第69話 石になる首

 それは恐ろしい女の顔の生首だった。頭の毛は蛇になっている。


「メデューサの首だ!」


 その首を見ると呪いによって石になるという。ペロも連れていた帽子の魔物も石になっているのが見えた。俺も気づかないまま進んでいたら石になっていたことだろう。この地下1階にかがり火が焚かれて明るいわけがわかった。こいつを見せて石にしようと企んだのだろう。


 こいつを退治するためには・・・・確かペルセウスが鏡に映しながら首を切り落とした。だが棍棒は平坦ではないのでかなり歪んで見える。これを見ながら戦うわけにいかない。だが俺はヒーローだ。こんな時の対処は知っている。


 俺は布で目隠しをした。よく一時的に目が見えなくなったヒーローがその研ぎ澄まされた感覚で敵を倒すというエピソードは数多くある。改造された俺の聴覚などの感覚は常人の数十倍から数百倍だ。こんなことができるような設定をしているのだ。

 俺は目が見えぬまま角を曲がった。敵の気配がありありとわかる。俺は少しずつそれに近づいた。頭のヘビが動いてこすれる音が聞こえてくる。メデューサの首が攻撃してくる様子はない。金属の棍棒のみを両手でもって大きく振り上げた。ここからはスイカ割りの要領だ。俺は研ぎ澄まされた感覚で位置をつかみ、「えい!」と一気に振り下ろした。すると「グチャッ!」とつぶれる音がした。


「やったか!」


 しばらくしてペロの「ヴァン! ヴァン!」と吠える声がした。メデューサの首をやっつけたから呪いが解けたようだ。俺は目隠しを外した。俺の振り下ろした棍棒は見事にメデューサの首をつぶしていた。

 これで何とか危機を切り抜けた。だが帽子の魔物はどこかに行ってしまった。便利だったから少々惜しくはあるが・・・・


 俺たちは地下1階の開けた場所に出た。ここでこの階のボスキャラと決闘になる。相手は通路から悠然と現れた。やはりそれはミキだった。魔法を使う魔物がいる階にはやはり魔法使いがふさわしい・・・のか?

 ミキの顔は胞子を吹きかけられた真っ白なままで表情はなかった。魔法の棒を構えて攻撃を加えようとしていた。俺はペロに下がっているように命じて、ミキと対峙した。


「ミキ! やめるんだ! 君は俺の仲間だ。思い出すんだ!」


 そんなことを言ってみたが、もちろん操られているミキの耳に届くはずはない。彼女はいきなり、


「サンダー!」


 と雷を落としてきた。俺は何とかそれを避けて、


「ラインマスク! 変身!」


 と短縮バージョンで変身した。ここは仕方ない。ミキが容赦なく雷を落とすのだから・・・。しかしそれにしてもその雷はすさまじい。俺は避けるので精一杯でミキに近づくことはできない。体を侵食しているカビがパワーアップしているだけのことはある。


(このままではらちが開かない。こうなったら・・・)


 俺はパワーを防御に回してミキに突進した。ラインフィーバーは使えず、雷を受けるのを承知で・・・。ラインマスクは百万ボルトの電気に耐えられるという設定だ。するとミキが直接、魔法棒から電撃を放ってきた。それを俺はまともに食らってしまった。激しい衝撃が体を走る。


(まだ大丈夫だ! いくぞ!)


 俺はそのままミキに抱きついた。そして帯電していた電気を外に放った。


「ラインディスチャージ!」


 この技はTVのラインマスクが一度しか使ったことがない。確か、電撃を武器にするデンキデスウナギだったと思うが、攻撃を受けて溜まった電気を逆に放って倒したのだ。今回はミキが耐えられるようにパワーを絞っているが。

 体内のカビは電気の熱にかなりやられたようだ。ミキはそのままぐったりとなった。俺はそのままミキをゆっくり床に寝かせた。

 すると下に下りる階段が出てきた。これでこの階は制覇ということだろう。俺はほっとして変身を解いた。するとすぐにキノコ怪人の声が聞こえてきた。


「ふふふ。地下1階の魔法の迷宮を制覇するとはほめてやろう。だが地下2階ではお前たちでも歯が立たぬだろう。そこがお前の墓場になるのだ」


 この先もまだまだ続く。しかしこんなダンジョンをよく作ったものだ。これほどの労力があればもっと別の作戦ができたかもしれないというのに・・・と思うのは俺だけだろうか・・・。



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