第9節 ダンジョンへ
第65話 ダンジョン1階
キノコ怪人はダンジョンに仲間やとらえた人々を連れ去った。俺は救出に向かわねばならない。期限は3日。キノコの胞子を浴びた仲間が朽ちるまでの時間だ。まずはダンジョンの入り口を探さねばならない。
こんな時、ペロは役に立つ。鼻を利かせて仲間たちの臭いを追っていける。実はラインマスクの嗅覚も鋭いらしいのだが、さすがに犬みたいな恰好で嗅ぎ回るのはやめておいた。それに俺は変身を解除している。ダンジョンに入ればMP《マジックポイント》を補充出来ない。できるだけ節約しなければ・・・。
やがてペロが入り口を探りだした。
「ヴァン! ヴァン!」
と吠えて俺に気付かせようとしていた。そこは大きな岩の真ん中にぽっかりと穴があけられている洞窟の入り口だ。ここからダンジョンが始まる。
洞窟の中は暗い。明かりがあればいいが・・・。普通なら同行する魔法使いが照らしてくれるのだろう。だが俺一人だ。この場合、松明か何かを自前で用意しなければならないのか・・・。そう思っていると入り口にマッチと松明が置かれていた。俺をダンジョンに引き入れるためにジョーカーが用意したのだろう。
そっと手を伸ばして取ってみたが罠ではなさそうだ。松明に火をつけたところかなり明るい。そして消えにくくて持ちもかなりよさそうだ。かなり上等な、いやダンジョン用の松明を開発しているのかもしれない。
(用意のいい奴らめ!)
考えてみるとこのジョーカーという組織、変なところがきちんとしている。大きな組織だからか・・・そんなことはどうでもいい。とにかく中に入るだけだ。
「さて気合を入れていくか!」
俺は。顔を両手でパンと叩いて中に入った。
ダンジョンの中は松明のおかげでよく見通せた。普通、地下4階だとか下に下りていき、それぞれの階に敵が待っているようだ。この階は・・・と思っていると、コウモリのお化けみたいな魔獣が急に現れた。
レベルいくつとか、HP《ヒットポイント》がどうだとかわかる奴にはわかるらしい。だがこの俺にわかるわけはない。そんなものは無視して戦うだけだ。生身では無理だと思って変身しようとすると、いきなりペロが魔獣に飛びかかった。
「ペロ!」
俺はペロがやられてしまうのではないかと思った。だがペロは相手の喉に咬みついている。コウモリの魔獣は羽ばたいて飛び回って暴れていたが、やがて地面に落ちた。そして動かなくなってその姿を消した。ペロが魔獣を倒したのだ。
「えらいぞ! ペロ!」
俺はペロの頭をなでた。ペロはうれしそうに尻尾を振っていた。そこでふと横を見ると床に太い棍棒が落ちていた。確か、さっきはそんなものはなかったはずだ。
(魔獣を倒したから現れたのか?)
俺の浅いゲーム経験ではそうとしか思えない。倒したのはペロだが、これは俺が使わせてもらうことにした。振ってみると妙に手になじむ。
(これなら弱い奴なら倒せそうだ)
そう思ったからだろうか。今度はスライムが出てきた。俺はペロを制して前に出た。確かスライムはレベル1とか弱い奴だ。この俺でも倒せそうだ。
「えい! えい!」
俺はスライムに向かって何度も棍棒を振り下ろした。だが奴はぐにゃぐにゃしていてダメージをあまり受けていないようだ。スライムの方もレベル1の俺を侮っているのか、襲い掛かってきた。当たってもダメージは少なそうだが、もし頭を包み込んできて窒息させられたらたまらない。俺は必死になって棍棒を振り回した。その甲斐もあってやっとスライムを退治することができた。俺はほっとしたが、息はかなり切れている。
今の俺のレベルではこれぐらいが関の山だ。ペロは、
「ヴァン! ヴァン!」
と嬉しそうに吠えている。(よくやった!)と上から目線でほめてくれているようだ。それは仕方がない。ペロの方がレベルが上なのだから・・・。
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