第71話 デュラハン
その先には俺たちを待ち受ける影があった。それは人にしては異形で大きなものだった。その影は俺たちの姿を認めると、暗闇の中を蹄の音を立てて駆けてきた。狭い迷路では逃げ場がない。俺とペロは横の道に逃げた。だがその影は追いかけてきた。
俺たちを阻止しようと剣を持った魔物が襲ってきたが、俺はすぐに斬り捨てていった。俺の剣を潜り抜けていった魔物もいたが、それは後ろから追いかけてくる影によって踏み潰されていくのが背後の気配でわかった。
しかしいつまでも逃げるわけにはいかない。しばらく行くと広い場所に出た。ここで追いかけてきた影を待ち受けることにした。蹄の音を響かせて現れた影は・・・。
それは馬に乗った騎士だった。鎧を着て長い槍を構えている。ただ一つ違うのは乗っている者の首がないだけだった。
「デュラハン・・・なのか」
よくファンタジー系のゲーム出てくる首のない騎士だ。その迫力からして強力な力を持つ魔物に違いない。デュラハンは槍を構えて俺に向かってきた。こんな開けた場所では逃げ場はない。正面から戦うしかない。
俺はデーモンから奪った剣を構えた。だが俺が剣を振るう前にデュラハンに槍が俺を斬り裂いていった。胸に火花が散って鋭い痛みが俺を襲った。だが傷はそれほど深くない。まだまだ戦える・・・。だが奴は2度目の突進をしてきた。俺は斬りつけようとしたがまた奴の槍を受けてしまった。激しい勢いで俺は地面に叩きつけられた。
「このままでは一方的にやられるだけだ。馬に乗った相手では圧倒的に不利。こっちも馬でも用意しなければ・・・」
だがそんな乗り物はない。このダンジョンではスタースクリームを呼ぶこともできない。そばにいるのはペロだけ・・・いや、ペロがいたのだ。
「ペロ! 頼むぞ!」
俺がそう言っただけでペロはすべてを理解してくれた。ペロはMP《マジックポイント》を使ってパワーアップした。グレートウルフより大きくてたくましい体になり、強力なHP《ヒットポイント》を手にしたのだ。
俺はペロの背中にまたがると、
「行け! ペロ!」
と剣を前に向けて声を上げた。ペロは体を大きく震わせて走りだした。相手が馬に乗った騎士ならこちらはウルフにまたがったラインマスクだ。デュラハンもこっちに向かってくる。双方がぶつかった。
「カキーン!」
すれ違いざま、剣と槍がぶつかる音がした。だが勝負はつかない。行き過ぎてから方向転換して、また走りだして交差した。再び剣と槍がぶつかる。鋭い金属音が辺りに響き渡った。しかし双方ともダメージを与えられない。何度も繰り返したが同じだった。
(こんな場合、あの手しかない!)
俺は剣を投げ捨てた。やはりラインマスクは肉体から繰り出す技で勝負しなければ・・・。俺は走るペロの背中の上で立ち上がった。そしてデュラハンが接近してきてその槍が俺を貫こうとした瞬間、飛び上がった。だがここは天井が低い。俺は半回転して天井に足をついてそこで反動をつけて、奴の真上から必殺技を放った。
「バーティカルラインキック!」
それは首のない奴の体を上から押しつぶした。そして俺は華麗に舞って床に着地した。デュラハンは少し走った後、崩れるように倒れた。後は泡になって消えていった。
「ふう・・・。危なかった・・・」
俺は息を吐いた。こんな技はTVのラインマスクでも使っていなかった。天井の低い場所ならではの戦い方だ。もっともTVのラインマスクは普通なら地下でこんなに戦わない。すぐに天井を突き破って外に出て、広いところで戦うのが常である。
ペロは元の大きさに戻っていた。パワーアップは一時的で、MP《マジックポイント》の関係で何回もできるものではない。特に今の戦いでMP《マジックポイント》はかなり減っている。
「よくやった! ペロ!」
俺はペロをほめてやった。ペロは疲れているにもかかわらず、喜んで尻尾を振っていた。
だが俺は異様な殺気を感じていた。それは俺たちに近づいてきていた。相手はもちろんあの男であろう。そこで急にあたりが明るくなった。戦いを盛り上げようというのか・・・。
「カツカツカツ・・・」
靴のなる音が響き、やがてその男は姿を現した。
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