのだ。俺はデーモンが残した剣を床から引き抜くと、ペロとともに暗闇の迷路を進んで行った。

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